第4話 恐怖

しき井惟呂羽いいろはは朝、桃色の髪を高い位置で結び、元々碧色あおいろの瞳にもっと鮮やかな青いカラーコンタクトレンズを装着する。惟呂羽は誰よりも綺麗でいることに自信がある。その自信の中には色欲の能力者だから美しくなくてはならないといった使命感のようなものもあったのかもしれない。

惟呂羽は絶対に部屋の外に出ないと誓っていた。もし誰かが殺されても自分は動いていないのだからそれを何かに記録しておけば絶対に疑われないし、殺される心配だってない。

この塔の部屋の鍵は特殊で、本人の好きなもの、嫌いなものを応えた後に普通よりも複雑な形の鍵を差し込むことで開く。セキュリティ万全だ。部屋には充分な食料があるので一・二週間引きこもる分には何も問題はないだろう。食料がなくなったら人が多い時間帯になるべく人目に触れるようにして食料を持ち出せばいい。計画はバッチリだ。大体一年かそこらで塔からは出られるだろう。前例は聞かないしよくはわからないけれど大丈夫だろう。そう思っている矢先。コンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「惟呂羽さーん!いるっすか?」


声の主は話し方と声の高さ的に砦だろう。


「どうしたのぉ?」


居留守するつもりだったのに無視できない性格なのだ。モテるが故に。


「全然会わないから心配になって。」


砦は本当に心配している様子だ。声色が落ち込んでいるようにしおれている。


「入ってもいいっすか?あ、勿論武器は持ってないし自分の能力も攻撃系ではないっす」


実を言うと惟呂羽の能力も攻撃系ではない。

回復系でもないので実戦ではとても不利だろう。それもあって引きこもりになっていたのだ。疑わしい気持ちもありつつ、少し寂しかったので砦を中に入れることにした。


「いいよぉ、入ってぇ」


扉は少々音を立てて開き砦にぶつかった。


「痛いっすよ!」


頬を膨らませた砦はプフッといきなり吹き出し、それを大笑いに変えた。つられて惟呂羽もクスッと笑った。


「何か食べ物ないっすか?持ってきた物全部食べ尽くしちゃって...」


砦は頭をポリポリと掻いて苦笑する。


「あるよぉ、お肉とか野菜とか。あんまり食べちゃダメだけどねぇ。何がいい?」


「肉がいいっす!良ければ...ですけど」


砦なりに多少遠慮したらしい。

選択肢を提示しておいてあげないのもなんなので肉を焼くことにした。


「ちょっと待っててねぇ」


惟呂羽は火が苦手なので生野菜ばかりでしのいで来たから肉の火加減がわからない。...なので焦げてしまった。


「ごめんねぇ、焦げちゃったから作り直すねぇ」


「もったいないっす!美味しそうっすよ!」


中々に丸焦げな肉を見てどうしてこんなに目を輝かせられるのだろうか。


「美味しい?」


「あー、自分味覚ないんすよ。永遠に満腹にならないなんて少し羨ましいかもっすけど苦痛でしかないんすよ、自分には」


申し訳ない気持ちに呑まれた。


「なんかごめんねぇ」


「いいっすよ!それより、何か遊びません?つまらないでしょうし、少しでもストレス発散に!」


気を遣われたのはわかるがここは乗っておこうと思った。


「取ってきますね!ボードゲームがあったはずなんで!」


「ありがとぉ!さっきはごめんねぇ」


ニコッと笑って砦は部屋を出て行った。

数分後、コンコンと扉を叩く音がする。


「空いてるよぉ!砦ぇ」


「悪いな、砦じゃなくて」


「強花...どうして...」


目の前に立つ強花はかまを持っていてそれを振り下ろした。


「ちょっ!何で、強花は口は悪いけどまともで...っ!」


微妙にけ、自分のおのに手を伸ばす。


「がぁっ」


急に背中に激痛が走り立っていられなくなる。痛いというより熱い。斬られた弾みで吐血したので口の中に血の味が溜まる。


「やめ...て」


「恨みはないが、じゃあな」


惟呂羽の意識が遠くなる。


「どう...して」


最後までそれを繰り返した。

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