第6話 疑雲猜霧

大食砦おおしょくとりでは惟呂羽の死後

惟呂羽のパートナーだった早苗に

惟呂羽殺し疑惑をかけられていた。

その場にいただけで武器も手にしていなかったが、砦の能力を知らない早苗達は

砦の能力のせいだと思ってしまっていた。


部屋に閉じこもってはより疑われてしまうと

思い、何度も弁解しようとしたが

早苗には一度も信じてもらえなかった。

砦が自分の能力を公表していたなら

疑われなかったのだろうか。

こうなってから能力を信じてもらうには

誰かと戦うしかないだろう。

砦の能力は受身系だ、

誰かに攻撃してもらえなくては成立しない。


「どうしよう...」


「あの件のことですか?砦さん」


炎が砦に話しかけた。

炎は惟呂羽殺しについて他の誰かから聞いた

だけなので、砦が殺したということをまだ

信じきっていないのだろう。

砦にとってはそれが唯一の救いだ。


「困っていたらなんでも相談して下さい。

私はどうしても信じられないんです。

砦さんが惟呂羽さんを殺したなんて...」


「惟呂羽さん、、自分は殺してないんす。

一緒に遊ぼうと、彼女の気を少しでも

楽にしようと道具を取りに行ったんです。

戻って扉を開けたらもう...」


やっと本当のことが言えた。

大切なのは信じてもらえるかではない。

今はただ誰かに本当のことを話したかった。


「私は、砦さんを疑いたくありません。

たしかに誰かが殺したのだと思います。

それでも砦さんでないことはよくわかりますよ、こんなに真っ直ぐな瞳で見られて

疑えません。」


「なに話してんだ?」


強花が話に入って来た。

人一人が殺されたというのに

カラッとしている。


「殺したの、砦じゃねぇんだろ?

んで、早苗が疑ってんだろ?

早苗なんじゃねぇの?押し付けてぇだけだ」


たしかにそうだと思った。

あの時、砦以外の誰かが惟呂羽を殺した。

合歓と恋音は

少しでも砦の話に耳を傾ける気があったようにも思えたがそれを早苗が遮っていた。

砦の容疑が晴れるのを恐れていたようにも

見えるかもしれない。

砦は頭が良い方ではない、

新たな可能性が、自分の容疑が晴れる可能性が見つかればそれを信じてしまう。

そんなの自分でもよくわかっていた。

だが砦が殺していない事実が変わらない以上

今の状態で砦が一番怪しいと思うのは

ある意味自然に早苗になる。

高圧的な彼女がパートナーとの意見の食い違いで殺してしまったということだって

あり得そうな話ではあるのだ。

砦だって疑いたくはなかったが

自分が先に容疑をかけられているのだ

疑い返したって不自然ではない。

そう自分に言い聞かせて無理やり納得した。


その夜、

砦は早苗に自分ではないことを改めて話しに、実は早苗なのではないかという強花から

受け継いだ推理を話しに早苗のいる三階の

部屋へ向かった。

そこでは早苗が剣を持って立っていた。


「今日も来ると思ってましたの」


「丁度良かった、話し合えそうっすね」


砦もナイフとフォークを隠し持っていた。

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