2021/05/23:ファンタジー水道。―――――――――――――――#創作論

 ファンタジー小説を書く上で、衛生関係を考える人は少なくない。お風呂に入る習慣のない衛生観念に乏しい異世界人は、臭いだろうし皮膚病が蔓延してるだろう。衛生面を改善するために必要なのは清潔な水を豊富に利用できることである。汚れた物を水で洗うことが衛生面の第一歩である。


 では、水を供給する手段を考える。現代では水道と呼ばれる設備によって達成されている。ある程度近くの水源から水路やパイプを用いて街近くに水を導く。その途中には取水施設、浄水施設、配水施設といった施設があり、制御されている。

 古代においては紀元前から、多大な労力を賭したとしても水道を作っている。ローマ水道は重力のみを用いて水を導くため、勾配などを精巧に建築しており、長大な水道橋を造り、流体力学を発展させた。


 水が奇麗であるかはともかく、水が無ければ人間は生存できない。つまり、水を供給できる手段を発展させる事は人間の生息域を広げることに外ならない。日本にいると大抵の場所に川があり水質もいいので忘れがちだが、人類史が大河から発生したことを考慮すれば、水の重要性は間違いない。


 ファンタジーの話をする。魔法のある世界を考えると、水を発生させる魔法なんて頻出なのだが、今までの話から重要性を強く感じる事だろう。ただ小説の設定によっては「水が出てくるけど消えてしまう」「普通の水とは違うから飲めない」などと言われて活用できない。魔法の設定にまで足を踏み込むとその話だけで終わってしまうので、取り敢えず残るし飲める魔法の水を想定する。

 どんな小説でもノーリスク、ノーコストで魔法を行使できない。たとえば魔力なんて言う物を消費するだろう。また誰でも魔法使いになれることも無く、水を出せる人材は貴重である。では街の維持に必要な水を供給できる魔法使いは、地域によっては非常に重宝されるのではないだろうか。


 たとえば砂漠の中心に街を築けるだろう。毎朝、街の中心にある魔石に魔力を供給しに行き、日中は別の仕事をする。街は水源の維持を担当してくれる魔法使いには一定の報酬を与え、街に住んでもらう。こういう街を考える事もできる。

 逆に、魔法が発展する前からある古い都市の場合、水源がある場所に所在を設定するべきだろう。王都を山の頂上に設置したい思惑は分かるが、山の上に水を運ぶ技術は結構難しい。水を上に挙げるには非常に大きい圧力差を作る必要がある。この圧力に耐えうるパイプを作れなければ水は上に流れない。井戸の釣瓶のように、容器を往復させる手法もあるが効率に限度があるので大きな都市は維持できない。


 こういった背景を想定して、山岳地帯にすむ魔族というのを考えてみた。

 人間は魔法を使える人が限られまた個々人の魔力量も乏しいので水場の近くに住んでいる。そんな中生まれた魔力量が膨大な魔族は、貴重な魔力源として人間に搾取されていた。しかしとある魔族が立ち上がり、同志と共に人の手が及ばない山岳地帯で建国した。水源やエネルギー源に乏しい山岳地帯は未開の地であったが、自身の持つ膨大な魔力によって解決した。立地の関係で交流の少ないその地はいつしか魔族領と呼ばれ、人間は魔族の王、魔王を恐れるようになった。なお魔族領は山岳地帯の鉱物資源と持ち前の魔法で人知れず発展しているのであった。


 折角便利な魔法を使えるのだからコンパクトなテラフォーミングを設定に組み込んでも面白くなる。


――[テラフォーミング]:天体を人が住めるように変更するプロセスのこと。


 魔法を戦闘だとか派手なことではなく生活に根差した技術だと思って設定を組むと''生きた設定''になる筈だ。


――――――


 廊下の手洗い場に向かう。

 蛇口をひねると水が出るのは普通ではない。水だから当然のことに思えるが、ボタン一つで食料が供給されると考えると異常さに気付く。最近だとAmazonだとかUber Eatsだとかがなんでも運んできてくれるが、時間は掛かる。


 バケツに水をくむ。

 この水だって場所によっては貴重な飲料水だ。私は掃除に使う訳だけど。どんなものであったって場所によって価値は変動する。募金なんてその典型例だ。一人が清涼飲料水を我慢するだけで何人かの命が助かる。「貧困ライン」という言葉があり、1日1.25ドル以下の物を絶対的な貧困と定めているが、日本の価値観とはまるで違う。

 だから私は私の価値観で水を使っている。私一人が我慢しようが、全国民が我慢しようが、アフリカに水が流れる訳ではない。


 雑巾を水で濡らす。

 汚れているのか汚れていないのかよくわからない教室を水拭きすると、雑巾が埃で灰色に染まる。その雑巾を奇麗な水の入ったバケツで洗い、また水拭きをする。数人がダダダと手をついて走り、フローリングの彩色を変える。奇麗になった気がしたら、机を運んで所定の位置に戻す。そうして奇麗になった教室は、奇麗でない上履きによって直ちに汚される。


 埃で汚れたバケツの水は、果たして有益であっただろうか。

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