2021/05/12:音の無いラジオ。――――――――――――――――#吐露

 よくよく考えると、この小説には物語性がなく、強いて言えば評論なのではなかろうか。内容がファンタジーである必要はないとはいえ、登場人物が一人もいない訳にはいかないだろう。ではどのような登場人物にしようか。この小説は毎日書き綴る事を最大の目標にしているので、凝った舞台設定を構成する余裕はない。ならば、個室で一人がつぶやくような、狭い世界観の内容が良い。


 一つ思い付いた。荒廃した世界で、一人、ラジオに向かって話しかける少女はどうだろうか。唯一声を発するラジオを会話の対象に見立てた人形劇。実に重苦しく、色々な話をする上で足枷になるであろう。却下。


 しかしラジオという観点は面白いと感じる。一人で話し続けるということは、どこかに発信する為であると考えるのが自然だ。ならばメールを受け取り、コーナーを回すことで日々放送されるラジオは適切である。さらに言えば、この小説とラジオの違いは文章を眼で見るか、音声のみを楽しむかの違いだけであり、共通点の方が多いように感じる。感想を貰う事をメールを貰う事の代替物として活用すれば、より接近する。


 ラジオと言っても小説らしさを出して、オリジナリティを付与しても良いだろう。小説は文字のみを書き、文字のみを読み続けるがために、表現が制限されると思われる。確かに表現手法としては制限される。しかしアニメなどの映像関連の創作物は多次元的に情報が流れていくため、全ての情報を読者が受け取ることは絶対にない。大して小説は基本的に一本道である。もちろん技巧に気付かないだとか、単語の意味が分からないだとか、そういうのはある。たとえば漢字を連続的に記述し続ける、と目が滑って読まれない。閑話休題。小説が出来る事は多い。多大なる苦労をすっ飛ばして、いかなる環境、風景を描画できる。人物だってそうである。理想のプロポーションを与えられる。


 さて、具体的にどういった構成にしようか。ひとつ、お便り募集をしてみようとは思う。あってもなくても書くことに変わりないが、話題があったほうが書きやすい。他には、何らかの単語の辞書を1つ引用するのはどうだろうか、と思ったが著作権に引っ掛かりそうである。


――[囲繞イジョウ]:周りが取り囲まれていること。


 タイピングミスによって発生した単語を調べてみた。実に使い道のない情報であったが、このように調べた後で文章を再構成すれば問題ないのだろうか。成果を得られない綱渡りをする勇者ではないので、これは保留しよう。ラジオのコーナーと言えば、お便り以外と言えば、音楽鑑賞であったり、お菓子を食べたりする印象だ。音楽鑑賞はともかく、お菓子を食べるのはできそうだ。しかしお金がかかる。毎日100円ずつ消費することを考えると、月に3000円である。できなくはないがしたくはない。


 今回のお便り募集の内容は決まった。文字だけで伝わり、著作権に引っ掛からず、お金がかからない、そんなコーナーを募集する。私はパーソナリティの名前でも考える事にしよう。


――――――

 

 今日は初めて感想をもらったのでそれを題材に書くことにした。引き出しはある程度持っている方だと自負しているけど、引き出しそのものが迷子であり、たまたま遭遇した引き出しの中身しか活用できない。


「今日食べたコンビニのスイーツを題材にするとかできるけど、毎日する訳にはいかないしな……。」


 お金はある程度持たされているが、自分で稼いだ金でもなく、何なら本来誰にも渡される事の無かった金である。幾らでも使えと言われても気が引ける。


「行動力のある人間なら、その時々の場所の描写が出来る。」


 私に行動力は無い。通学路を少し変えた所で大した冒険ではない。なんなら身バレする可能性すらあるので、行動範囲の話はしたくない。


 お茶を汲みに立ち上がる。一人暮らしであるが、リビングに向かうとき階段を下る。今一人で住んでいるからと言って生活環境を私一人のために最適化する気はない。冷蔵庫のペットボトルを取り出し、コップに注ぐ。コップを持って自室に戻る。コースターの上にコップを置くと、再びマウスに右手を乗せる。


 このような平穏な生活はたった数年で終わると知っているが、予想もできない将来に考えを廻らせたところで何か変わる訳もなく、黙々と平穏を享受すべしと今日を過ごし、寝床に向かおう。

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