第50話 サバチャイさんの特訓2

 トラップ 異空間の扉


 タマの意思とは別にトラップが発動される。現れたのは、シャーロット様の水魔法を飲み込んだ例の扉。石つぶての数に合わせて宙に浮かぶ扉の数も複数存在していた。そして、魔法がくるタイミングで扉がパッカーン開くと、石つぶてがそのまま飛び込んでいく。


「ふっ、予想通りね! さすがタマ、期待を裏切らないよ」


「どういうことだ? 魔法が消されただと!?」


「ただ消えただけではないね」


 そう、キース様の頭上には複数の扉が現れて、まさに撃ち出された勢いのまま石つぶてが降り注ごうとしていた。


「キース!」

「わ、わかっている。ドライアド、防御だ!」


 初見にも関わらず、落ち着いて対処してみせるキース様。まぁ、頭上でパカパカと幾つも扉の開く音がしたら気づかれもするか。


 ドライアドは、地面から複数の樹木を召喚してキース様を覆うようにして守ってみせる。小さな見た目に反して魔法は強力なようだ。さすがは中級召喚獣の妖精さんだけはある。


 樹木がボッコボコに削られているのを見ながら、あれを普通に人に向かって撃っちゃうのね、と何ともいえない表情を浮かべながら、次の手を打つサバチャイさん。


「ポリスマン、召喚よ!」


 あっ、そういえばサバチャイここでは人じゃなくて召喚獣だったよ。と思い直すも、やはりどこか納得のいかない、さみしげな視線をしている。


 ポリスマンは召喚されると、すぐに周りを確認して状況を把握しようとする。


「サバチャイさん、誰を狙うんだ?」


「そうね、あのキザっぽい人間は狙っちゃダメね。その隣に浮いている妖精を狙ってほしいよ」


 どうやら、召喚主は狙わないという模擬戦のルールはちゃんと守るつもりがあるようだ。


「……あの、ちっこいのをか?」


「そうね」


「いや、いや、いや、的が小さすぎて無理だろうが、あんなの当てられるかよ!」


「ポリスマン、文句ばっかね。サバチャイ、そんなポリスマン見たくないよ。男ならドーンっと、気合いで何とかしてもらいたいね」


「んなこと言われてもよー。あれ、手のひらサイズだぜ。ルークさんと一緒に追い込めば……って、あれっ、ルークさんは?」


「ルークは別の場所で特訓中よ。しばらく別行動してるね」


「そうかー。じゃあ、しゃーねぇか。まぁ、やれるだけやってみようじゃねぇか」


 ポリスマンは、腰から警棒を抜くとすぐにシャキッと伸ばした。左手に警棒を持ち、ドライアドとキース様に視線を向ける。


「見たことのない武器だな。見た感じ、近距離戦闘用の武器に思えるのだが違うか?」


「近距離戦闘用ね。どうだろうな、すぐにわかると思うぜ」


 そう言うと、ポリスマンはすぐに走り出した。目の前には何も障害物はない。つまり、隠れながら狙撃するという手段が使えない。ならば、拳銃は奥の手として使おうと判断したのだろう。拳銃はポリスマンの腰元にしまわれたままとなっている。


「少し様子を見るか。ドライアド、フォローを頼む」


 片手剣を持ったキース様が一歩前に出ると、ポリスマンの警棒を防ぐために剣で弾こうとする。


「残念、ただの棒だと思って油断もするわな」


 ポリスマンの狙い通り、普通に剣で防ごうとするキース様。


 確か、ギルドマスターが拳銃の弾をそらすようにして、受け流したことはあるが、強化されたこの警棒を剣ではじき返そうとするのは無謀だろう。しかも、力を受け流すことすらしてないのなら、完全に武器破壊に繋がる。


「いや、油断はしていないさ。そんなあからさまに剣で受けるわけないだろう。そもそも、そんなリーチの短い棒で俺の相手を簡単にできると思わんことだな」


 ポリスマンの動きに違和感を感じたのだろう。剣をあわせずに、フェイントを入れてポリスマンを蹴り飛ばした。


 そして、自分というより武器を狙った攻撃を見透かしていたキース様の攻撃は警棒の奪取、いや取れなかったとしても動きをおさえることにあった。


「プラントアーム!」


 その魔法は、体勢を崩したポリスマンの腕から警棒を絡めるようにして、植物の弦で身動きを封じてみせた。


「ちっ、しょうがねぇ!」


 動く右手ですぐさま拳銃を抜くと、弦に向けて発砲一発。生き物のように動き回っていた植物の弦が地面へと落ちていった。


「おいおいおい、とんでもない攻撃を隠していやがったな……」


「もう少し、隠しておきたかったんだけどな」


「火属性か? いや、あんな強烈な爆発魔法は見たことがない」


「見たことはないだろうよ。実際に自分の体で受けてみるか?」


 すっかり、ポリスマンとキース様の戦いかのようになっているが、もちろん黙って見ているだけのサバチャイさんではない。


 拳銃による爆発による影響で辺りが騒がしいなか、突如として銀色の物体が飛んでくる。これは、サバチャイさんが新たに持参したナイフ&フォークセットだ。恐ろしいほどにピカピカに輝き、フォークの細かい爪は芸術の域に入っているといっても過言ではない。もちろんこれも、カッパ・バシ氏による作品なのだという。


「一丁上がりね! やっぱり中級召喚獣は美味しいよ。サバチャイまたレベル上がっちゃったね」


「ドライアド!?」


 サバチャイさんが適当にぶん投げた複数のナイフとフォークは偶然とはいえ、巻き込まれてしまったドライアドが残念なことに光輝きながら還っていった。


「レベルアップだと!? サバチャイさんばかりズルいぜ。次は俺にもレベル上げさせてくれ。ほらっ、次の相手は誰なんだよ」


 吠えるポリスマンに向かう勇者など、この訓練場にはいない。拳銃で手も足も出ずにやられるだけの仕事は、誰もがやりたがらないのだ。たとえそれが召喚獣だったとしても。

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