第49話 サバチャイさんの特訓1

 一方でサバチャイさんの訓練の様子だけれども、思いの外、戦闘面における成長を遂げ始めていた。レッドドラゴンとの戦いで気持ちが吹っ切れたのか、一皮むけた姿を見せ始めていたのだ。


「ファイアベアー、火の玉攻撃の後に突進だ!」


 ぐもおぉぉぉ!!


「まったく、馬鹿の一つ覚えね。そんな攻撃、もうサバチャイには通用しないよ」


 テオが指示したファイアベアーの火の玉を掻い潜り、分身体と前後を挟み撃ちするようにマグロ包丁を一閃。


 ステータスの上昇はもちろん、レッドドラゴンとの戦闘で精神的な成長を遂げたような気がしなくもない。おそらくだが、先手必勝のゴリ押し。やられる前にやってしまえ。目には目をではなく、目を狙われる前に、目を潰しておこうという超攻撃的スタンスと思われる。


「次は誰が相手になるね? サバチャイ、もう熊の相手はやり飽きたよ」


 城の衛兵を中心にひたすら戦闘を繰り返していたサバチャイさんだが、ポリスマンの防具と長尺のマグロ包丁はかなり有能なようで、一般の召喚師さん達では相手になっていなかった。召喚師さん達も一応、中級召喚獣を呼び出せるレベルではあるのだが、中級でもレベルの低い強さの召喚獣がほとんど。最初の模擬戦でシャーロット様に守られていたとはいえ、ファイアベアーを倒してしまったサバチャイさんの敵ではなかったようだ。


「お、お前、双子だったのかよ!?」


「まったく不良少年は頭も悪いね。サバチャイの兄弟は、全員バングラディッシュにいるよ! というか、なんで学園の生徒が城の訓練場にいるね! 授業さぼってるって、うっかり先生に話しちゃうよ。サバチャイ、お前の相手しているほど暇じゃないね。ドラゴンぶっ殺さなきゃならないよー」


 実は、中級召喚をしたテオ様とキース様が特別にサバチャイ強化訓練に参加してくれることになっていた。緊急事態ということもあり、学園でも中級召喚獣を呼び出している生徒は、任意で参加してもらうよう学園に呼びかけをしたそうなのだ。ちなみに、ジゼル様は参加拒否でお休みされている。おそらくだけど、シャーロット様の看病かなと思っている。


「テオ、しばらくサバチャイさんの動きを外から見ていろ。少なくとも模擬戦をやった頃の素人丸出しの動きではなくなっている。次は俺が相手をしよう」


「ちっ、キース、油断するなよ」


「あー、少しは相手になってみせよう」


「なによ、また学園の生徒さんね? 先生も大変よ。魔法学園、不良ばかりね。お前のこともちゃんと先生にチクるから安心するいいよ」


「何か勘違いしているようだが、俺たちは学園の許可を得てここに来ているんだ。先生に話したところで何も問題はない。そもそも、学園は現在無期限の休校状態なんだ」


「おー、そうっだったか? わざわざ休みの日にサバチャイに倒されにくるとか物好きな生徒ね。お前を倒せば、そろそろサバチャイのレベルも上がりそうな気がするよ。お前の召喚獣は何ね?」


 どうやら貴族に対する言葉使いを直すつもりは一切ないらしい。初対面のキース様に対してもこの通りなのでもう無理だろう。


「俺の召喚獣はドライアド。可愛らしい妖精だよ」


 キースの左肩に髪の毛を支えにするようにして立っている小さい妖精。その姿は小さいながらに美しく、挑発するような視線をサバチャイさんに向けていた。身体全体を覆うように植物で作られた服を身に纏っているように見える。植物、木に縁のある妖精ということなのだろう。


「ふっ、今度は、ちびっこが相手ね? サバチャイのマグロ包丁はハエたたき違うよ。すぐにプチっとしてやるから、さっさと来るいいね」


 言葉をちゃんと理解している様子のドライアド。プンプンに怒り心頭のご様子でキース様の肩の上であらぶられている。そして私に任せろと言わんばかりに飛び出していくドライアド。


「お、おいっ、ドライアド。ちっ、しょうがねぇーな、ストーンバレッド!」


 ドライアドの動きをフォローするかのようにキース様がサバチャイさんに魔法を撃った。ストーンバレッド、石つぶてによる攻撃だ。キース様の後ろには大小様々な石が浮かび上がっており、次々とサバチャイさん目掛けて撃ち出されていく。かなりのスピードで撃ち出されているようなので、当たれば擦り傷どころでは済まない。


「なかなかの攻撃ね。自分の攻撃を自ら受けてみるといいよ! 石つぶてには石つぶてを。タマ召喚ね」


 サバチャイさんが選んだ手段はタマの召喚。いつだったかシャルの魔法を跳ね返したことを覚えていたようだ。ヤバそうな魔法が来たらタマを呼んで跳ね返そうと狙っていたらしい。


「なあぁぁー、にやぁっ!?」


 なんだよ、またサバチャイかよ、と召喚されたことを特に何も不思議に思わず、再び寝ようとしたタマだったが、何やらものすごい勢いで撃ち出されている石つぶての音に驚き振り返った。


 すぐ近くまで迫っている危機に対して、予想通りトラップが発動する。


「な、なんだと!?」

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