第51話 サバチャイさんの特訓3

 先程のポリスマンの拳銃攻撃のインパクトは絶大なようで、召喚獣も若干ひき気味だ。しかも頑張ってその攻撃をかわして魔法攻撃をしてもタマのトラップで跳ね返されるのだ。


「お、お前からいけよ」

「いや、ちょっと俺の召喚獣、嫌がってるんだけど……」

「お前のもか!?」




「どうした。様子を見に来てみれば、随分と静かではないか。一体何をしている」


「……」


 とても悪いタイミングで鬼教官ゴリラが来てしまったなぁという表情を全員がしている。この人は、アーセン・ゴドルフィンという王国一番の召喚師でこの特訓の責任者なのだという。


「面倒くさい奴が来てしまったね」


 強者の雰囲気があり、その召喚獣も妙な風格がある。最初見た時は人のような形をしていたのに今は馬の姿になっていた。変身できるとは、まったくもって便利な召喚獣だ。最初はルークの専任で特訓についていたというのに、へばって暇になったのだろう。まったくだらしない商人の息子よ。


「どうする、ポリスマン。あのゴリラは上級召喚師よ。中級とはちょっとレベルが違うね」


「ほーう、あれが上級召喚獣か。確かに俺の知っている馬のサイズじゃねぇーな」


 普通の馬の重さを五百キロ前後だとしたら、目の前にいる馬は一トン近い。脚の太さは踏み抜かれれば頭を潰されかねないし、攻撃も可能なユニコーンのような角があり、若干血で赤く染まっていたりする。どうやらルークはあれにやられたらしい……。


「しょうがない。俺が直々にこいつらの弱点を教えてやる。ほらっ、サバチャイ、ポリスマンお前ら全員でかかってくるといい」


 手のひらを上に向けて、来いよ、と指を折り曲げている。舐めたゴリラだ。


「ポリスマン、タマをサバチャイ一号によこすね。拳銃でゴリラに目くらましをした後に、一号と二号で挟み撃ちして一気に勝負を決めるよ」


「だ、大丈夫なのかよ。つうか、馬じゃなくてゴリラを狙うのか!?」


「あいつは多分、死なないから大丈夫よ。あの馬が防御に回ってくれれば、攻撃のゴリ押しで勝負を決められるかもしれないね」


「ま、確かに人間とは思えねぇ体格をしているか。少しぐらい撃たれても大丈夫そう……だよな?」


 召喚獣同士の対戦というルールから、いつの間にかゴリラから先に攻撃するという流れになっている。召喚獣に跨っているわけだし、自ら攻撃を受けることも厭わないと言えばそうなのかもしれない。というかそんなことはきっと、おり込み済みなのだろう。本人は至って普通にナンバーズシリーズであるフラガラッハを肩に背負うようにして睨みを利かせている。とても殺る気に満ち溢れているのだ。


「よしっ、サバチャイさん用意はいいか?」

「タイミングは任せるね。いつでもいいよ!」


「よしっ、ぶっ殺す!」


 真正面からゴドルフィン様の頭を狙うようにしてポリスマンの拳銃が連続して二発発砲される。しかし、ゴーレムもゴドルフィン様も避ける姿が見られない。レッドドラゴンですら身を守る鱗を剥がし、その身に攻撃を通した威力だ。まともに当たれば命の危険すら考えられる。


「おいおいおい、大丈夫かよ……」


 爆風が晴れると、その場から一歩も動かずに、眉間の先に左手で握り込むようにして弾を掴んでいるゴリラの姿があった。ポロポロと手で握りつぶした弾を落としていく。全くの無傷、そんなものか? とでもいうように口角が上がっている。


「ドラゴンですら目で追えることのできなかった拳銃攻撃を……あの野郎、手で掴みやがった」


「何、気持ち悪く笑ってるね。攻撃はこれで終了じゃないよ!」

「マグロ包丁でゴリラを真っ二つにしてやるね!」


 左右から挟み込むようにしてサバチャイズがマグロ包丁を振りかぶっている。馬というのは横からの攻撃に弱い。ステータスがアップしたサバチャイズによる攻撃は狙い通りに当たるはずだった。


 しかし、寸前でマグロ包丁はスコーンと宙へと飛ばされる。


「痛っ、な、何をしたね!」「ま、マグロ包丁が!?」


 分身サバチャイズの驚きも仕方ない。ゴドルフィン様は小さな石を指で弾くと、マグロ包丁を持つ小指を狙いすましたかのようにヒットさせていった。手から離れたマグロ包丁は何回転かして、サクッと地面に突き刺さっている。もちろん、マグロ包丁だけでなくタマホームのヒモも千切れており、地面に落とされたタマがフシャー、フシャーと激怒していた。


「よし、キング、殺れっ」


 ブルルッ、ヒッヒ、ヒーン!!


 正面を向いたキングが問答無用でサバチャイズを吹っ飛ばしてながら駆け抜けていく。方向的に次はポリスマン。


「おー、参った。さすがは上級召喚師様だけあるな、ぷごっふぇぶほっー!!!」


 手を上げて参ったのポーズをとっているポリスマンを、容赦なく吹っ飛ばしていくゴドルフィン様とキング。とうやら話合いとかが通用するタイプではないらしい。



「ポ、ポリスマン、大丈夫ね?」


「あ、あぁ。……あの野郎、背中めっちゃ強打したけどなんとか無事だ。あの馬、まったく止まる素振りもなかったぞ。ちっ、死ぬかと思ったわ」


 全身傷だらけの満身創痍で転がされてしまったサバチャイズとポリスマン。装備している防弾チョッキがなければもっと酷い怪我になっていただろう。


「いいか、こいつらと戦うときに注意するのはその武器だ。火を吹く鉄も細長い包丁も魔法で先に飛ばしちまえ。拾わせるな、弾け! 武器がなくても、それなりに戦えるように指導してやれ。それから、逃げ出した猫はそっと回収しておくように」


「ちょっ、人数が多いよ!」


「あー、ポリスマンはレベルが上がるまでは別メニューにする」


「た、助かったぜ」


「ポリスマンだけズルいね!」


 こうして、武器とトラップを封じられたサバチャイさんとポリスマンであるが、苦戦を強いられながらもステータスで上昇した体の動かし方を実戦的に体に叩き込まれていくのだった。

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