第40話 レッドドラゴン襲来3
「ならぬ」
「父上、連れていかないのであればこの場所からレッドドラゴンを攻撃して、牙を手に入れるまでです」
囮に行くと言っているお父様の作戦を台無しにしかねない発言だけに、レイモンド様も困った表情だ。
シャーロット様の発言も、元々この場所から攻撃を考えていただけに説得力がある。レイモンド様の表情からは、わが娘だけに本当にやりかねないということを十分に理解している焦り顔が窺える。
「……わかった。ついて来なさい。その代わり、作戦には準じてもらうぞ。もちろん、勝手な行動は許さない。いいな?」
「ええ。もちろんですわ。それに、私たちは上級召喚しているのですから。きっと何かの役には立つことでしょう。なんとかして、レッドドラゴンの牙を手に入れてみせます!」
「そんな簡単なことではない」
状況が少し変わってきた。
本当にレッドドラゴンが物見で来ているのなら、わざわざ下に降りてくるようなことはないだろう。そうなると、牙を手に入れたいシャルからすると面白くない。
少なくとも、レイモンド様も囮の任務を引き受けた理由の一つに、ソフィアさんのことがあるのは間違いない。公爵家が先頭に立って囮部隊を率いるとか普通じゃ考えられない作戦だ。
「レイモンド様、囮にはどのような作戦を考えていたのでしょうか?」
「いい質問だね、ルーク君。レッドドラゴンはキラキラ輝くものと、肉を香草で焼いた匂いが好物と言われている」
「なるほど、匂いで呼び寄せるのですね。あっ、サバチャイさん得意のタイ料理で何とか出来ませんか?」
「調味料も香草も持ってないから、何とも言えないよ。レイモンドパパは、どんな肉と調味料用意したね?」
「肉はロックリザードを三頭分で約二トン。下準備として、マルグリッド茸を腹に詰め込んでいる」
何と贅沢な食材を用意したものか。一頭二百ゴールドはくだらないロックリザードの肉を囮に使うとはいかにも豪勢だ。いや、それぐらいインパクトがなければ囮にはならないのか。
しかも、マルグリッド茸は爽やかな風味が特徴の高級食材。しかも今の時期は決して手に入らない。おそらくは収納バッグで保管されていたものと思われる。ロックリザードの腹に詰め込めるだけの大量のマルグリッド茸、それを収納バッグに入れておくような使い方するのは王族の物と思って間違いない。
「丸焼きなら、火加減を間違わなければそこまで難しくないよ。レイモンドパパ、調理道具を見せるね。サバチャイ、ドラゴンの餌をバッチリ作り上げてみせるよ」
「サイモン、すぐにサバチャイさんを案内しろ。サバチャイさん、肉の香りは風魔法で上空に飛ばさせるから、とにかく最高の調理を頼む」
「任せるね、レイモンドパパ。サバチャイ、きっとドラゴン釣り上げてみせるよ!」
これを釣りといっていいのかは、何とも言えないところだけど、ドラゴンを地上に誘き寄せるには、かなり食欲を刺激させないと難しいだろう。サバチャイさんのプロの料理人という経験が、こんな形で活かされるとは僕も思わなかった。
「レイモンド様、食材はわかったのですが、もう一つのキラキラ輝くものはどうされるのですか?」
「あー、それね。さすがに急すぎて何を用意すればよいかわからなくてな……。ところで、ルーク君、君のそのキラキラ光っている鎧はいったいどうしたのかな?」
キラキラ輝く……鎧。そういえば、この『アイスアーマー』蒼白くピカピカに輝いているね……。
「レイモンド様、しょうがありません、どなたかに、こちらの鎧をお貸ししましょう。私はただの商人の息子」
「いや、わが公爵軍に君とピッタリなサイズの者などいない。商人の息子とはいえ、上級召喚師なのだ。サバチャイさんと共に頑張ってくれたまえ」
ヤバい。ドラゴンの餌代わりにさせられてしまう。しかも、もう回避出来なそうな感じ。
「シャルからも……」
「これで、レッドドラゴンを誘き寄せられるかもしれませんわ。父上、その鎧は火属性の耐性もあるからブレスを防げるとチャップルンンさんのお墨付きでした。ルーク、頑張りましょう」
「おー、チャップルンンの作った防具だったか!? それは願ってもない、この作戦のためにあるような鎧ではないか! それでは、すぐに出発するぞ。皆の者、我に続けー!」
不味い、これは非常によくない流れになっている。いい匂いのする肉、そして見てみると気になるピカピカした物。あれっ、何、あれー、めちゃくちゃ欲しいんだけど!!! ていう流れで間違いない。僕が一番に狙われるじゃないか。この鎧ジャストフィットすぎて脱ぐのも一苦労だし。
万が一レッドドラゴンが釣れたとして、拳銃パワーでどこまでやれるのだろう。いや、公爵軍もこれだけの人数がいるのだし、シャーロット様も奥の手があるようなことを言っているわけで、レッドドラゴンさえ地上に降りて来ればきっと、何とか……なるイメージがまったく湧いてこない。
うん、ロックリザードの肉と共に、僕もお持ち帰りされてしまうイメージしかないよ!
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