第39話 レッドドラゴン襲来2

 人の流れに逆行するようにして、公爵家へと向かい走っていく。ドラゴン、どっか行ってくれないかな……。どうやら、ほとんどの人達は、魔法学園の方向へと人が集まっているようだ。


「少し不味いわね。人が集中し過ぎているわ。あれでは逆に、レッドドラゴンを呼び寄せてしまうかもしれない。ルーク、急ぎましょう! 早く攻撃をしないと大変なことになってしまうわ」


 確かにお腹を空かせているのなら人が多い場所が効率的だ。魔法学園には先生方もいるので、それなりに防御もしっかりしているかもしれない。それでも、相手が悪い。来るのは凶暴なレッドドラゴンなのだから。


 次の角を曲がれば公爵家に着いてしまう。つまり、レッドドラゴンとの戦闘に突入してしまうことになる。自分の望みを叶えて貰おうと、頭がお花畑のサバチャイさん心底がうらやましい。


「サバチャイさん、タマを召喚してほしいので、分裂してもらってもいいですか?」


「お安いご用ね。収納バッグも登録済みだから、また財布増やし放題よ!」


 財布もそうだけど、装備品も増えることになる。カッパ・バシ氏の名刀やポリスマンの装備が予備として収納バッグに追加されることになるのはありがたい。どちらにしろ、レッドドラゴンとの戦闘が無事に終わってからの話だけどね……。


「いい、ルーク。もしも拳銃でレッドドラゴンの牙を、落とせなかった時なんだけど……」


「うん、撤退だよね。でもどうやって逃げられるかな。ひょっとして公爵家に秘密の抜け道があるのですか?」


「残念だけどそんなものはないわ。私とウンディーネには強力な攻撃手段があるの。でもね、使える時間はとても短いし、出来れば使いたくないの」


 シャルからも苦悩の表情が見てとれる。余程、使いたくない理由があるということか。


「使いたくない……ということは、何か代償があるのですね」


「ええ。レッドドラゴンでも、きっと数十秒ぐらいなら抑えられるわ。ルークとポリスマンは拳銃を、サバチャイさんはその剣で攻撃を可能な限り至近距離からお願いしたいの。攻撃後は、すぐに撤退して構わないわ」


「でも、それだとシャルは……」


「いいのよ。私が巻き込んだことだから、せめてルークの無事は確保させて。もちろん、最大の必殺技ですから、相手がレッドドラゴンであっても逃走の時間ぐらいは何とかしてみせるわ」


 それが強がりだということはわかっている。何とか牙だけでも落としたい。


レッドドラゴンも人を食べないでよね。何とかして人間よりも美味しい食材を提供出来ないものかな。


「決めたね! サバチャイやっぱり、レッドドラゴンを倒すよ」


 急にやる気を出されても、どうしたのサバチャイさん? と質問したくなるぐらいに、本当どうしたの?


「サバチャイ、ルークのおかげでお金に困らないし、そうなると次に必要なのはレベルアップね。召喚されても圧倒的に媚びない強さが必要よ」


 よくわからないけども、媚びない強さって何だろう。


「それなら、レッドドラゴンにレベルアップをお願いすればいいんじゃないの」


「わかってないね、ルーク。願いはもちろん、叶えてもらうよ! その上でサバチャイの経験値になってもらうね。その昔、大魔王も、願いを叶えた後に神龍を殺したね」


 サバチャイさんの世界には、大魔王なんてものが存在するのか……。というか、本当に願いを叶えてくれるドラゴンがいるの!?


「そ、それは酷い大魔王さんですね。願いを叶えさせておきながら、討伐しちゃうとか人の道を外れまくってますね。それで、その大魔王さんの願いは何だったのですか?」


「若返りね。サバチャイも永遠の十七才にしてもらってから、ドラゴン討伐するよ」


 よくわからないけども、本人が前向きに戦ってくれるのであればありがたい。おそらく、願いは叶えられないとは思うけど、頑張ってレベルアップを目指してもらいたい。


 そんなことよりも、シャーロット様の代償の方が気になる。召喚獣の契約に関する決めごとなのだと思うけど、出来ることなら拳銃で牙の欠片でも落とせればなと思う。



 そんなことを考えていたら、とうとう公爵家に辿り着いてしまったのだった。





「こ、これは公爵軍、すごい人ですね……」


「父上、城へ向かわれるのですか!?」


 辿り着くと、そこには公爵軍が移動を始めているところだった。先頭に立っていたレイモンド様にシャーロット様が声をかけると、少し驚いたような顔をしながら指示を出した。


「シャル、何故、魔法学園に行かなかった! ここは守るものがいなくなる。早く学園へ向かいなさい。君たちもだ」


「父上は?」


「私は城の警備に半数を連れていく、それから街を出てレッドドラゴンを引き離すための囮部隊を率いることになった」


「お、囮部隊……」


「何故、父上が部隊を率いる必要があるのですか!」


 囮部隊。つまり、最悪の場合はレイモンド様以下公爵軍を生け贄にするということになる。


「城の守りを優先させると、修錬度の高い部隊は、今、公爵軍をおいて他にいない。中途半端なことでは街は守れん」


「そ、そんな……」


「そんな顔をしないでくれシャル。今回の襲来は物見の可能性が高い。高度を維持したまま、旋回を繰り返しているだろう」


 少し考えるようにして、シャーロット様はレイモンド様にこう告げた。


「つまり、しばらくしたら、レッドドラゴンは退くと読んでらっしゃるのですね。……父上、改めてお願いがございます。私たちを、その囮部隊に加えて頂けませんでしょうか」

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