第3話 チーム【カーバンクル】

「いらっしゃいませニャ!【天使の夜明け】へようこそニャ!」


 広々としたロビーの奥側にある受付カウンターから、元気な声とともに可愛らしいネコの獣人がヒョコッと顔だけ出した。


 シエルたち三人が訪れたのは冒険者ギルドと呼ばれる組合組織だ。

 この世界には大きく別けて四つのギルドが存在する。


冒険者ギルド

魔法ギルド

商人ギルド

職人ギルド


 数多くの職業が存在するが、それらはいずれかのギルドに所属している。逆に言えば、ギルドに所属しなければマトモな仕事に就くことはできないのだ。

 これらギルドは各国にあり、管理も国ごとに行われている。

 そして現在、規模としては二番目だが最も人気がある職業とされるのが冒険者だ。


「あーっ!シエルだニャ!久しぶりだニャー!」


「おはようニャム。相変わらず元気だね。」


 当ギルドの受付を担当するニャムは嬉しそうに尻尾を左右に振る。と同時に周囲にいる数人の冒険者と思われる服装の者たちが、驚いた表情でシエルたちを見ている。


「……え?シエルってまさか……?」

「あの噂は本当だったのか……。」


 普段ならこの広いロビーが埋まる程の人、主に自国の冒険者やその関係者などが日々訪れているのだが、今日は聖王都との会合というガルトリーにしてみれば一大イベントに等しい日のため、クエスト依頼はあまり無い。


「ふふーん。予想通りほとんど人がいないね。」


「そうだニャ。顔馴染みの冒険者さんたちは皆街の中と外の警護の仕事をしてくれてるニャ!」


 今このギルドに残っているクエスト依頼は別に今日やらなくていいような雑用みたいなクエストと、聖王都との会合に合わせて街の警護をする仕事だけ。どちらを選ぶかは明白だ。人手も必要とし、国からも中々オイシイ報酬が出るので皆ハリキって仕事をしていることだろう。

 そのためギルド内に人はほとんどおらず、先程の数人の冒険者はそういった事情を知らない他国の者のようだ。


「……それで今日はどういったご用件ですかニャ?」


「ギルドチームの登録をしにきたんだ!」


 静かなロビーにシエルの大声が響き渡る。


「ニャニャ!?ということはセティール様から許可が下りたのかニャ!?」


「そうだよ。チームでならって条件でね。早速チーム登録を頼むよ。」


「かしこまりましたニャ!」


 夢の冒険者への第一歩が始まろうとしている。嬉しさのあまりシエルはヘンテコなダンスを踊りだす。

 そんな彼を「恥ずかしいからヤメろ」とリッツが羽交い締めにする。


「……んニャ?そういえば今日の聖王都の会合はシエルは出なくていいのかニャ?」


「ああ、今日はサボったよ。別に俺がいなくても大丈夫だろ。」


 テキパキと準備をしながら質問するニャムだったが、シエルの返答に彼の手が止まる。


「それって、オイラも怒られたりしニャい……?」


 ニャムはおそるおそるシエルを見る。


「大丈夫だって。君のご主人様だってこの事知ってるし、俺の手回しに抜かりはない!」


「ニャ~。マスターが?なら大丈夫だニャ。」


 シエルは聖王都との会合が決まった時からこの日にチーム結成を計画していたようだ。

 というのも、普段はどの時間帯も人で溢れかえっている冒険者ギルドだが新規の客は意外と少ない。そのため冒険者の新規登録は一番最後に回されがちなのだ。下手をすれば登録だけで丸一日潰れてしまうことも多いとか。


「……ニャるほどニャ。それで確実に人が少なくなるこの日を狙ったワケかニャ?」


「そうとも!登録してすぐに冒険に出たいからね!それにグズグズしてたら連れ戻されちゃうからのんびり待ってらんないよ。」


「家の用事すっぽかしてまでやるとは、お前も中々悪ぃコトするよな。」


「学園一の悪童に言われたくないね。」


 二人は悪そうな笑顔で顔を見合わせる。

 そして先程からリケアはずっと黙ったままだ。シエルとリッツの後ろに隠れるようにしながらニャムを見つめている。


(……カワイイ。モフりたい。)


「……ニャ?」


「わわっ……」


 リケアの視線に気づいたニャムは彼女を見るが、リケアはすぐに目をそらす。


「そういえばお仲間さんたちは初めましてだニャ。」


「あぁごめん。紹介がまだだったね。リッツとリケア、学園の友達さ。同じクラスなんだ。」


「リッツだ。よろしくな。」


「……リケア……です……。」


「ニャ~るほど!受付のニャムだニャ!よろしくニャ!……さてさて、準備ができたニャ!」


 ニャムは本を三冊開かれた状態でカウンターに置いた。


「まずは身分照会だニャ!ここに手をかざしてくださいニャ!」


 三人はそれぞれの本の上に手をかざす。すると本に魔方陣が浮かび上がり、淡い光が三人の手を包み込む。


「ニャ!魔力紋の照会確認。もう手をおろしていいですニャ。」


 程なくして少し背の低いニャムのちょうどいい目の高さの位置に画面が現れ文字や数字が表示される。ステータス画面のようだ。


「えーっとニャ……」


 表示されたものを一つずつ確認していくニャムは小さめの眼鏡をかけている。


(メ、メガネ属性持ち……!?カワイイ!)


 リケアは人知れず心の中で興奮していた。


「じゃあ皆さんも見て確認してくださいニャ。何か間違いがあれば言ってくださいニャ。」


 ニャムが指先をクイっとシエルたちに向けると、ニャムが見ているものと同じ画面が三人の目の前に現れた。



【名前】

シエル・フィオーレ・ガルトリー

【年齢】

17歳

【種族・ジョブクラス】

人間・王子・魔道士見習い(仮)

【出身地】

セイントロード領 ガルトリー出身

【所属】

レズィアム魔法学園 高等科3年

【登録ギルド及びギルドランク】

冒険者ギルド(個人) E

魔法ギルド E

【ランク別冒険者賞金ランキング】

圏外

【魔法術式及び魔法ランク】

ロード式(日常生活系) E(推定)

クイーン式(回復、補助系) 適性なし

ガルト式(攻撃系) 適性なし


【名前】

リッツ・フォージング

【年齢】

18歳

【種族・ジョブクラス】

人間・召喚魔道士

【出身地】

ウィングロード領 ファナリア出身

【所属】

レズィアム魔法学園 高等科3年

【登録ギルド及びギルドランク】

冒険者ギルド(個人) C

魔法ギルド C

商人ギルド C

【ランク別冒険者賞金ランキング】

個人Cランク8位

【魔法術式及び魔法ランク】

ロード式 A

クイーン式 D

ガルト式 D

召喚魔法アーサー式(武器) C

召喚魔法フェアリー式(精霊) B


【名前】

リケア・ウォレシュ

【年齢】

170歳

【種族・ジョブクラス】

デュロエルフ族・神殿騎士見習い

【出身地】

フェンリルロード領 デュロシス出身

【所属】

レズィアム魔法学園 高等科3年

カルプシス神殿騎士団【オーディーン】

【登録ギルド及びギルドランク】

冒険者ギルド(個人) C

魔法ギルド C

【ランク別冒険者賞金ランキング】

個人Cランク23位

【魔法術式及び魔法ランク】

ロード式 A

クイーン式 B

ガルト式 D

召喚魔法アーサー式 C

召喚魔法フェアリー式 C

オリジナル ウォレシュ式 C


「……どうですかニャ?」


「問題なさそうだな……。お、リケアお前クイーン式のランク上がったのか?やるじゃねぇか。」


「まぁね。この前試験に受かったの。そういうリッツの魔法はどっちも相変わらずね。」


「うるせぇよ。俺は召喚がメインだからこれでいいンだよ。」


「二人ともスゴイな。前よりまた強くなってるじゃん。」


 それぞれのステータスを見ながら三人はワイワイ盛り上がっている。


「あ、そういえば私シエルのステータス初めて見たかも。このロード式の(推定)ってどういう意味?」


「シエルは魔力値が少なすぎて計測不能だったニャ。でもランクは決めなきゃいけニャいから(推定)なのニャ。」


「改めて見ると……まぁなんつーステータスだよこりゃ。ある意味お前もスゲーな。」


「ありがとう!」


「いや褒めてねぇよ。」

「今のは褒めてないね。」

「褒めてないニャ。」


 鋭いツッコミが同時に飛んできたが、やはりシエルは気にもせず自分のステータスを満足そうに眺めている。


「……しかしなぁ、普通なら何もしなくたって勝手に魔法を覚えるロード式すらマトモに使えねぇなんてよ。そんなヤツ初めて見たぜ。」


「私も。もしかしたら世界中でシエルだけかもね。」


「へへっ、オンリーワン王子と呼んでくれ。」


「うるせぇ。いいからさっさと登録しちまおうぜ。」


「ニャ!ではこのままギルドチームを登録しますニャ。チーム名はお決まりですかニャ?」


 ニャムの質問に三人は笑顔で声を揃えてこう叫んだ。


「チーム【カーバンクル】!!」

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