第5話 お買い物2

「見て見てお兄ちゃん。桜が咲いているよ」


スーパーに向かう途中、偶然にも桜の木を見つけた。


満開の桜はとても綺麗で、俺は改めて春を実感した。


雅の周りに桜の花びらが舞い、まるで花の妖精みたいだ。


まあ、妖精ならさっさと家に帰ってほしいが。


「どうしたのお兄ちゃん」


雅がボーとしていた俺を見て、不思議そうな目で見ていた。


「何でもない」


「じゃあ早く行こ」


「はいはい」


満開の桜に別れを告げ、俺達はスーパーに向かう。


スーパーに向かう途中、隣を歩く雅の頭に桜の花びらが乗っていることに気が付く。


雅の頭に乗った花びらを、俺はそっと取り除く。


「花びらついてたぞ」


「ありがとうお兄ちゃん」


「ん」


スーパーに向かう最中、お互いそんなに口数は多く無かったが、俺の隣を誰かが歩くことが少し懐かしく、悪くないなと思った。






「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、お肉・・・・・」


目的の野菜やお肉たちを見つけては、呪文の様にブツブツと喋っている雅。


俺はそんな雅の後ろを無言でついて行っていく。


「お兄ちゃんは何か買いたいものある?」


俺は何か欲しいものがないか、思い浮かべて見る。


「ビールかな」


「冷蔵庫にまだ入ってたよ」


「なくなる前に補充したいだろ」


人生の相棒は常に一緒に居ないと不安になってしまう。


だから、家の冷蔵庫にはビールが常備されている。


「ビール飲むのはいいけど、ほどほどにしてよね」


「雅も一緒に飲むか?」


「わたし一様未成年なんですけど?」


「じゃあ、一緒に飲めるのは2年後だな」


「そうだね」


2年後に雅はどんなふうにお酒を飲んでいるのだろうか。


俺のイメージだと、一口飲んだだけですぐに酔いそうだけど、案外強かったりするのだろうか。


俺は2年後の雅を想像して、少し楽しみになった。


「雅はお酒に興味あるのか?」


「そんなにないかも」


「そうなのか」


本人はどうやらあまりお酒には興味がないようだ。


俺も昔はそんなに飲みたいと思わなかったけど、今じゃ飲まないのが考えられないほどハマっている。


雅ももしかしたら俺みたいになるのかも。


そんなことを想像したら少し笑えて来た。


「お兄ちゃん、なんで笑ってるの?」


「雅がどんなふうに成長するのか楽しみなんだよ」


「私もう十分大きくなったと思うけど?」


「・・・・そうだな」


あんなに小さかった雅が、今ではこんなに大きく成長した。


確かに大きくなったと思うけど、きっと雅はこれからもどんどん成長していくんだろうな。


成長する中で嫌なこともいっぱいあると思うけど、この子には強く生きて欲しいな。


俺は昔の事を思い出し、心が少しだけ締め付けられた。


それは雅の知らない俺の過去だった。


「雅は何か欲しいものあるか?」


今日一日だけでも雅には色々世話になったし、俺はせめて何か恩返しがしたいと思い聞いてみる。


「一つあるよ」


「今買えるものだったら、買い物かごに入れちゃっていいぞ」


「じゃあ入れるね」


そう言うと、雅はあらかじめ用意していた紙をポケットから取り出しかごに入れた。


「なんだこれ?」


紙に欲しいものが何か書いてあるのか?


俺は雅がかごに入れた紙を取り出し、開いて中を確認してみた。


それを見て俺は絶句する。


「ダメかな?」


可愛くお願いする雅。


それがお菓子やジュースなら俺は買ってあげただろう。


しかし、雅が要求したそれはそもそもものでは無かった。


雅がかごに入れたのは、婚姻届けだった。


俺は雅の前でそれをびりびりに破り捨てる。


「お兄ちゃんのケチ」


プンプンと怒る雅。


ケチと言われてもこればかりはどうしようもないだろう。


俺が雅と結婚するわけにもいかないんだから。


しかし、恩返ししたい気持ちがあるのは本当だ。


何かないかと考えてみる。


けれど、何も思いつかなかった。


結局、恩返しできるものは何も用意することが出来ずにお買い物は終わった。


帰り道、俺はまだ考えていた。


「お兄ちゃんさっきから難しそうな顔してるけど、どうしたの?」


「いや、まあ、何か雅に恩返し出来ないかなって思って」


「恩返し?」


「今日一日、俺の身の回りの事色々やらせちゃっただろ。だから、何か恩返ししたいなと思って」


「そんなこと考えてたんだ」


クスクスと笑う雅。


「今日やったことは全部、私がやりたいことだから気にしないで。むしろ、お兄ちゃんが傍にいてくれるのが私にとっては最高のプレゼントだよ」


「そ、そうか」


「あれ~、お兄ちゃん照れてるの?」


雅がニヤニヤしながら俺を見る。


「別に照れてねーよ」


俺は歩くペースを少し早くする。


「待ってよお兄ちゃん」


そんな俺を追いかけるように雅はついてくる。


そんな感じで買い物は終わり、俺達は家に帰っていった。


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30歳童貞職業フリーター。春から女子高生の従妹と新婚生活始めました。 よもぎ @sakurasakukoro22121

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