第7話 街

 MIPが家を出る。周囲を警護するSPは七人。基本的な配置は前、左右前方、左右、左右後方。全周囲を取り囲むスタイルである。MIPとその警護という関係性が周囲には分からないよう、左右の二人、少なくとも片方とは雑談を交わす。他の五人は適度な距離を保ち、無関係な人間を装う。階段などの細い場所では、前に三人、後ろに四人で縦陣を作るが、そもそもそういうところを通らないルートをSPが予め選定することが肝要である。どこへ行くにも事前の申告とルート選定が必要となるためMIPは多少辟易している。


 MIPが友達に語り掛ける。


「ねぇ、たまには寄り道とか回り道とかしたいんだけどダメ?」

「ダメです。MIP先生は、もう少し色々と自覚を持って頂きたいものです」

「そのMIP自ら寄り道したいって言ってるんだよ」

「勘違いしてはなりません。先生は死刑執行中の身です。なんでも自由が通ると思ったら大間違いです。特にこうした安全面に関することはほぼ一切のことがプロの判断に任されることとなります。素人の私情が入る余地はありません」

「ちっ……」

「舌打ちしてもダメなものはダメです。監禁させますよ?」

「脅す気かい?穏やかじゃないね」

「それくらい、寄り道については厳しく言わざるを得ません」

「わかったよ。じゃあ逆に、予定の省略はどうなの?」

「ははあ、わかりましたよ。予め寄り道を加味した計画を提示して、実際に出かけてから寄り道しないかもしれないっていうことですね。それもダメです。ルートを選定するSPの手間を増やすだけです」

「理由があれば?」

「正当な理由なら許可されると思いますけどね?」

「桜が見たいとか紫陽花が見たいとか向日葵が見たいとか紅葉が見たいとか猛吹雪を体験したいとか」

「各季節一回ずつくらいなら通用するかもしれませんが、猛吹雪はたぶん無理です」

「ダメかい、なんで?」

「老衰以外で亡くなられる可能性があるからです」



 街を歩くMIPとSPには、様々な市井の声が聞こえてくる。美しい話、怪しげな話。脳天気な会話、真剣な会話。日々の喜び、日々の不満。MIPは、SPの一人に頼んで様々な噂話を随時集めることにした。


「どうやらこの国にはVIPを超えたMIPなる存在があるらしい」

「『王家に対する罪』に問われた死刑囚だとか」

「MIPはこの街にいるらしい」

「なぜ、すぐに死刑が執行されないんだ?」

「王は気まぐれすぎるからな」

「MIPだからMopだか知らんが、これ以上王の気まぐれに付き合ってられるか」

「落ち着けよ、お前飲みすぎだぞ」



「MIPという存在と居場所については薄々とは広まっているようです。いつまでも隠し通せるものとは思っておりませんでしたし、想定よりは長く隠せていると思います。色々とバレるにはもうしばらくかかると考えます」

「MIPの存在と居場所がバレたら作戦はフェーズ2に移行するということでいいのかな?」

「厳密には、MIP先生の存在と居場所がバレた際には既にフェーズ2への移行が完了していなくてはなりません」

「その辺については自分らは素人なので、特殊警護部にお任せするしかないね」

「我々はそのためにおります、お任せ下さい」


 その日の夜、MIPと友達が話す。


「ついにフェーズ2が見えてきたね」

「なんだか嬉しそうですね」

「嬉しくはないよ。でも面白くは、なる」


 フェーズ2は、スリーパー要人がオープン要人へと変わる。通常のVIPと同様の警護のことで、SPにとってはことさら珍しいものではない。しかしMIPにとっては未知の経験、生活がどのように変わるのか興味は尽きない。ただし、行ける範囲は限られるようになるとのことで、その点は不満が残る。


「自分がMIPであるということが全国に広まる、怖くないのですか?」

「今は特に怖いこともないね。いざそうなったときに自分がどう思うか、そこが興味深いよ」

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不死の刑 執行中 やっち @Yatch_alt

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