第46話 ふたりだけの夜

 リョフイ達、帝国の脅威は一時的に去った。

 僕たちが街へと帰ろうとすると、小人達が僕のところにやって来た。


「ありがとう。君たちのおかげで僕は助かったよ」


 僕がお礼を言うと小人達は照れくさそうにくるくる回った。

 その小人達を見て、クロは目を細めた。


「ほう! コロポックルとは珍しいな」

「あれ? クロはこの子たちのこと知ってるの?」

「うむ。この北の大地に住む精霊だ。……む? そうか。マンジよ、どうやらコヤツはうぬと幻獣契約をしたいらしいぞ」


 コロポックルの一人がクロに赤い顔をして耳打ちをした。

 ウェンカムイに襲われそうになって、僕が助けた女の子だ。


「うん、もちろんだよ!僕は大歓迎だよ!」

 

☆☆☆


 No.4

 名:ウパシ

 種族:コロポックル

 属性:水

 ランク:B

 相性:B

 

 北の大地に住む小人。狩猟や漁労の技術に優れ、魔法に長けている。フキの葉の下に2、3人入れるほど体が小さいことから、この名前を付けられたと言われる。基本的に恥ずかしがり屋で、人前に出ることを嫌うが、心優しい種族である。


☆☆☆


 無事に幻獣契約が完了すると、ウパシは嬉しそうに飛び跳ねた。


「ハハ。そんなに喜んでくれるなんて、僕も嬉しいよ。……え!?」


 僕がしゃがんでウパシに話しかけると、ウパシは僕の頬に口づけをした。


「ヒュー! モテモテだな、マンジ!」

「タツマ、あんまりからかわないでよ」


 タツマは驚く僕を見て楽しそうに笑った。

 ウパシは他のコロポックル達と一緒に竪穴に帰っていった。

 僕たちもまた、街へと戻った。


☆☆☆


 街へと戻ると、俺は現地の駐屯旅団司令部で報告書をまとめた。

 街での被害は少なく、明日の雪まつりも問題なく開催できるそうだ。


 殉職した傭兵達の家族には申し訳ないが、帝国の侵略に屈しないという姿勢を見せないといけないらしい。

 俺には政治的な事はよくわからねえから、祭りを楽しめばいいや。

 

 北の大地の冬の夜は長い。

 まだまだ外は真っ暗だ。


 ミカエラも無事だし、他のガキどもも疲れ果てて寝ている。

 俺もクソ悪魔どもに振り回されてさすがに疲れた。


 俺はホテルに戻ると、部屋の中で一人でグラスを傾けていた。

 あれだけ派手に悪酔いしたのに、すっかり抜けちまった。

 部屋のドアを誰かがノックしたので、ドアを開けた。


「お? ミサじゃねえか、どうした?」

「……えっと、今日はお疲れ様。私も一緒にいいかしら?」

「お、おう。ブランデーしかねえけど、いいか?」

「ええ、もちろん」


 俺はアガサを部屋に入れ、グラスにブランデーを注いだ。

 そして、グラスを合わせる。


「「ふたりだけの夜に」」


 同時に口に出た言葉が同じだったので、俺たちは柔らかく微笑んだ。


 今夜のアガサは、妙にしおらしくて艶っぽい。

 こいつは、普通にしてればいい女だし、何というか……いい女だな、うん。


 この後何を話したのか、正直覚えていない。

 どっちが先に言い出したかも、覚えていない。


 気が付いたら、俺達は口づけをかわしていた。

 俺は激しく動いたし、アガサも上に乗ってきた。

 初めて出会った頃に戻ったみたいに、夢中で強く求め合った。

 これまでのすれ違った時間を埋めるように、お互いに貪りながら何度も交わった。


 軽く眠り、夜が明けた頃、俺は日課の素振りをしていた。

 何時に寝ても、これをやらないと気分が悪い。

 完全に体に染み付いちまうと、どうやっても習慣は変わらないものだな。

 素振りを終え、部屋に帰ろうとした。


 部屋では、アガサもまだ寝ているだろうし、コーヒーでも持っていってやるかな?

 ミカエラを引き取ってから、妙に所帯じみちまった気がするな。

 アガサとも昨夜で、過去のわだかまりってやつが無くなったし、これからは一人の女と添い遂げるのも悪くねえのかな?


 俺は、あれこれと将来のことを真剣に考えていたわけだ。


 しかし


「あ! カイン隊長、すぐに来てください! 大変です!」

「おう、リーじゃねえか」

「おう、じゃないですよ! 隊長が任務をすっぽかして遊んでるから、こっちは姫が暴走して大変なのですよ! すぐに来てください!」

「え!? いや、ちょ、ちょっと待て! あと五分……」

「待てるわけ無いでしょう! 隊長の五分は、いつも五十分でしょうが!」

「い、いや、今回は本当だって……って、おいぃぃ!? 強制転移はやめ……」


 と、まあ、こうして俺はしばらく国外に出ていってしまったわけだ。

 帰国したあと、アガサとどうなるかなんて、教えなくても分かるだろ?


 ホテルの窓から、アガサは見た。

 ちょうど、カインが転移魔法で出ていったところだった。


「あのクズ男、またヤリ逃げしやがった」


 アガサの暴走した怒りの魔力で式神十二神将達は勢揃いで顕現し、カインの部屋の中でじゃれ合った。


 後日、カインの自宅に修理代の請求書が届いたことは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る