第39話 悪魔との対峙

 そんな!?

 こんなボロボロの状態で異世界の悪魔が。


「悪、魔ぁああああ! 滅して、やる!」

「ダメだ、ミカちゃん! 今の状態じゃやられるだけだ!」


 ミカエラは倒れながらも憎悪を振り絞り、立ち上がろうとする。

 僕はミカエラをかばうように悪魔との間に立った。


「ど、どいて、マンジくん! 私は……」

「そうだよ。お前もあんな風になりたくないだろ?」


 仮面の悪魔が、ミカエラを無視して僕に顔を向けたまま、斬られた捜索隊の方を指差した。

 地面の雪が血で赤く染まり、ハラワタを撒き散らしている。


 僕は死にたくない。

 でも、ミカエラを見捨てるのは、もっと嫌だ!

 僕は黙ったまま仮面の悪魔を睨みつけた。


「そんなに、そいつが大事なのか? お前は知ってるのか? 僕たち異世界人を『異世界の悪魔』と呼んで殺している邪教徒の一人だぞ?」

「君達が異世界からやってきた悪魔には違いないだろ? いきなりミカちゃんを殺そうとして」

「やらなきゃこっちがやられるんだよ。こいつらだって、いつもいきなり襲ってくるんだからな」


 仮面の悪魔は聞き耳を持つ気は無いようだ。

 自分のやっていることを疑うことなく正当化している。


「……君達は何をしに来たんだ?」

「何をしにか。すぐに分かる」

「おい、うだうだ遊んでねえでさっさと行こうぜ!」


 僕はカマをかけてみたが、仮面をしていて表情が読めない。

 しかも、もう一人の痩せぎすの悪魔が先を急ごうと急かしている。

 このままではすぐに殺られてしまう。

 考えろ。

 生き延びるために思考を振り絞れ!


 悪魔の後ろにいる見たことのない二人は、ミカエラが反応しないから異世界の悪魔ではないはずだ。

 だが、どちらも百戦錬磨の武人という雰囲気がある。


 体格の良い老人の方が、仮面の悪魔に耳打ちをして何か話しているようだ。

 はっきり言って、怖い。

 しかし、カイン達が来るまで出来るだけコイツラを引き付けておきたい。


「何? 父さんがそいつを? ……ふぅ、仕方がないな。事情が変わった。そいつを殺したりはしないよ。そいつを渡してくれれば、お前は見逃してやる。僕だって、敵であるとはいえ、むやみな殺生は好みじゃない」

「ぐ! ナメるな! 私が黙って貴様らに捕まると思っているのか!」


 仮面の悪魔は殺気を消し、声を和らげて僕の前に歩み寄ってきた。

 交渉でもしようというのか?

 魔族だとか言っている意味がわからないけど、問答無用に殺されることはなくなったようだ。


 ミカエラは神経を逆なでされたように殺気を膨らませた。

 僕は少しでも冷静な思考になろうと大きく息を吸い込んだ。


「ふぅ。ミカちゃん、ここは僕に任せて。……あんたが僕たちを殺す気がなくなったことは信じるよ。でも、僕はミカちゃんを渡す気はない。大切な人を見捨てたら、男をやめるべきだろ?」

「え? マ、マンジくん? き、君は何を……」

「……ペッ! くだらねえ! 明るい青春しやがって。オレが元の世界にいた時なんて……ああ、クソ! 嫌なこと思い出させやがって! リア充なんか爆発しちまえ!」


 痩せぎすの悪魔は反吐が出るというようにツバを吐き出し、手に空間が歪むほどの魔力を凝縮させた。

 ミカエラも僕の後ろで戸惑ったような声をしている。

 僕は何かおかしなことを言ったのだろうか?


「やめろ、リュウ! 不必要なことはするな!」

「チッ! くだらねえ、やってらんねえぜ!」


 仮面の悪魔は苛立ち、短気で自分勝手なリュウと呼ばれた悪魔を叱責した。

 リュウは手にためていた魔力を消し、不貞腐れて地面を蹴った。

 悪魔たちは仲が悪いのか、いやおそらくコミュニケーション能力が皆無なのだろう。


『勇者様? 何の話をしているのです? さっさとそのガキを始末して目標を捕らえましょう。真の目的を見失ってはなりません』


 僕が悪魔たちと話をしていると、カンフー服を着た男がシン帝国の言葉で話し出した。

 なんとなくだが、言っていることが分かる。

 何か急いでいるみたいだ。

 言葉をわからないフリをして聞き耳を立てた。


『わかってるよ、オウコツ。僕たちが奇襲をかけて、魔王軍の拠点を潰すんだろ?』

『そうです。わかっているなら戯れはよしてください。不用意なことをして作戦が失敗したらいくら勇者様といえども宰相様の処分は免れませんよ?』


 オウコツは仮面の悪魔に先を急がせようと説得している。

 仮面の悪魔もまた渋々納得したように頷いた。


『……そうだな。リュウも父さんを怒らせたらどうなるのか、分かっているだろ?』

『ああ、分かってるよ!』

『では、敵のアジトに向かいましょう!』


 話がついたみたいで、仮面の悪魔が僕の方に歩いてきた。

 僕を殺して、ミカエラを連れていくつもりか?


「させな……」

麻痺パラライズ!」

「がぁあああ!?」

「マンジくん!?」


 僕は仮面の悪魔の攻撃で動きを封じられた。

 体が痺れて動けない。

 こんな一瞬で、これが異世界の悪魔、強すぎる。

 ダメだ、ミカエラが攫われて……


「さて、遊びはもう終わり……ぐっ!?」


 仮面の悪魔は突然後方に吹き飛ばされた。

 これは、飛ぶ斬撃?


 そうか。

 僕はやっと気を抜くことが出来た。

 見なくても分かる。

 もう安心できることだけはすぐに理解出来た。


「よう、マンジ。大丈夫だったか?」

「うん。君が助けに来てくれたからね」


 子供の頃からそうだった。

 僕をすぐに助けに来てくれる。

 今だってそうだ。

 タツマが僕の前に立っていた。

 僕が一番信頼している親友、将来の『英雄王』だ。

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