涼 最終話 完結

 カオ、最後の投稿ありがとう。


 これを見るまでずっと、行かなきゃ良かったって思っていた。

 カオが「ごめんなさい」って、「もうリョウには会えない」って投稿した時に、そこでおしまいにしていれば良かったのにって思っていた。

 本当の事を何も知らなければ、こんなに悲しく、こんなに辛い思いをせずに済んだのにって。

 思いつきのこんな小説なんか書き始めなければ、何も起こらず、こんなに泣かずにすんだのにって。


 あの日。

 綺麗だと思った。

 カオ、実際の君は小説の中のカオよりずっと美しかった。女とか男とか、健康だとか病気だとか、そんなのは関係無いんだと思った。


 会いに来てくれた時、すぐにカオだと分かったよ。僕はカオの領域を侵したくなかったから声も掛けなかったけれど。

 っていうか、もし声を掛けてしまったら自分自身が崩れてしまいそうで、何も出来なかったって感じかな。涙が、涙が勝手に溢れてきてどうしようもなかったんだ。あの時、カオの心が充分に伝わってきた。もうそれで充分だった。


 カオが現れるまで、本当の事は分からなかった。どこまでが小説でどこまでが本当の事なのか、僕も分からなかった。実際にはカオが病院にいるはずないとも思った。男のはずないとも思ったし病気のはずないとも思った。


 カオが車椅子を押されて病院の中に入っていった時、我慢出来なくて僕は追いかけようとしたんだ。

 僕が入り口まできて自動ドアが開いた時、カオの背中が「来るな」って言ったように見えた。それは冷たい言葉じゃなくて、温もりを持った僕を包み込むような言葉だった。会いにいった所で僕には何も出来ない事は分かっていた。お互いが辛くなるだけだという事も分かっていた。僕はそのまま病院を後にした。


 家に帰る迄も、家に帰ってからも、ずっとずっと、何も手につかなくなってしまっていた。現実が悲しすぎて、辛過ぎて、消えてしまいたい位だった。

 でも、カオが書いてくれた最後の投稿を読んでハッとした。


 何回も何回も読み返しながら、僕とカオとの出会いは何だったのか考えてみた。

 危うく、悲しみと辛さに掻き消されてしまう所だったけれど、そんな感情以上に尊くて、大切な物だったんだという思いが大きく大きく膨らんできた。

 僕は君の書く小説を読み、君と出会い、心に何かが灯った。短い間に、それまで抱いた事のない感情が芽生え、覚悟を持った。


 カオは病に侵された時、「強い男になる事が夢だったけど、もう誰かを守ってやる事も出来ない」って思ったんだね。でもそんな事はなかった。か弱い女性の振りをしていても、本当は強い男で、僕を守ってくれた。強くしてくれた。素敵な小説を書き、僕がかれた可愛い女性のカオも偽りじゃない。どちらも本当のカオの姿だ。それを僕にしっかりと見せてくれたんだね。僕はカオみたいに強くて優しい人になってみせるよ。

 カオがそうだったように、僕は小説を書いて成長する。成長して小説を書く。君が小説を通して僕に教えてくれた事、大切にするよ。僕も誰かの心に何かを灯せるような小説を書きたい。

 小説ってなんだろ? 答えは一生見つからないかもしれないけれど、その答えを追い求めながら書き続けるよ。


 最後に言わせてくれ。

 カオ、書ききったな。やりきってくれてありがとう。あとはオレに任せろ。(なんて、スゲー背伸びしている自分を許して下さい)

 それと。

 会いに来てくれてありがとう。


「カオ、身体からだ、大事にしろよ。何かあったらオレに連絡しろよ」

 いまだにカオとはこの小説だけでしか繋がっていないけどさ。

 こんな風に締めくくる事しか出来ないよ。こんなんで許してもらえるかな? これが今のオレの精一杯だ。泣いて終わるよりいいだろ。


 カオ、本当にありがとう。


 オレは、エイヤッ! と完結ボタンを押した。


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この交換小説は小説なの? 風羽 @Fuko-K

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