八月二十五日

 カナカナカナカナカナ……キキキキ…………。




 ヒグラシの鳴き声が、夕焼けの空の遠くに響いて、夏の終わりを皆に知らせている。


 八月の終わりのこの時期の夕暮れは、私の心を寂しくさせた。




 海は今日も外で一日、沢山遊んで泥を体に付けて帰ってきた。この一カ月で、息子は真っ黒に変身をした。太陽の日差しを沢山浴びて、沢山外ではしゃいだ証拠を付けたのだ。


 この、大自然の中で、一カ月過ごした海は、ひとまわりもふたまわりも、大きく見えた。




 カナカナカナカナカナ……。




「ママ、セミ取ったよ!」


「すごいね!気が済んだら、仲間のところへ返してあげてね」


「もちろん」




 海は自分の網で捕まえた、夕暮れで鳴く蝉を私に自慢げに見せてくれた。




 昔、とうさんと蝉取りしたっけ。私も海のように、自分で捕まえた蝉を、見せつけたりなんかしていたな。




「また、会えるよね。とうさん」




 この夏、私は大切な人たちに出会い、沢山の愛を知った。あの特別な丘で、会いたかった、優しく温かい人たちに出会えたのだ。


 優しく、不思議で、ちょっと素直になれない魔女に会った夏を、私は、忘れることはないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る