八月二十三日
東京に帰ることが出来るまであと少し。毎日僕はカウントダウンをして過ごしている。
ドキドキするなあ。
久々に会えることが、嬉しくてたまらない。その喜びは日にちが経つほど膨らみ、僕が困ってしまうくらいだ。
しかし、家族に会えなくて寂しいと思う自分がいるように、僕は家族に寂しい想いをさせているのだと思う。
でも、由美はいつも僕に言ってくれるんだ。
「祐一が楽しそうに、広い世界で何かを追いかけている姿が好き。だから、自分を貫いて、自分のしたいことに突き進んでね」
そういえば、僕が社会人三年目になった時、由美は二年目だった。一年違いの僕らは、大学生の頃に交際をスタートし、社会人になっても、週末には会って二人の時間を大切に過ごしていた。
僕は三年目ながら、仕事でとても頼られる存在になることが出来た。新しいことを常に考え、会社に自分の新しい考えを常に提案し、楽しく仕事をしていた。
そんな僕が、その年の、彼女の誕生日に、プロポーズをした。
「結婚してください。一生大切にします。絶対!」
僕は跪き、指輪を震える手で、バクバクドキドキと見せたのを覚えている。
「もちろん、大切にしてもらわないと困ります!」
由美は即答で、とても嬉しそうに笑っていた。
そして、僕らは結婚したのだ。
しかし、結婚後、僕に仕事のオファーが来た。
「桃井君、新しいプロジェクトのメンバーに選ばれたそうだ、是非海外で活躍してほしくてね。どうかな?」
それは突然だった。僕は嬉しくて仕方なかった。念願の、海外での仕事だったから。僕の会社で作った鉄を、世界各国で活かす仕事が出来るのだ。
自分が認められて、世界に飛べるんだと、僕はガッツポーズだった。
でも、由美のお腹には、その時赤ちゃんがいたのだ。いくら夢だったからとはいえ、大切な由美を置いて行くなんて、できない。喜んでいたのもつかの間、上司に提案された後、帰り道で冷静になって考えた。
大切な家族を見捨ててまで、僕は夢を叶えたいんじゃないし、そこまでして新しい世界へ飛び込みたいわけではない。
でも、あの時、由美は言ってくれたんだ。僕が広い世界で何かを追っかけている姿が好きだから、行っておいでと。
だから、そう言って送り出してくれた分、恩返しをこれから僕はしていきたいのだ。
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