八月二十一日

 ――――ジリリリリリリ




 朝か……。




 目覚ましが鳴り、僕は起きた。大きな音の目覚ましを、手を伸ばしてグッと止める。そして、カーテンを開けて、今日も日本とは違う、カラフルで壮大な自然の景色を眺めるのだ。


 東南アジアに暮らして、もう、半年は経つだろうか。この暮らしにも、初めて来た頃よりは慣れたとは思う。




「でも、日本に早く帰りたいな」




 ここの大自然が僕は大好きだ。この地が好きで、ここへ来た。


 でも、そんな大好きな自然よりも、僕はもっと大事な、一緒にいたい家族が出来た。






「由美、海。早く逢いたいよ。今日も仕事に行ってきます。パパは頑張るからね」






 今日も作業着を羽織って、玄関に置いてある、家族三人の写真に挨拶をし、外へ出る。




 気合を入れて、朝日の眩しい世界へと踏み出すのだ。




 僕は世界各地で仕事をしている。様々な世界を渡り、いろんな技術を学んできた。




 東京にいた頃僕は、大学を卒業してから、鉄鋼会社に就職をした。日本でも大きな、鉄で世界を変えられる会社だ。


 社会人一年目からは、東京で仕事をスタートさせたが、次第に各国で仕事をする人となった。




 世界を飛び回るなんて、大変そう……。なんて思う人は多いだろう。でも、僕にとっては、世界を飛び回ることが出来るから、楽しいんだ。世界には、僕が見たこともない〝世界〟が広がっているのだから。




 でも、家族は東京にいるわけで、遠くの地にいるのは寂しいと、今は強く思う。いくら、自分の楽しいがそこにあったとしても、一番大切な家族がいなければ、僕はダメなようだ。




 だから、僕は再び東京勤務の希望を出した。


 そして、八月三十日、飛行機で長旅を経て、東京に帰る予定だ。




 寂しい気持ちはもうすぐ無くなるのだ。




 ちなみに、帰ることを、僕は妻に言っていない。突然帰って、サプライズしてやろう、なんて思っている。




 それが今、何より楽しみで、ワクワクしている。海と由美はどんな顔をするのだろうか。楽しみなんだ、とっても。








 僕が妻と出会ったのは、お互いが大学生の時だった。あれは、ある夜の公園で寝っ転がっていた時だった。家近くの公園の、あまり人が気が付かないような隠れ家的なお気に入りの場所で、いつものように心を休めていたんだ。




 そんな僕の視界に、すごいことが起こったのだ。眺めていた空に、少女が浮かんでいたのだ。僕は、目を細め、興味津々に見つめた。最新式の機械か、プロジェクションマッピングか、それとも霊のようなスピリチュアルななにかか。いや、どう見ても、あれは間違いなく、空飛ぶ魔法少女だった。




 その魔法少女を、サアアアと優しく風が包み、周りの木々はそんな彼女を際立たせるように踊って見えたのだ。夜の小さな街灯しかない公園で、彼女は輝いていた。




 美しい。そう思った。自然に溶け込む、素敵な笑顔の女性が空で踊っていたから。




 僕はそれを、夜、公園へ足を運べば見ることが増えた。そして、どうしても話がしてみたいと、ある日、空から降りてくる彼女のところに走って行ったのを覚えている。




 それが、今の僕の妻だ。

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