八月二十日
今日は海と、かあさんと私の三人で、夏のお祭りへとやってきた。
この村の神社の、伝統的な楽しいお祭りだ。幼き頃の私は、毎年このお祭りを楽しみに夏を過ごしていたのを覚えている。
海は、とてもはしゃぎながら、屋台が並ぶ道を駆け、バタバタと進んでいた。
「危ないから、走らないの!」
「ママ見て!あそこに透明な飴があるよ!」
私の言葉など、興奮状態の息子には届かぬようだ。赤い〝祭〟の文字が背中に書かれた、青い法被を羽織って、楽しそうに気になる飴まで一直線に走っている。
「ひとつ三百円じゃ」
「ママ、早く買って!」
「待ってよ、早いって。しょうがないなあ」
「子供はなんでも早えな、追いつかん」
仕方なく急ぎ、海のもとに辿り着くと、りんご飴のような大きさの、透明な飴の球体が刺さる棒が屋台で売られていた。
実はこの飴、古くからこの地域である飴だ。昔、魔女たちはこの飴を買って、魔法で色を付けたんだとか。今は、魔法を使える人はほぼいないので、お店の人が着色料で好きな色にしてくれる。
まあ、昔からの、魔女の村ならではの伝統的スイーツといったところだろうか。それがこういった形で今でも引き継がれているのだ。
「三百円ちょうどじゃな、毎度あり!」
私が海の為に払い終えると、屋台のおじさんが海にひとつ、飴を渡す。
「あ、そうじゃ。色付けたいか、聞くん忘れ……ん?色が付いてるが!魔法使えるんかな!こりゃえらいこっちゃ」
着色するか、聞くのを忘れたとおじさんが海に飴を持たせたまましゃべっていると、海の飴の色は、突然透明なエメラルドブルーに変化した。
「まあ、海も使えるんか、そうか」
「かあさん、私、海がそういうの出来るとこ、初めて見たんだけど」
「でも、あんたも海と同じ年齢の時には、空飛んどったで」
「そっか。そういうもんか、でも、いや、いいんだけれど……」
「心配か?」
「うん、まだね」
私はかなり動揺しているのだが、かあさんはそこまで、驚いてはいなかった。魔女の血が流れている以上、魔法は使えるものなのだろう。しかし、使えるようになるのはいいのだが、困ったことをしないことを祈る。
「ねえ、僕すごい!?」
純粋な目で、自分の力を喜びながら、私を見つめる息子は、どうやら今年、大きく成長したらしい。
またひとつ、息子の新しい進化を知った、夏祭りだった。
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