八月五日
「おはようかあさん」
「おはようさん、良く寝られたんか?」
「良く寝たよ」
朝起きると、今日もかあさんが朝ごはんを作ってくれていた。温かく優しい味の卵が入ったみそ汁と、ほくほくの白いご飯。甘くて美味しい卵焼き。
「いただきます」
母の味は、全てが幸せだった。
「今日も美味しいね、幸せだ」
「子供が出来てから、由美はかあさんに優しくなったんな?」
「そんなことないよ」
「あるじゃろ」
子供の頃、いつも当たり前に食べていたご飯が、自分が母親になって格別美味しいんだと気が付いただけだ。
「そういや、海は?」
「虫取りいっとる」
「なら、昼には戻ってくるか」
ここは都会と違って、子供が勝手に出かけても、安全だ。近所の人が誰かしら見ていたりするし、変な人も出てこない。子供にとって、自由にのびのび遊べる楽園だ。
きっと、カブトムシを探して、山を駆け回っているのだろう。好奇心ありありの海は、きっと冒険だとか言って楽しんでいるに違いない。
「いいねえ、子供は自由で純粋で」
「ええ?」
「いや、大人になるとさ、ほら、なんかこう、大人な心に変わるから」
「それはしょうがねえ」
しょうがないことだ。別に悪い事ではない。でも、私は、大人になって知りたいことが増えたし、疑問が増えた。子供だったあの頃のように純粋に真っ直ぐ知りたいことではなく、落ち着いて知りたいことだ。
「ねえかあさん、おばあってどうして消えてしまったの?死んでないんでしょ?」
そう、私はずっと疑問に思っていた。おばあは私が産まれる前、消えてしまった。死んだわけではないらしい。一体何があったのだろうか。私のおばあちゃんって、どんな人なのだろうか。
子供の頃、抱かなかった疑問は、大人になって急に知りたくなるものだ。
空が青いのも、海が青いのも、当たり前に思っていた幼き頃は過ぎ、大人になってどうしてなのかを気にしだす。
「知りたいか?」
「うん」
「ならな、お盆に丘にいかれえ。あそこでおばあに会える。聞くとええ」
「い、生きてるの!?」
「生きてはねえ、でも、死んでもねえ」
「え?」
「消えただけじゃ。お盆には出てくるだけじゃから」
どういうことだろうか。かあさんは、優しい岡山弁で、私に教えてくれたが、よくわからなかった。生きてもないし死んでもいない。消えただけ。だから、会えるのだと。
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