八月四日

『いただきまーーす!!』




 夕食の時間が華やかだ。人が一人増えただけで、こんなにも花が咲く。みんなでテーブルを囲んで楽しく食べる晩御飯は、笑顔の味がした。


 大好きなかあさんのごはん。昔からずっと、この味が、私が笑顔で生きる為の元だと思う。


昔は毎日食べていたというのに、今は実家に戻ったこの時期しか味わえないのだ。私にとって超スペシャルな、貴重なご飯となってしまった。




 誰かがご飯を作ってくれるって幸せだ。




 今、そう強く感じる。




 母親になってからは、毎日自分で作ってきた。料理なんて、そんなに得意ではなかったけれど、今は慣れたものだ。リンゴの皮だって、綺麗にくるくると剥けてしまうし、量を測らなくても、調味料で好みの味に変えられる。


 でも、慣れても家事は大変だ。買い出しだって、作るのだって洗い物だって、全部私の仕事なのだから。それなりに、毎日疲れるし、楽をしたいとは思う。


 大人になって、やっとかあさんの気持ちを知ったし、かあさんのご飯の美味しさを再確認したように思える。


 今日は、かあさんの味の温かく湯気が上がるみそ汁と、岡山の名産鰆の味噌漬け、里芋の煮っころがし、ほうれん草のおひたしを味わった。全部全部、この土地でしか、この家でしか味わえない貴重な味だった。岡山の鰆は身がぷりりとふわふわとして、美味しいのだ。子供も美味しく食べられる魚だ。




 海が嬉しそうに頬張るのを私は眺めて、昔の自分を懐かしく思った。




「嬉しいわあ。海が来てくれてな、おじいちゃんも喜んどる」




 かあさんは嬉しそうに海を見つめて言った。美味しい美味しいと幸せそうに頬張る海を見ていると、誰だって幸せな気持ちになれると思う。




 おじいちゃん、つまり私のとうさんは、だいぶ前に他界している。私がまだ、高校生の頃いなくなってしまったから、海は私のとうさんの顔を知らない。こんなに可愛い孫を、見せてあげたかった。


 かあさんととうさんは、ふたりともこの地域で育ち、この地域で出会ったらしい。だから、ふたりとも、魔法のことは良く知っている。両方の家系が、魔女の一族として、力が残っているとされていたらしく、特に、私のおばあちゃんはすごい人だったとかなんだとか。私のおばあちゃんのことをみんな、〝魔女のおばあ〟と呼んでいたらしい。




 私は会ったことなんてないけれど。私が生まれる前に、突然消えてしまったらしいから。




 私に力があるのは、そんなおばあのおかげだろうか。




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