第15話 作戦開始!
橋の中心を目指して『切り札』を放り投げる!
特別運動経験のない俺が投げて届くか不安だったが、流石はゲーム世界。しっかりと『投擲』の範囲も決まっているようだ。
狙った通り、石橋の中心あたりに『それ』が落ちていった。
ゴブリン共の先頭は、丁度橋の半分を超えて迫ってきているところだった。
……狙い通り!
しっかりと見届けてから赤褐色の外套のフードを被り、全身とヴェルトラムを守る様にまとった。
瞬間——向けた背の方から、橙色と黄色の閃光が走る!
轟音と共に全身が吹き飛ばされそうな熱風が吹きつけられてきた!
「! アチ、アチチィ!」
マントで防いでいるのに、それでも軽く熱を感じる。フードを被っているが前髪がチリチリと焼け焦げていく。
ゲームじゃねえのか、これ!?
「我慢したまえ! 君が耐えなければ私の玉の肌が焼けてしまうぞ! どちらの価値が高いかは一目瞭然だろう!」
テメ、このクソガキ……!
自分と外套で覆われた中から、修道女の服をまとった——天使と勘違い出来るくらい可憐な——幼女が発破をかけてくる。
「着弾の位置もタイミングも申し分ない! 初手は大成功だよ!」
そりゃよかった。これで次の行動に移れる。
「ここは橋の上、逃げる場所も隠れる場所もない。それは私達も君も同様さ」
「ああ。つっても一人、二人程度じゃ到底守り切れないほどでかいけどな」
「そこで、まずは君も持っている『これ』……火召石で敵の戦線を崩す。私達が持っているのは最大でも火召石(中)。本来なら、あのスタンピードの前では時間稼ぎが関の山だね」
「しかし君が使ったなら話は別……『あのスキル』があるだろう?」
「……『あのスキル』?」
途端に呆れた表情を浮かべ肩を竦めるヴェルトラム。わざわざデカいため息のおまけつきだ。
「やれやれ……『英傑の知恵』だよ。覚えているかい? 君が魔物に囲まれて考えなしに、鎮座していた『魔剣』を手に取ってゲームオーバーになった後……ひててて!」
思わず弾力と瑞々しさに溢れた頬をつねってやる。
そもそもあれだって、スタート位置から魔物に囲まれていたのだ。いや、正確にはその『魔剣』とやらを祭っている祭壇のど真ん中に転送されたのだ。
当然『魔剣』を崇めていた魔物たちが殺到してきたので一か八か、凄そうなその剣に賭けたのだが——結果はお察しの通り。
超常的な力を持つ代わりに使用者の命を削る。それが『魔剣』とのことだ。レベル1の俺に耐えられるはずがなく、無惨にもゲームオーバーとなった。
そこまで思い出して気が付き、ヴェルトラムの頬を放してやる。
「『英傑の知恵』は覚えているけど、あれは『アイテムの鑑定』だろ?」
「たったそれだけなはずがないだろう? あげる時に説明したよ? 全く、仕方のない中年……!」
こちらの動きを察し、手で両頬をガードするヴェルトラム。
ちっ、一丁前に防御を覚えやがった。
「と、とにかくだね! 『英傑の知恵』にはアイテムの鑑定以外にももう一つ効果がある! それが『消費アイテムの効果2倍』さ!」
なるほど、それでか。
「分かるだろう? それは火召石にも適用される。君が使えば通常とは比べ物にならない効果を発揮するのさ」
「それであのゴブリン共をやれるのか?」
「いいや、残念ながらそれは難しいよ。ほら……」
ヴェルトラムが指さす方を見ると、橋の目前に迫ってくるゴブリンの群れ……さらに背後にいるのは、まさに軍勢だった。
「……マジかよ」
「あの数は流石に全滅させられない。だから……」
外套の上からでも容赦なく焼こうとしてくる熱波、それが収まってくるのを背で感じる。慎重に、フードと袖で防ぎつつ橋の方に目を向けると……
地獄のような黒煙と爆炎が、手を取り合って踊っていた。
未だに猛り続ける炎、それに巻き込まれて転がるゴブリン達が光になって消えていく。改めてゲームであると実感しつつ、そいつらは不幸だったなと思う。幸運なのは、熱いと感じる間もなく光になって消えた無数のゴブリンの方だ。
黒煙に包まれていても解る。橋の中腹あたりで形を保てている生物はいなかっただろう。
「よーし、次だ! 突撃あるのみさ!」
俺が、だけどな!
ヴェルトラムの掛け声に心の中でだけ答え、猛然と橋を駆け抜けていく。黒煙と炎が見る見るうちに眼前に迫ってくる!
ここだ!
通り抜けられないくらいにそれが強くなったところで、思いっきり跳躍!
やはりゲーム、現実世界では考えられない高さまで飛べた。だがそれを遥かに上回る、未だ燻り続ける炎と熱波をも跳び越えていく!
異常とも言える滞空時間と跳躍距離の正体は、お察しの通りヴェルトラムからもらったスキルの一つだ。
スキル:飛天の御業
高空跳躍が出来るようになる。さらに……
高空跳躍の先、所々に破壊の後を残す石造りの橋と戸惑うゴブリン共が見えた。そこ目掛けて落下しつつ、背負った旅人の大剣に手をかける!
——コマンド、特技『激震剣』!
自然と体が動き、落下の力を利用して大剣を橋に突き立てた!
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