第14話 スタンピードと締め出し

 走る! 目指す場所は決まっている!


「『スタンピード』。大体の想像はつくだろう? 魔物の大量発生さ」


 始まりの町の一つという『ファスタ』。

 その城門を目指して草原を踏みしめ走り続ける!


「あれは『ゴブリンのスタンピード』だね。何が原因かはまだわからないけど、とにかく止まらなさそうだ」


 近寄ると『ファスタ』の周囲には堀があり、その上を石造りの橋で渡しているのが分かった。

 ひたすら城門を目指して石の橋を駆ける!


「……聞いているのかい? 要くん」

「聞いてるって! てかお前、楽そうだな! オイ!」


 さっきから『スタンピード』の解説をしてくれている幼女に視線だけを向ける。必死に足を動かし、腕を振り、走り続ける自分の横を浮遊するヴェルトラムがいた。

 自分が背負うでも自ら走るでもなく、スイーと音が出そうなほど軽快に飛んでついてきているのだ。たなびく金髪と修道服が、また嫌味なほどに綺麗だった。


「私のCategory(種族)を見たろう? 妖精(フェアリー)だからね。『飛行』スキルはデフォなのさ」

「羨ましい限りだよ!」

「その代わり物理能力は最低クラスだからね。君、可憐で華奢な私をしっかりと守ってくれたまえよ」


 石橋を駆け抜けてようやく門に辿り着いた! ここまでくればあと一息!

 しっかりと閉ざされている頑強な門を叩きつつ呼びかける!


「すみません! 開けてください!」

 拳でひたすら門を叩く! 叩きつつ何度も「すみません!」と呼びかけるのも忘れない!

「必死だね。要くん」

 当たり前だろが! 今度という今度はゲームオーバーになっちゃいかんだろ!

 その甲斐あってか、門の向こうから声が聞こえてきた。



『……誰かいるのか!』

 来た! これで助かる!

 流石にこの門を潜れば安全だろう。ただのゴブリン程度にはどうにかできないはずだ。


「はい! ここを目指していたらスタンピードが迫ってきて……とにかく開けてください!」

『わかった! すぐに……』

『おい、待て! スタンピードはもうすぐそこだぞ?』


 おや?


『だからって、見捨てるわけには行かないだろ!』

『それはそうだが、ここを突破されたらどうする? 町には女子供も大勢いるんだぞ!』


 おやおや?


『そ……それは……』

『今更バリケードを崩す暇なんてないんだ!』


 これはマズイ展開ですね。


「ちょ! 全開じゃなくていいんです! ちょっと、ちょっとだけ隙間を開けてください! 気合いで通り抜けますから!」

 クッソ! 去年あたりから下腹のポッコリ感が気になってたけど大丈夫か?

 一応体型は中肉中背を維持しているんだけど、年には勝てないのが現実!

 おのれ中年太り!



『……すまない』


 ウッソだろ、オイ!


『どうにか橋の上で戦って耐えてくれ! 私達も門の外から援護を出来ないか試してみる!』


 やべぇよ、やべぇよ。

 レベル1でイベント戦闘(敗北時の救済措置:不明)だよ。




「うーん、大変なことになってしまったねえ。要くん?」

「おま! 他人事みたいに……」

「落ち着いて、君なら大丈夫さ」

 飛行をやめ、自分の隣に立つヴェルトラムが微笑を浮かべていた。空色の瞳に、進退窮まったオッサンこと俺が写っている。

 ホント……見た目がいいって得だよな。もうほとんど武器だよ。


「いいかい? いくら君が強力なスキルを十二も持っているとはいえ、正面からはまだ無理だ。あの数じゃ『鋼体化』で突っ込んでも、時間切れで嬲り殺しにされてしまうよ」


「……手は、あるのか?」


 ふふん!


 途端にドヤ顔で胸を反らすヴェルトラム。なんつーか、そのギャップは何とかならんのか?

 いや、まあいいや。おかげでこっちの焦りも恐怖もしぼんでしまった。やるだけやってやろうじゃないか!


「もちろんさ! よく聞きたまえよ……」









 自分たちの背後には冷たく閉ざされた門。下がる場所などどこにもない。

 迫るゴブリンの群れ、その先頭がついに石橋の目の前に来た。


「なあ、ヴェルトラム」

「何かな?」


 自分たちが立つのは石造りの橋、逃げ場所などどこにもない。

 雪崩のごとく、石橋を進撃し始めるゴブリンの軍勢。


「お前『飛行』スキルがあるなら、お前だけでも逃げられるんじゃねえか?」

「まあね。と言いたいけど……まだ門や城壁を超えるくらい高くは飛べないんだ」


 門の向こうから出来る援護など、たかだか知れているだろう。

 ゴブリン共が、ついに石橋の真ん中まで迫る。


「……そうか」

「それにどの道、君がいなきゃ仕方ないからね。短い間だけど、笑いあって苦楽を共にした仲だろう?」

 その言葉に思わず鼻で笑う。




「苦労したのは……俺がほとんどだったろう、が!」


 乾坤一擲。

 橋に雪崩れ込み迫るゴブリンの軍勢へ、一撃を放った。

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