第16話 作戦成功!

「橋を落とすとしよう」

 ヴェルトラムの提案、たしかに有効だろう。橋さえなければ、いくら数がいようとゴブリン共は『ファスタ』に来られない。流石にあの小鬼じゃ堀はどうやっても超えられないだろう。


 だが……

「この橋、結構でかいし頑丈そうだぞ? 火召石で出来るのか?」

 自分の分とヴェルトラムの分で持っている火召石(中)は二つ。順当に考えれば一発は露払い。もう一発で橋を落とすことになる。


「まあ、半分正解というところかな。橋を落とすには君自身にも活躍してもらう」

「……どんな?」

「火召石で橋のゴブリンを片付けた後、君が特攻して……ひてててててて! ひ、ひひふぁまえ!」

 今度は両頬をつねって引っ張ってやるが、ただ突撃させるだけじゃなさそうだ。とりあえずは続きを聞いてやるとしよう。


「橋に雪崩れ込んできたゴブリンを一掃し、こちらのレベルを一気に上げる。『英雄の器』を覚えているかい? 最初にあげた経験値2倍のスキルだよ」

「ああ。これまで一度も使う機会がなかったスキルな」

「今はそれが『要』になるよ! 要くんだけに! ……ちょっ、こんなことしている場合じゃないだろう?」


 ちっ、察知もするようになってきやがった。また両頬をつねってやろうとしたんだがな。

「そしてレベルを上げると『コマンド』……特技も覚える。君にはスキル『飛天の御業』もあるからね。強力な物理攻撃系を覚えるはずさ」

「元は高空跳躍で貰ったやつだけど、たしかにそんなこと言っていたな」

 高空跳躍——その名の通り、通常のジャンプよりもはるかに高く飛べる能力である。しかももう一つ、隠し能力があるのだが……

「そう、更にその高空跳躍を活かした特技も覚える。その中で、こんなのがある」











 コマンド:特技『激震剣』。

 高く飛び上がってから剣を地に突き刺し、その衝撃で周囲の敵にダメージを与える。

 見渡す限りのゴブリンには効いた。

 なすすべもなく硬直して倒れ伏していくゴブリン達。恐らく自分のレベルが一気に上がったせいだろう。そのダメージだけで倒せたのだ。

 そいつらが光になって消えていくが、見送っている暇はない。



 狙いはこっからだ!

 大剣を橋から引き抜き、そこに『切り札』を入れる。


 よし!

 反転、今度は【ファスタ】の方へと駆け出すと同時……自分とヴェルトラムの火召石(小)を後ろへとばら撒いてやる。

 その数、六つ。



 駆ける勢いのまま地面を思い切り蹴り、中空に浮く。背後からコン、コン、と石と石を打ち合わせる音が響いてきた。


 地から跳ぶ、再び高空跳躍が有り得ない高さまで自分を押し上げる。と同時に……背後から連続した爆音が六度響く。

 そのたびに熱波が自分の身体を焼こうと——いや、それらとは比べ物にならない轟音と熱風が全身を叩いてきた!



 誘爆成功! これで橋が落ちていれば……!

 熱風に煽られ、体勢が崩れる。そのままきりもみしつつ落ちていくが……どうにか、橋の上に落ちられる様だ。

 更に幸運なことに、目まぐるしく映る視界で崩れていく橋を捉えることが出来た。一瞬だったが、確かに草原から堀を超える部分……そこの橋がただの石とコンクリになって還っていく。


 やった……ぶえっ!


 作戦の成功を実感していたら、冷たくて堅い橋に叩きつけられた。自分の予想よりもずっと早く落下していたんだな。


「痛ってえ……いや、そんなに痛くない?」

 精々、どっかになんか当たったってくらいのもんだな。そういやこれってゲームだもんな。そりゃ本格的に痛みなんかない……いや、それでもわざわざ痛覚なんか実装するか?

 普通は出来たとしてもやらないだろ。痛みを伴うゲームなんて、よほどのマゾヒストじゃないとやろうとしないぞ。そんなクソゲーは大爆死待ったなしだ。

 思い返せば最初の熱風……あれも「アチチ」という程度には熱かった。



 このゲーム『デイブレイク・ゲート』の異常と現実世界が消えた……そのことに関係があるのか?




「お帰り、要くん! 素晴らしい活躍だったよ!」

 よく通る綺麗な声、そちらに目を向けると修道服をまとった幼女……ヴェルトラムがいた。頬は朱色に染まり、顔は……ドヤ顔だった。

 華奢で小柄な身体で精一杯に胸を反らしている。


「私の作戦、見事に的中しただろう? 私を連れてきてよかっただろう? 遠慮なく感謝してもいいんだよ?」

「……そうだな、お前がいてくれて助かったよ。ありがとう」

 今は溜息も何も飲み込むことにしよう。

 俺だけならどうにもならなかったろうし、連れてきて良かった。それになんだかんだ言い……こいつとのやり取りも楽しんでいるからな。



「うんうん……うぇ! ええっと……その、まあ、どういたしまして、かな?」

 ヴェルトラムが朱色の頬をさらに染め、目線をどこか明後日の方向へと逃がす。こうやっていれば、本当に文句の付け所がない可憐な幼女なんだけど……


「あ、あ、あ~、その、君……頭でもぶつけたのかい?」

 なんだよ、俺が素直にお礼を言うのはそんなに以外か?

 寝転がった姿勢から起き上がって、深く朱色に染まった頬に手を伸ばしてやる。ヴェルトラムが即座に手で頬をガードした。

 そうそう、こんな感じでいいっての。


「や、止めたまえ! このロリコン三十路!」

 前言撤回。

 ガードしていた手を引っぺがし、両頬を引っ張ってやることにした。

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