第二章

第12話 ゲームスタート?

「……おぉ」

 漆黒から次に写ったのはまた草原、最初に一つ目大巨人に潰された時を彷彿とさせる光景だった。だが、その時とは確実に違う物がある。


「おおぉぉ……」

 石とコンクリートを組み合わせて作られたであろう城壁、そこを出入りできるようにした木製の門、それが自分の視界に映っている。


「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 そう、それは間違いなく人工物!

 町、明らかに人が住んでいる場所が……おおよそ数百メートルほど先に、確かに鎮座しているのだ。



「いぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ!」

 自然、雄叫びとガッツポーズを繰り出す!

 こんなに嬉しかったのは、就職が決まった(ただしガチブラック企業だった)時以来かもしれない。あの城壁と門が天国への入り口に見える!



「どうだい? 私にかかればご覧の通りさ。連れてきてよかっただろう?」

 自分の腹か腰くらい、そのあたりの高さから綺麗でよく通る声が響いてきた。



 そちらに目をやると……

「ああ、いや、どのみちこうなっていただろうね。何せ君は子供なら放っておかない、筋金入りのロリコンだ」

 金糸が霞むほどに美しい金の髪、それを青いリボンでまとめた髪で流している。瞳は晴れ渡った青空に魂を込めたように、肌は白磁に血が通ったように瑞々しい魅力に満ちていた。


「私のような才色兼備にして容姿端麗、さらにさらに桜梅桃李な幼女を放っておくという選択肢はなかったろうね!」

 神の彫刻家が、心血込めたように整った容貌をドヤ顔にした幼女——ヴェルトラムが胸を張っていた。



 ……何言ってんだ、こいつ。



「……」

 何となく、見えている金糸のつむじに軽く拳を当てる。


「ん? 何かな? 君のような不審で冴えない三十路が迂闊に私に触れると、警備軍を呼ばれてしまうかもしれないよ?」

 警備軍……いわゆる、この世界における警察のようなものか?

 まあ、それは置いておくとして……感情のまま、ぐりぐりと力を入れて拳を押し付けてみた。


「君、ちょ! 止めたまえ! ロリコンがしていい所業ではないよ!?」

 その言葉を聞き、さらに拳を下へと押し込む。

 勝手に人の発言を拡大解釈してロリコン扱い、これは許されない。俺の名誉を著しく傷つけた報いを受けさせるべきだ。


「いたたたたた! 止め……悪かった! 謝るから止めてくれ!」

 その言葉を信じて拳を退けてやる。



 見た目だけなら『地上に遊びに来た天使』のような幼女が「ふぉぉぉぉぉ……」と呻きつつ、両手で頭を押さえている。

 中身はマジでメスガキなんだよな……こいつ。


 あの……現実世界が消えて自分も消えると告白した、健気に強がっていた幼女はどこへ行ったのか。まあ、このくらいのほうが俺も気を使わなくていいかもしれない。


 うん、そう思っておこう。深く考えるのは止めだ。


「……で、あの町は安全なんだよな?」

「駆け出しが集まる町の一つ『ファスタ』さ。あそこが安全じゃなかったら、『デイブレイク・ゲート』は正真正銘のマゾゲーになってしまうよ」

 なるほど。

 恐らくだが……あの『ファスタ』という町は、ゲーム開始したプレイヤーのスタート地点となる町の一つなんだろう。

 ここからはさらに推測を重ねるが、選択したカテゴリーやクラス——種族や職業——によって、他のスタート地点のような町を選べる方式か。


「それ聞いて安心した。じゃあ、早速行くか」

 見えている城門に向かって歩き出そうとしたが……

「おっと待った。ただ歩くだけじゃなく、君の装備やアイテムを整えようじゃないか!」

 一利……いや、利益しかない。

 言われて気が付いたが、自分は部屋にいた時——安物のジャージ——のままだ。これじゃあ性能的にも、雰囲気的にも酷いと言わざるを得ない。


「まずはステータスを開きたまえ。君が望めば開くはずさ」

 言われた通りに頭でそう望むと、何もないはずの中空にメッセージウィンドウが表示される。自分が見やすい、丁度いい高さと角度だ。




〇藤栄要(ふじえかなめ)Lv:1

Category(種族):人間(ヒューマン)

Class(職業):未来の大英雄

Condition(状態):正常


——ステータス——

HP(体力):30

EP(気力):30

AT(物理攻撃):15

DF(物理防御):23

MAT(魔法攻撃):15

MDF(魔法防御):23

AGI(敏捷):10

TEC(技量):10

INT(知性):10

LUC(幸運):2




 自身を表す数値が実に機械的に表示された。


 MMORPGなのにステータスを確認できたのが、今ようやっと……だな。なんだコレ? 俺は本当にMMORPGをやっているのか?

 つかLUC(幸運)低っ! こんなところ現実再現すんのやめろや!


「そのステータスウィンドウをスワイプするイメージで……そうそう。そうしたら『プレゼント』というウィンドウに辿り着くだろう?」


 頭の中でイメージするだけで、表示されたメッセージウィンドウが右に流れていき……ヴェルトラムが言った『プレゼント』のウィンドウが記された。




——プレゼント——

・初心者セット




 これだけがある。

 なるほど、ヴェルトラムが最初に説明した『装備&アイテムの初心者セット』が、これなのだろう。


 ……これも初めて知ることだし、実行するのも初めてだ。

 最初にデイブレイク・ゲートを始めた——一つ目大巨人に潰された——時から、このセットはあるってわかっていたことのはずなんだけどな……



 いや、深く考えるのは止めよう。

 俺はゲームを始められた、それでいいじゃないか。



「それを指定すると開封されるはずさ。ちなみにこの『プレゼント』というウィンドウは、NPCからの報酬も表示されるから覚えておくといいよ」

 となると……表示が不鮮明な成功報酬やイベント報酬も、こちらに表示されると考えた方がいい。


「これで初心者に有用なアイテムが手に入ったはずさ。じゃあ次に、装備とアイテムのセットを教えようじゃないか」

 そう言って町へと歩いていく幼女ヴェルトラム。自分もその小さい背中に続く。

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