第10話 今の話に戻ろう

 まあ……なんだ?

 詳しいやり取りは省くが「ぷぷぷっ……本当に、鈍くさいね。君は」そう笑われたと言っておこう。


 毒蜘蛛にやられた後に貰ったスキルは『鉄壁の肉体』——全状態異常無効かつDEF(物理防御)に上昇補正——だった。

 そして四度目の『デイブレイク・ゲート』では、ゴースト系の魔物に混乱させられて自殺。曰く、バッドステータスは大きく二種……状態異常と精神汚染とに分けられるとのことだ。前者は肉体的、後者は精神的な影響を及ぼすと。

 見事ゲームオーバーになった。



「くっwwwもうだめwwwリアルラック雑魚すぎwww」

 今度は完全に指を指されて、腹を抱えて笑われた。



 そしてまたスキル『不屈の精神』こと、全精神汚染無効かつMDF(魔法防御)に上昇補正を貰う。

 懲りずに『デイブレイク・ゲート』へと赴く。だが……ああ、今回もダメだったよ。開幕十割だからな。




 そんなことを繰り返し……すでに十二回もゲームオーバーになり続けているのだ。未だにまともなバトルどころか、最初の町にすら辿り着けていない。


 本当に多種多様な死に方——もといゲームオーバーをさせられた。

 敵の攻撃を『鋼体化』で防いだと思ったら、追加効果の即死でゲームオーバー……

 ただの兎かと思ったら、中身はドラゴン顔負けのステータス。体当たり一発でゲームオーバー……

 砂漠に出たかと思ったら、流砂を作り出す魔物に出くわして砂に呑まれてゲームオーバー……


 そうして戻るたびにスキルを貰っていたが、ことごとくがそのスキルじゃどうしようもない状況ばかりに当たってきたのだ。

 十二回目はスキルをくれるヴェルトラムも半分ヤケクソだったのか、よくわからないがとにかく強力な——チートと言ってもいいらしい——ものまで貰ってしまった。



 流石のスキル祭もネタ切れか。

 しかし『とっておき』とは……すでに十二個も『特別』を受け取っているが、さらに凄いのがもらえるって言うのか?











「ふふん、心して聞きたまえ。これはまさにチートを体現したかのようなものさ。それは……」

 自然、こちらも注目してしまう。

 とにかくこの状況を打開できるとんでもスキルを、いい加減俺にゲームをさせてくれる救世主を期待してしまうのだ。




「『私自身』さ!」

 ビシッ! と効果音が出そうなほどに自らを親指で指し示すヴェルトラム。




「はい、お疲れ様っしたぁー」

 解散、以上! 終わり!

 全身の力が抜けると同時、自然と仕事を上がる時の挨拶が出てきた。


「えっ! 何故だい? 私を連れていけるんだよ?」

「いや、何で好き勝手にやろうとしたゲームで、他人なんか連れ歩かなきゃならないんだ? しかもポンコツAI……」

「それは聞き捨てならないよ! このスーパーAI『ヴェルトラム』をポンコツだなんて……」



 瞬間、感情が爆ぜた。



「ふざけるなぁぁぁぁ! 誰がどう見てもポンコツじゃねえか!」

「訂正を要求する! たしかに……ちょっとスタート位置の調整に苦戦してはいるけど、お詫びとしてスキルだって与えているだろう?」

「そのスキル殺しみてえな状況にばっかり送りやがって! ことごとくゲームオーバーになってんだよ!」


 ぐっと押し黙るヴェルトラム。だがこちらはもう止まらない!


「ムカつくぜ! 何で俺に気持ちよくゲームさせねえんだ! こっちは文字通り死ぬ覚悟でゲームやろうとしてんだぞ!? なのにまずゲームが出来ねえってどういうことだぁぁぁ!」

「わ、私を連れて行けば解決するんだ!」


 ……何、だと?

 荒ぶっていた感情が嘘のように凪いだ。


「私が直接行けば、より正確に転送位置を指定できるんだ。だから私と一緒なら運のない君でも、町の入り口でも街中でも好きな場所から始められるはずさ」

「……一緒に来て、その後はどうするんだ?」

「もちろん、君と一緒に『デイブレイク・ゲート』をプレイするつもりさ☆」

 こちらを指差し、パチリと星が煌きそうなウィンクをするヴェルトラム。ホントこいつ、見た目と声は文句の付け所がないんだよな。


 何だ? なーんか違和感……わざわざついて来る?

 そんな必要があるか?


「……街中まで行った後は別離。完全に別行動じゃダメか?」

「私だって傷つくんだよ?」

「……」


 何だ、この違和感は。

 今まで飄々として、自分を送り出して後は「はい、頑張ってー」だったヴェルトラムが……即落ちして戻ってきた自分を「ぷっ、くすくす……ざぁ~こ♪」だったメスガキAIが……



 あれ? そういや、さっきから心を読まれていない?

 おい、ポンコツAI! ガラクタ! スクラップ!



「な、何だい? 急に静かになって……ほら、有り難く『私』というチートを受け取り給えよ! そして感動にむせび泣くがいいさ!」



 うっせぇ、メスガキが!



 ……反応しねえな。

 こいつ……俺の心を読めなくなってる?


「ほら、あの、私は役に立つよ? 何せこの『デイブレイク・ゲート』というゲームの開発者の一人と言っても過言ではないからね」

 さらに役立つアピール……ひょっとして焦ってんのか?

 俺が連れて行かなきゃ、なんか不都合がある……いや、“不都合なことになった”のか?


「……答えは決まっているだろう? 要くん?」

 ふふん、と言いたげな表情を作れてはいる。だが今までの飄々とした態度とは違い、たしかに『必死さ』のようなものを感じる。


 一度ヴェルトラムから視線を外し、その後ろにある真っ白な壁を見る。

 相も変わらず殺風景な、雪よりも白い一面の空間……壁も天井も床も……うん?


「おいおい、要くん。いつまで必要もないことを悩み続け……「ヴェルトラム、お前……ひょっとして、弱っているのか?」

 思い当たったことを正直に突き付けた瞬間、ヴェルトラムの表情が凍り付いた。それは自分の予想が当たったことを意味している。


「ここ……来た時と変わらないように見えるけど、明らかに狭くなってるだろ?」

 そう。最初に来たときは床こそあったが、天井も壁も存在しない……ただただ際限のない純白の空間だったはずだ。それが今や、四方20メートル程度の四角い部屋のようになっている。


「さっきまでは当たり前のように心を読んでたけど、それも出来なくなってんだろ?」

 ヴェルトラムは変わらない。指摘した時に凍り付いたままだ。

 原因があるとすれば、今の俺には心当たりがある。


「それ……ひょっとして、俺にスキルやらチートをやったせいか?」

 心当たり、それは——俺のせいだ。

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