第9話 三度目の正直!

 三度『デイブレイク・ゲート』へ。


 深淵の黒から視界が開けた瞬間、周囲を確認!

 立ち並ぶ木々に柔らかに降り注ぐ木漏れ日、土と緑の匂いが鼻腔に届いた。


 ここは森の様だ!

 そう思うと同時にスキル発動『隠密』!



 今までの俺とは違うぜ?

 これまで理不尽な初見殺しに晒され続けてきた。同じようにまたすぐゲームオーバーになって、ヴェルトラムの所に送り返されるのはもうゴメンだ。


 あのメスガキAIにまた馬鹿にされてたまるか!


 やってやる! 『三度目の正直』って言葉を教えてやる!

 そう思った時には手頃な木に自分の身を隠すように、姿勢を低くして改めて周囲——さらに上空も確認!


 ……周囲に敵影等なし! ただし、これですぐ気を抜くのはアホの所業だ。

 今の俺に隙はない! さらに慎重を期す!


 そのままあたりに気を配りつつ見まわし続け……五感にすべてを集中させる。

 風に揺れる木の葉の音、それと同時に形を変えつつ振る木漏れ日。時折、虫のざわめきや鳥のさえずりも耳に届いてきた。

 状況が許すなら、たっぷりと森林浴でもしたいほどの環境である。



 ——動くものは、なかった。

 当然、自分の命を脅かす者や危害を加えようとする存在の影も形もない。一つ目大巨人も赤いドラゴンも、猪や熊のようなケダモノすらもいなかった。

 どこをどう見ても平穏な森の一角……危険はない。



 ふっ……勝ったな!

 また送られた場所が、街中でも町の入り口前でもないのは気に食わないが……まあ大目に見るとしよう。何なら勝てそうな魔物やらを不意討ちして経験値稼ぎもいい。

 さらに、勝てなくても『鋼体化』で対処可能!



 完璧じゃないか?

 勝者、藤栄要! 完全勝利!



 どうだ! これが俺の本気だ!

 あのメスガキAIの世話になることはもうない。今度こそゲームスタートだ!

 ここから俺の『デイブレイク・ゲート』生活、その輝かしい第一歩が始まる。


 ……と、そうだ。まずはステータスオープンだろ。

 たしか、開き方は明確な意思を持ってステータスを開くって……あれ? 




 何もない虚空、そこに唐突に表示された窓——まさしくメッセージウィンドウ——には、単純明快にこう書かれていた。


『スキル『隠密』使用中は、ステータスを開けません』


 マジかよ……やっぱ、どんなスキルでも欠点はあるんだな。

 溜息と同時、メッセージウィンドウを閉じてから『隠密』を解除する。何か変な感じがしたら、即座に『鋼体化』を使えば安心安全。

 さすがに出合い頭に『即死攻撃!』という理不尽はないだろう。いわゆるアンデット系が多そうなダンジョンならとにかく、ここは森の中だ。


 即死にだけ気を付ければいい今の俺に、隙はない。




「あ、痛て」

 右腕に突如として軽い痛み、のようなものが走った。シャーペンの芯をグッと押しあてたような、痛みとも痒みとも……ともすれば単なる接触と言えるほどに触覚が刺激された。



 何の気なしにそれを感じたところを見てみると——そこには、小さくも禍々しい影があった。



「……え?」

 丸く大きい腹部にくびれて短い胴、頭には八つの丸い目、脚は細長くそれも八本、全体的に黒の体毛に覆われている。そいつが自分の右腕に鎮座しており、牙を突き立てたのだろう。



 俺に噛みついたそいつは、まさしく蜘蛛だった。



 現実世界で小さい奴なら見たことはあるが、これだけの大きさ——自分の握り拳を超えるほど——の奴は、テレビ位でしかお目にかかったことがない。

 アマゾンの小さな死神! とでもテロップが出そうな……



 うぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!



 そう絶叫したつもりだった。

 飛び退いたままに倒れてしまう。全身に力が入らない。


 なんだ?

 おかしいぞ、どんどん力が抜けていく。眠気が止めどなく襲ってきて瞼が重い。ステータスをオープン出来ない。スキルも上手く使えない。



 ……あ、これ、ひょっとして毒じゃ(ry






 そして、再び漆黒に閉ざされる。

 また闇が、波打った気がした。

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