新月空間

 そこを俺は知っていた。

 当時は知りようもなかった泥沼の上へ、何本もの巨大な円柱が聳え立つ場所を。

 他には何も存在しない。

 泥沼と、聳え立つ三列に並んだ十本の柱、そして空には輝きを喪った新月だけ。

 ここは、それで全てだった。


 ……もしかしてセーブ・ポイント? いや、セーブ時の画面か!?

 正確には、ゲームの進行状況とリンクしているらしい、なにか表のようなもの。

 そのセーブ・スロット選択時に見れる奇妙な表は、この空間を俯瞰していたとでも!?

 確か左の列の真ん中が井筒いづつで、右の列の真ん中が堅固けんごだ。

 異能に目覚めた仲間が増えるたび、表は顔アイコンで埋められていく。それで前世の実況主も、ゲームの進行状況と推察していたし。


 またセーブと関りがあるのなら、いま誘われたことにも納得はいく。

 おそらくは章と章の間へ差し込まれる、セーブするかどうかの確認! それを現実に即したものが、なのだろう!

 つまり第一章をクリアしたから、へ招かれたのだ!


 なにより堅固けんごのアイコンが置かれていた柱の上には、本人らしき姿が確認できる!

 もちろん井筒いづつや桜先輩に……マク道の前でかしらに倒された『狂化していたサラリーマン』すらも!

 そして『確認できる』といったのは、全員で示し合わせたかのように奇妙な仮装をしていたからだ。

 まるで正体を隠すスーパー・ヒーローの――あるいはヴィラン悪者のようで、中の人を知らなければ正体は特定できそうもない。

 ……つまり、桜先輩にはかしら達を特定できないし、また逆もか?

 これを裏付けるように見覚えのない男は、俺にも身元が分からなかった。

 胸に大きなバツ印の紋章をあしらい、なんらかの宗教関係者めいた雰囲気を身に纏った、少なくとも中年か初老な男。

 ……なぜか初めに脳裏へ浮かんだイメージは『神官長』だ。それも信頼の置けそうにない。


 さらに首を捻らさせられるのが俺やかしらの扱いだ。

 なんとかしらの奴は、井筒いづつ堅固けんごの柱を結ぶようにやがる!

 これぞ『人と人を結ぶ力』とでも!?

 そして俺に至っては、柱の高さにいない。なぜか独りだけ泥沼だ。

 移動は自由にできるから、各柱の様子を窺えてる訳だけど……もしかしたら俺の存在を、誰も気付いてないんじゃなかろうか?

 イレギュラーだから、変則的な対応となった? それとも資格か何かが足りない?

 しかし、これがゲームと――それも進行度と関連しているのなら……――

 誰もいない残る五つの柱が埋まった時に、何かが起こるのか? 少なくとも次にかしら達の仲間となる人物は、空いてる柱の主のはずだし?


「……言祝ごうぞ、新来者達! 御身らは、再び月の満ちゆく証ならばこそ!」

 嫌いになれる声だ。おそらく俺は、この男――『神官』と馬が合いそうにない。

 それにゲーム的な情報だけでなく、なんらかの意味が、この空間にはあるようだった。

 ……というか、そもそも現実世界なのか、ここは? 次章予告の時みたいに、夢か何かを共有でもしているのでは?

「ど、どこなんだ? ここは!」

 我慢の限界へ達したのか、皆を代表するかのようにかしらが喚く。……気持ちは分かるが、それは悪手じゃないか?

 しかし、それを咎められるより先に――

「我が啓示を授けん! 視よ、御身らの宿命を!!」

 と『狂化していたサラリーマン』が叫び、自身の霊体に水晶玉を掲げさせる!

 その眩いほどな光の奔流に世界は染まり――


☆ 柱の位置関係図


   ①     ① 『神官長』

 ②   ③   ④ 井筒いづつ

         ⑤ 堅固けんご

 ④ ☆ ⑤   ⑥ 桜先輩

   ⑥     ⑩ 『狂化していたサラリーマン』

 ⑦   ⑧   ☆ かしらの浮いていた位置

   ⑨     ②、③、⑦、⑧、⑨は無人


   ⑩

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