第30話 三人拠れば、遠慮しがちな雰囲気
「いやぁ〜、ゴメンね剣道ちゃん。可愛い店員さんが剣道ちゃんの声で怯えてたから宥めるついでに、お持ち帰りしちゃおうかなって思っただけだってば。そんなに怒んないでよ」
「怒ってません。ただただ呆れてるだけです!」
頬を膨らませながら怒ってない宣言をする一香に、ミリアは耳を引っ張られながら「またまたぁ〜」とへらへらしていた。
どうやら、彼女は全く懲りていないようだ。
現役剣道部である一香の平手面打ちを背後からされ、鋭い眼光を向けられても全く動じる事なく、最終的に耳たぶを引っ張られたまま店の外に連れ出された後の状態で、ヘラヘラしてるのだからどうしようもない。自由気ままにもほどがある。
「とりあえず、今のは部長が全面的に悪いです。ついでに一香先輩に大声を出させた藤宮先輩も」
「千尋ちゃんは相変わらず数馬に厳しいね」
「普通ですよ、普通」
ミリアがちょっかい出していた可愛らしいウェイトレスさんに千尋が謝罪し終わり戻ってくるや否や、厳しい言葉が飛び出た。
そんな彼女に一香は苦笑していたが、千尋の目は一切笑っていなかった。相当お怒りのようだ。
その一方でミリアはといえば、懲りずに店の外から先ほどのウェイトレスさんにアプローチをかけていた。懲りないにもほどがある。
今度は一香のみならず、千尋も合わせてミリアに睨みつけられた事で、大人しくなりひとまず事なきを得たのだが。
そんなこんなで、喫茶店から別の場所へ向かう最中、千尋の口からとある疑問が飛び出した。
「ところで、一香先輩は部長がこういう人だって知ってたんですね、てっきり私だけだと思ってました」
と。
写真部に入部してからしばらくした時に、ミリアからキスされると共に彼女が
知るはずもない。一香がミリアにキスされた事は当事者しか知り得ず、そのきっかけも当事者しか知らない。
だからこそ一香は───
「んー、知ったのはつい最近かな。それまではちょっと変わった先輩かなって」
「ちなみに、知ったきっかけを聞いても?」
「それはちょっと言えないかなぁ」
と、軽く流す程度にしか話題を触れないのだ。
そしてそれは千尋にとっても同じ。
きっかけはどうであれ、同性とキスした事を知られたくないのだ。
つまりは、千尋もまた───
「千尋ちゃんはどうなの? ミリア先輩の事を知ったきっかけとか」
「私も秘密、ですかねぇ……」
深くは追及されないように軽く話題を流すのだ。
そんな二人の遠慮しがちな会話を間で聞いていたミリアは豪快に笑い飛ばす。
「二人とも隠したがりなんだから〜。正直にボロっちゃえばいいのに〜〜」
「「あなたは少し黙ってて下さい!!!」」
いわゆる、『お前が言うな』状態である。
遠慮しがちな会話を余儀なくさせてる張本人が全く持って気にしてないと言うのだから、困りものだ。
それからも、目的地に着くまで一香と千尋は互いに遠慮がちに笑いかける微妙な距離感が続くのだった。
三人の目的地、豪邸もとい、ミリアの自宅に到着するまでは。
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