第29話 幼馴染と頬の赤らみと喫茶店


「それじゃあ、私はこれから用事があるから」

「分かった。それじゃあ、また明日」

「うん、明日、だね」

 喫茶店の出入り口で見つめ合いながら頬を赤める幼馴染たち。

 両者ともに、デートのお誘いをしたのだから意識しないわけがないのだ。

 それに、今まで異性として意識していないわけではなかった。それぞれ、意識的、無意識的にもお互いを異性として見ていたのだから。


 とは言え、今までの意識レベルとはまた違う。言ってしまえば、恋愛対象としての異性。

 デートに誘っているのだから、当たり前だろと言われても仕方のない事だが、今の今までそう言った事が無かったのだから仕方がない。本人達にその意識があるのかは別だが。


 そんな彼らだが、喫茶店を出てしばらくすると瞬く間に離れていった。数馬は家の方へ、一香はそのまま喫茶店の出入り口で幼馴染が帰路に着くのを見守る。

 そして、間も無くして数馬が一香の視界からも離れた。

 その直後、一香の後ろに一回り背の小さい赤髪美少女が現れる。


「いやぁ〜、なかなか見せてくれましたねぇ〜、一香先輩」

 ニコニコと満面の笑顔で、さっきまで数馬と一香がいた喫茶店から出てきた千尋。

 一香はそんな後輩の笑顔に苦笑する。

「こんな事になる予定じゃなかったんだけどなぁ」

 ポリポリと右手の人差し指で首筋を掻きながら「あはは……」と呟く一香のその姿は、愛らしいものだった。


 そんな一香を見据えながら、千尋はゆっくりと彼女の前に足を踏み出し、クルリと反転する。

「それにしてもまさかの展開になりましたね。あの藤宮先輩のあんな男らしいところ、初めてみましたよ」

「うん。私もびっくり。自分は弱い、強くなりたいなんて言ってたけど、やっぱり数馬は強いよ。あんな事言い切れちゃうんだから」

「一香に心配されないように頑張るから、でしたっけ? いやぁ〜思い出すだけでブラックコーヒーがぶ飲みしたくなりますね。飲めませんけど」

「もう! からかわないでよ!!」

「はいはい、失礼しました〜」

「むぅ……」

 一香にお小言を貰った事で、反転させた体を更に反転。千尋は一香に背を向けながら、軽く謝る。

 しかし、彼女のその言葉に謝罪する意思などなく、むしろいい揶揄いネタが出来たと思っているようだった。

 そして一香もまた、お小言こそ言うが怒っているわけではなく、幼馴染の成長具合を改めて実感していたのだった。それと同時に、さっきまで数馬と行っていた出来事の重大性を思い知り、再び頬を赤らめた。


 が、それも長くは続かなかった。

 千尋が一香たちと同じ喫茶店にいたのにはわけがあったからだ。決して偶然というわけではない。

 しかし、見渡せど見渡せど、必然の発端者が近くに見当たらないのだから話にならない。

「それで、ミリア先輩はどこにいるの? 千尋ちゃんと一緒にいるはずじゃないの?」

「あー……それがですね……。ついさっきまで一緒にはいたんですよ。でも……」

 一香の言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をする千尋。そんな彼女が指差す先の店内には───

「見ての通りです」

「あぁ、なるほど……」

 可愛らしい容姿のウェイトレスにちょっかいを掛けている銀髪ハーフ美人、もとい、ミリアがいた。

 それから「ちょっとミリア先輩を連れ出してくるから、ちょっとだけ待ってて」と千尋に伝えて、一香がミリア目掛けて飛んでいくまで時間は掛からなかった。





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