第52話 ユーフォリア旅立つ


 ライラのかつての仲間4人の魂は生前の姿で、その子供達(ライラの子も含む)の魂はそれぞれ15歳前後の姿で精霊となっていた。

 そして精霊使いであるライラは彼女達を自らの精霊として半ば強制的に共生する。


 元々懇意にしていた光の精霊ルスと、水の精霊アグア。新たな新人精霊が増えた事で二人もまた能力のベースが上がった。

 初級精霊だったのにも二人は今では上級と特級の間くらいになっている。

 それというのも、ユグドラシルとラウネ、何よりもレティシア由来の水だの墓だのの効果で新人精霊は最初から上級程度の能力を持つ。


 それに伴いそれを使役する本体であるライラの能力がグンと上がる。

 ライラの能力が上がったのと、新人達同様ユグドラシルとレティシアの恩恵を得る。

 するとルスとアグアの能力は飛躍的に上がる。


 2人+4人+17人の子で23人……23体というのが適切か。

 23体の精霊を操るライラは一人で1個師団に匹敵するまでになった。


 実際は精霊にも得意分野というものがあるため、純粋な戦力となるとまた違うのだが……




 「やっぱりシアに関わるとみんな化け物染みていきますね。」

 ライラを改めて紹介された一同の反応はユーリと同じだった。


 「そんな化け物製造機みたいに言わないで~。」

 久しぶりの日常に、アトリエには笑いと驚きが満ち溢れていた。



 和気藹々と朝食を済ませる。

 ユキ監修のオークカツと新たに開拓した外周エリアにある畑から採取した野菜を使ったサラダ。

 それにコーンスープに、バゲットとパリジャンとシャンピニオンのパン3種。

 パンは好きなものを取る形だ。


 朝から軽いのか重いのか中途半端なメニューであるが、昼が多くの休みが取れるか日によってまちまちのため、朝食は少し多めにしてあった。

 

 朝食が終わるとメイド達が皿を下げていく。

 レティシアにとっては遠征と言えなくとも、実際問題遠征だったためにライラ達盗賊討伐メンバーは軽めの就業となる。

 基本的にはメインで働く者のサポートをする事に。


 

 レティシアは工房に入るとポーションの製作に取り掛かる。

 父・レオナルドから製作依頼が入ったのだ。


 叔父達の戦績が芳しくないそうで、魔物を追い返すのに難航していると言う。

 叔父もナンポウムソウの教えを受けているので、そこら辺の高ランク冒険者に引けを取らない。

 統治者自ら前線に立つ機会は少ないが、総大将としての指揮は取っている。


 多少は前線でその力を振るう機会もある。

 日々スタンピードが起きているかのように大量の魔物が現れるそうで、部隊を複数に分けて対応しているとの事だった。

 そのため回復部隊もわけなければならなく、満遍なく配置出来ているとは言い難い。

 


 工房に置いてあるポーションの内何割かは実家にも保管してある。

 領民に何かあった時に領主自ら配布するためだ。

 今回それを一定量を持ってエクリプスとネアルコをマルデヴィエントへと応援に向かわせている。

 

 それでもポーションの量が足りないと、魔導念話器で要望があったという事だ。


 この魔導念話器は少し前にレティシアが開発したものであって、現状フラベルの一族が納める地域の領主館(邸)にしかない。

 フラベル領・領都であるここロートゥローサの町と領内である町には配布されている。

 それは他の一族が納める町や村も同様である。

 緊急時には村であっても、救援を送る事が可能となる。


 今回はマルデヴィエントから叔父であるライオットあらポーションの追加要望が届いたというわけである。


 幸い全体的な死者は少なく、ロートゥローサからの応援部隊には死者は出ていない。

 それでも疲弊や消耗は激しく、正直魔物にここまで押されるとは想像していなかったという。


 明らかに異常事態であった。


 

 レティシアはHP回復、MP回復、精神回復、疲労回復の各種ポーションを大量生産していた。

 都合よくは数を生産出来ないけれど、余っている素材で鍛冶と細工の天職を持つ仲間達に武器・防具・アクセサリーを作らせている。

 ラフィーには大量生産出来る肌着などのシャツ類を作って貰っている。


 そしてそれらは付与や加護をする事でとんでもアイテムとなる。


 第二陣の応援物資として乗せる予定である。




 そして3日後、領兵50名にレティシア特製ポーションといくつかのとんでも武器防具アクセサリーとシャツを応援物資として運搬するために出発した。

 補給部隊が道中問題があってはいけないため、馬に疲労軽減用の蹄鉄と魔物盗賊避けのアイテムも持たせてあった。

 最速で数日もあれば到着出来るはずである。


 普通に馬車で向かえば2週間程度は掛かってしまう。貴族の馬車ではなく急ぎの行軍用の馬車であってもである。

 それを数日で到着できるのだから、どれだけとんでも性能を持った蹄鉄とポーションというわけだ。



 そして補給部隊が向かった日の朝。


 朝食を食べ終わって優雅に紅茶を嗜んでいた時の事。


 ユーフォリアがレティシアの前に現れた。


 「シア……」

 そして突然レティシアに抱き付いた。


 驚いたレティシアは「え、え?」と戸惑って目線をきょろきょろと動かす。

 後ろにはユーリがその様子を見ている。


 「私、暫く旅に出る。当分会えなくなるから……シア分を補給させてもらうよ。」


 抱き付いたままユーフォリアは呟く、その言葉は後ろのユーリにも届いている。

 顔だけ一度引いて……戸惑うレティシアの唇にユーフォリアは自分の唇を重ねた。

 

 んちゅっと小さな水音が弾く。


 「んっ」

 衝撃からレティシアは動けない。ユーリに至っては目を大きくして口もあんぐりと開けてしまっている。


 「ごめんね。」

 唇を離したユーフォリアが謝る。

 それは一体何に対してか……


 ユーリはあまりの事に、器用にも立ったまま気を失っている。


 ユーフォリアはレティシアから離れるとそのまま背を向けて歩き出した。

 このまま去っていくために。


 「は、はる……」

 レティシアはユーフォリアの唇が触れていた自分の唇に右手を当てて呟いた。


 その言葉にユーフォリアは一度歩みを止めて振り返る。

 その表情はこれまでで一番驚いたものだった。


 しかしそれも一瞬の事……再び前を向くと歩いて行き、玄関を出ると転移を使い何処へと旅立っていった。

 




 10日程が経った頃、レティシアの元に先日報せを持ってきた執事が大慌てでアトリエにやってくる。


 「お、お嬢様。レティシア様!大変です。エクリプス様とネアルコ様が……」


 執事の話を聞いてレティシアは共も取らずに実家へと転移した。

 駆け出した程度ではいてもたってもいられないと思ったからだ。



 転移し実家に戻ったレティシアが見たものは……

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