第36話 その特等席に座るのは……

 「あれ?ユーフィ久しぶりじゃない。」

 橙色の髪の少女……後ろの6人がアイラとして接していた相手に向かってレティシアはユーフィと呼んだ。

 後ろの6人、正確には5人はその言葉に少し戸惑いを感じている。


 「あー、うん。ちょっと色々あってね。ちょっと落ち着いて話せる場所ないかな。」

 レティシアは応接室なら10人くらいは入れるからと、案内をする。

 店の事は一時的にユーリに任せ、レティシアとユーフォリアはじめ7人はそれに付いて行く。


 「少し見ない間に人は増えたし商品も増えたね。」

 レティシアはそれに対し、オークとエロフが一気に増えたからね、それとあのトレントの時の子達もと説明をする。


 「あぁ、これでやっと通常の回転状況になってこれたって感じ?」

 まだ、もう少し人では欲しいけどね、そうすれば採取に出掛ける回数も、従業員を休ませる時間も取れるしと返した。


 商談用の応接室に着くと、レティシアは適当に座ってと促す。

 対面となっている4人用のテーブルと椅子が中央に、他には椅子だけがいくつか並べられていた。

 ユーフォリアともう一人が4人用の椅子に着席すると、他の5人は二人の後ろに立っていた。


 「貴女達もその椅子に座って?」

 レティシアはそう促すけれど、彼女らは座らない。


 「姐さんが良いというまでは私らは……」

 5人の中で一番年上と思われる女性が話した。


 「いやいや、シアの言う通り座りなよ。これから面接も兼ねた紹介をするんだからさ。」

 ユーフォリアがそう言うと彼女らは着席した。


 程なくしてメイがの飲み物を持って配った。

 後ろの彼女達には椅子に一体型として、小さなテーブルというか台が備え付けられていたのでそこに置かれる。


 「まず、シアに言わなければいけないんだけど……私はユーフォリアとして以外にアイラとして活動している事があるの。」

 それはユーフォリアがSSSランクとして有名になりすぎているので、それを隠して活動する場合の隠れ蓑としての名前だと言う。


 「ま、隣にいるノルンには気付かれてたけどね。」

 ユーフォリアはノルンを見てウィンクをする。


 「ん?ノルン?あれ?第三王女?」

 レティシアはその名前と、黒い髪を見て直ぐに気付いた。

 気付かないユータ達がマヌケと言えるのだけど。 


 「ノルン・アヴィラージュと申します。もっともノルン・ビアン・ダーラと名乗った方が適切でしょうか。」

 ノルンは立ち上がって自己紹介をしカーテシーを決める。

 流石王族とレティシアは思ったけど、自分も貴族の令嬢だったと思い出した。


 「レティシア・フラベル・ウェルアージュと申します。以後お見知りおきを。」

 ノルンに倣ってレティシアも貴族令嬢らしく挨拶をする。


 「慣れない挨拶……ぷふっ。」

 

 「いや、笑うなしっ。」

 ユーフォリアの茶化しに反論するレティシア。


 何を見せられているのかと後ろの5人は黙って見ていた。



 「それで、アイラとして活動している中ノルンと……あーこれ言っちゃっていいかな。件の勇者達と臨時パーティを組んでクエストをこなしていたんだけどね。」

 レティシアの表情は変わらない。

 もう気にもしていないという事なのか。


 「まぁ元婚約者を悪く言うのもどうかと思うけど、あれはかなりクズね。」

 「クズね。」

 ユーフォリアにもノルンにもクズと呼ばれる勇者一行。


 「あ、うん。それは私も今となっては同感としか思えないから気にしなくても良いよ。」


 一応ユーフォリアはクエストの内容とその時の出来事を軽く説明した。

 軽く説明しただけでもクズだと分かる程度には。


 「そんなわけで、カムフラージュするための時間稼ぎに寄ったタカ・ラガワ温泉で、ボン・クーラという貴族の子息に出会ったわけだけど。」

 それがまたとんでもないクズ野郎でねっと説明が続く。

 レティシアはそれを黙って聞いている。


 「ボンクラによって不当に相手をさせられていた彼女らの再就職先に、シアのところでどうかな?と思って連れてきたわけ。」

 レティシアは後ろの5人を見る。

 全員美少女だった。胸は一番大きくてもCと言ったところだろう。


 「くっ、少し胸が……」


 「シア、あんた気にするとこそこなの?」


 「じゃぁ聞くけど、ユーフィーよりもおっきいよ。」


 「あらあら私よりも大きいですわね。」

 ノルンも続いた。


 「まぁ全員可愛いから良いけどね。」

 基準はそこかよと2度目のツッコミをユーフォリアは入れた。


 「それはそうと、辛かったよね。少しでも心が軽くなるように……回復っと。」

 金色と銀色の光が舞ったかと思うと、彼女ら……というより部屋全体を包み込み……


 「あ、これ。レティシア教信者が増えるパターンだ。」

 ユーフォリアがとんでもない事を言うのをきちんと拾っている。


 「誰が教祖だ。それにその子らはユーフィに心酔してるように見えたけど?」


 レティシアとユーフォリアが降らない言い合いをしている横で、身体の異変に気付き始める5人の少女。

 「戻ってる?」

 「古傷まで……」

 「あたたかい……何か入ってくりゅうぅ。」

 「あ、なんかきゅんときました。」

 「おねえしゃま……」

 5人それぞれが思い思いの第一声を発すると……


 「レティシア姐さん、貴女にもついていきます。」×5

 直立して、右手拳を自身の心臓付近でドンと叩いた。


 「ほら、信者になったじゃん。」


 「にもって言ってるけど?」


 「1に姐さん、2にレティシア姐さんです。」×5


 「あら、私はのけ者かしら?」

 ノルンが寂しそうに呟く。

 ノリが良いなこの第三王女とレティシアは思っていた。


 「いえ、姫様は姫様です。」

 どうやら姐さんと姫様というカテゴリーは同一天秤にかけるものではないらしい。

 

 雇うにあたって5人は名前と年齢と特技を話した。

 侍女……メイドだけあってそっち系のスキルや技能は持っていた。

 そして年齢は上から20、18、17、15、12歳だという。


 一番年下は12歳……その言葉を聞いた時のレティシアは表情に怒りが浮かんでいた。

 12歳の子供に対してまで性的に手をかけていたと知ると、自然と怒りも込み上げてくるというものだ。


 その怒りはレティシアは面識はないが、あのクズ男へと向けられる。


 「ボン・クーラ、クーラ子爵家でしたっけ。潰してやろうかしら。」


 「あ、それならもう……」

 ユーフォリアがあの温泉宿での出来事をもう少し詳しく話した。

 ボン・クーラのたまたまは二つとも潰され(片方はユーフォリアが、もう一つはその場にいた二人の元侍女が)、実家に苦情を入れたら息子は勘当にするとあっさりと切り去った。

 

 クーラ家当主としては正解だけど一人の親としてはどうなんだろうと思いつつも、それが落としどころかと納得をするレティシアだった。


 「でぃえす いれ!」

 右拳を握って叫ぶレティシア。空気だけで周囲の者が震えてしまいそうな怒気を孕んだ波動が一面を襲った。


 「そんなに怒ってるの?シア……」

 レティシアの叫びに適確なツッコミを入れるユーフォリア。


 「あ、なんかそんなフレーズが頭を過ぎって。」



 「ほら、シアがそんな威圧するから……」


 「あ、ごめん。洗浄っと。」

 ユーフォリアの後ろの5人を含め、工房や住居に至るまで広範囲に渡って洗浄魔法をかけていた。

 大きな声では言えないが、自分達のために怒ってくれたとはわかっていても、あの波動を素人が浴びたらそりゃ……


 「ちびっても仕方ないよね。ノルンは流石に平気なようだけど。」

 「修行前の私だったら……その、お漏らししてしまったかも知れませんね。」

 王族がお漏らしなんて言っちゃいけません……とは言わないレティシア。


 「それと、ずっと突っ込もう突っ込もうと思ってたんだけど……」

 ユーフォリアがレティシアの方へ向かって指さした。

 正確にはレティシアの胸元あたりに向かって。


 この会談中誰一人として突っ込む事がなかった。

 その少女に向かって漸くツッコミが入った。

 しかし、メイはきちんと飲み物を持ってきている。

 勿論彼女の分も。


 「その水色の髪の娘は誰?」



 「ん?あぁ、アルラウネのラウネ。南西の森で仲魔になった妹みたいなものかな?」

 会談の殆どをレティシアの膝の上に座ってジュースを飲んでいる水色の髪の少女、ラウネは「ん?」と言った感じで頭に?マークを浮かべていた。


 「今は進化というか神化してアルラウンになってるけどね。」

 レティシアはラウネの頭を撫でながら言った。


 「さすシア。」

 ユーフォリアのツッコミも案の定であった。


―――――――――――――――――――――


 後書きです。

 5人の名前?考えるのが面倒なわけではないですよ。


 胸のサイズと一緒に募集しても良いんですけどね。

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