第37話 幕間・とあるAランク冒険者の悲劇

 ※時系列はレティシアが追放されるより少し前です。



 灯りもろくにない、数メートル先も見えない、空気の流れも滞っており匂いも臭いも充満し温度さえも錯覚させる。

 暗闇は悪意と恐怖が入り混じる事により、来るものを一層阻む感覚に陥らせるには充分。

 洞窟というものは本来そうあるものだ。


 ところどころに設置されているランタンの灯りが、微かに周囲を明らかに映し出している。

 洞窟の奥には人の住む区画が大雑把に整理されており、一ヶ所一ヶ所に数人の男達が就寝している。


 一筋の灯りに照らしだされるのは、数人の男とぐったりと横になり自らの意思で呼吸が出来ているかすら危うい女。

 女の頭上の位置にはいくつか盛り上がった土と、その頂上に刺さる誰かの持ち物だと思われる数々の品。

 剣だったり杖だったり、ベルトだったり眼鏡だったりそれは様々。

 女の腹は膨れており、その膨らみの中には新たな命が宿っている事がわかる。


 「そろそろ。これで何人めだ?」

 女の身体の上で腰を振っている男が女を見下ろしながら言う。

 男はお世辞にも綺麗な身体とは言えない、整えられていない髭、ろくに現れていない身体。

 この洞窟に行き交う悪臭の大半はここにいる男達によるものだというのは否定出来ない。


 女の左手首には手錠が嵌められており、鎖で部屋の端と繋がれている。

 そして両の足の腱は切られているため、歩く事は叶わない。

 かつては美しかったであろう髪もボサボサで、たまに男が切っているのか長さはバラバラだった。

 髪同様、元は美しかったであろうその顔も、長くこのような所に監禁されているために美しさを失っている。

 たまに殴られていたのか、あちこちに傷跡も残っていた。


 女は既に全てを諦めているのか、現在の状況にも表情を変える事はない。

 自らを貫く汚いモノですら視界に捉えていない。

 彼女の目にはもう景色を映してはいない。

 洞窟の暗闇よりも仄暗い闇の中をただ一人、光の見えない牢獄の中で漂っていた。



 数日後、彼女は子を産んだ。


 さらに数日後、彼女の頭上の盛り上がりは一つ増えていた。



 彼女の頭上にある釣土の盛り上がりの下には様々な人が眠っている。

 自らが産んだ子……


 そしてこの場に一緒に捉われた仲間と。

 彼女らが産んだ子と。


 その数はゆうに20は超えていた。



 「そろそろ新しいの仕入れないのか?」

 一人の男が言う。


 「こいつ、何年になるっけ?」

 横にいる別の男が答える。


 「もう5年くらいじゃないか?こいつ一人になったのは最近だけどよぉ。」

 たまに手に入れる情報からある程度の時は割り出せる。

 季節は廻るのだから今が何の季節かくらいはこの男達でも理解は出来る。

 自ずと大体どのくらいというのは、少し考えれば知能が低くても計算できるのだ。

 

 「最初は5人もいたのにな。最初はぽこぽこ誰の子かわからねぇガキが出来てどうなるかと思ったけど。」


 「戦力は欲しいがガキはいらねぇしな。流石に食うわけにはいかねぇし、かといって放置してアンデット化しても面倒だしな。」


 ダンジョンの魔物の謎は解明されていないが、ダンジョン外の魔物の増え方は種族によって様々である。

 人と同じように同族で交配する種族、オークやゴブリンのように同族以外の種(主に人間)と交配する種族、スライムのように分体する種族等様々である。

 しかしアンデットだけはそのどれにも当てはまらない。

 

 アンデットは死した身体が不浄なまま放っておかれると自然に変異する。

 瘴気が強い所だとその変異は顕著となる。

 骨だけの遺体であればスケルトン系に。


 肉が残っていればゾンビ系に。

 例外はレイス系であるが、その詳細は明らかにはなっていない。

 戦争跡地等は油断するとアンデットだらけとなってしまう。

 


 女達は最初は5人いた……

 つまりは4人は既に亡くなっている。

 5人が産んだ何人もの子らも既に亡くなっている。

 

 彼女らの遺体は正式な供養とは言えなくとも、それなりの見様見真似ではあるが弔われてはいた。

 最後に残った彼女によるものなのだが……


 「一応この女の分の穴も掘ってはあるんだけどな。もう生きたまま捨てるか?」

 同じ身体に飽きたのか、汚くなった女に興味を失いつつあるのか、関心はかなり薄くなっていた。


 「簡単に言うな。こいつ、これでもAランク冒険者だろ。5年も経てば流石に探してる人間もいないと思いたいが。」


 「別の女を攫おうとして万一バレた時全員死刑程度では済まんぞ。」

 もっとも盗賊という時点で、討伐の対象とされる世の中だ。

 攫った女の身分やランクなんてものは関係ない。


 この場に騎士団でも乗り込んでこようものなら全員が死罪なのは間違いない。


 

 先程から会話を続けている男達。

 全員頭はもじゃもじゃ、髭ももじゃもじゃ、たまにナイフでカットするくらいなので見た目の違いなどはあってないようなもの。

 たまには水を被ったり、川で汚れを落とす程度なので衛生的に良くはないし、悪臭は消えない。

 男達……盗賊なんてものはそのようなものである。

 そして慣れとは恐ろしいもので、男達はそんな悪臭の中にいても大して気にはならない。



 「おらよっ」

 男がバケツに汲んだ水を女にぶちまける。

 数日に一度か二度程こうして、水を掛ける事で簡単な洗浄をしている。

 女は動けないのだ、糞尿は当然垂れ流し。

 盗賊がいくら臭いに疎くなっているとはいえ、身体から出てくるものには嫌悪を抱いている。

 

 放置すれば女を犯している最中にそのモノが自らの身体にこびりついてしまうのだから、その辺くらいは気にしているようだった。



 それからまた時は経ち……


 「そろそろ腕が治ってきたな。」

 切られた腱は治らないが、打撲や骨折は時間と共に治って来る。

 以前砕いてからどれだけ経ったのか、男達は気にもしていないが……


 「次ガキが生まれるくらいには新しいの用意してもらいたいもんだな。」

 この盗賊達、全てを集めれば100人を超すのだが。

 30人くらいで1グループを形成し、略奪する集落や商人を変えている。


 本拠地であるこの洞窟は変わらないが、略奪する地域を変えこれまで誰にも討伐される事無く好き勝手に生きてきていた。

 略奪部隊は、その場で犯し殺してしまう事が殆どであるため、拠点であるこの洞窟に連れてくる事は少ない。


 「今更逃げるとは思えないけど……オラッ」


 ドゴッと大き目のハンマーで女の腕を砕く。

 それは両腕両足全てを砕くまで続く。


 最初は痛がっていた女ではあったけれど、今では痛覚も麻痺しているのかさして反応がない。

 まるで死体を殴っているかのような感覚に陥る男達。


 「俺達、死んでも碌な目に合わないだろうな。」

 「だったら最初からやらなきゃいいだろ。」


 「でもやめられないとまらない。」

 「抵抗する女を破壊するのも、無抵抗な女を破壊するのも楽しいからな。」


 「抵抗する女をいたぶるのは、略奪部隊が綺麗なまま攫ってきた時までお預けだな。」

 そして男は自分のモノを女の穴の中へと侵入していく。


 しかし彼らは知らない。

 自分達の寿命が1年もない事を。

 新しい女をいたぶるとかいう、そんな時はもう二度と来ない事を。



―――――――――――――――――――――――

 後書きです。


 物語を動かすにあたってある人を……

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