第34話 ユータ達のその後⑤

 その日のうちに書類をまとめたアイラは翌日、クーラ家へと転移した。

 アイラとノルンの正体を知っているクーラ家の執事は、クーラ子爵の元へと案内をする。


 「これが温泉町であるタカ・ラガワ温泉宿での出来事だよ。不敬罪が適用されたらお家なくなっちゃうけど、どうする?」


 後に例の宿に大量の謝罪及び弁償金が支払われ、ボン・クーラは勘当され平民落ちとなった。

 大事なものが二個ともなくなったために性欲は失われ、その後どこで何をしているか知る者はいない。





 残る2泊は大人しく温泉と温泉街を満喫し、3泊4日の旅は終わった。


 「貴女達、私達が用事を済ますまでの間、この街で好きな事して待ってな。用事が済んだら新しい就職先に跳ぶからさ。」

 5人の元ボン・クーラの侍女達は「イエス・あねさん!」と元気よく応えていた。

 アイラ教が出来た瞬間かもしれない。



 転移によりアイラとノルンはグリーンリバーライトの街に着くと、その足でユータ達を探す。

 ファボット鉱山から馬車と徒歩で移動するとちょうど3泊4日くらいで到着する。

 そのアリバイ工作的なもののために寄った温泉旅行だったのだけど、ボンクラ貴族の一件が余計だった。


 もっともそのおかげてアイラとノルンはめくるめく百合の園を楽しんだわけだけど。


 「おぉ、君達無事に戻ってこれたんだな。良かった。心配していたんだ。」

 何が良かっただ、心配しただ。

 転移するならば全員でするべきだろうとアイラとノルンは思っている。

 自分達が本当に弱者だったらあの場で命を落としていたんだぞと。


 「こんな時に下世話かもしれないが、これが君達の報酬だ。」

 一応最初に決めた取り分は渡してくるユータ。

 これで渋っていたらクズポイントが上乗せされる。


 ちなみにカウントは忘れていたが、戦闘そのもので+1、置いて行ったことで+3。

 最初の鑑定の件から含めて、クズポイントは5に達していた。


 作戦そのものは悪くはなかったが、実力が伴っていない。

 アイラの評価は辛辣という程でもないが、現実的ではあった。


 「ねぇ、今日はそこの高級宿の最高級の部屋を取ってあるんだ。是非(俺と)泊まって行って欲しい。」

 

 「それは要りません。」×2

 

 「そっか。またクエストを見繕おうと思うので次も参加して欲しい。」

 試験期間延長のつもりか、正式採用しようというのか。

 とにかく下心は見え見えだ。


 領主の息子という立場を利用してこないだけ、ボン・クーラよりはマシかとは感じるが、結局ユータも勇者という肩書に踊らされているだけに見えてくる。


 「申し訳ないですが、パーティメンバーを残して、転移で逃げるような人とまたなんてありませんよ。」

 ノルンが次はないと告げた。


 「そうだね。アリシアがあの状況で戦闘続行不可能と判断し、撤退する事自体は悪いとは言わない。でも私達を囮に使うような男と一緒にパーティを組もうとは思わない。」

 「これも良い経験になったという事で今回は大目に見るけれど、次にやったらギルドに報告するよ。」

 アイラが続いて評価と苦情を告げる。

 ユータは試していたつもりであろうが、その実はアイラ達によってユータ達が試されていた。


 これまでの言動でわかる通り、ユータ達のレベルは人としても冒険者としてもまだまだ低い。

 これならば一般のCランク冒険者の方が連携も取れるだろうし、優秀ではないかと感じるだろう。


 「なっ、俺は勇者だぞ。勇者が最優先されるのは当然だろう。それにアリシアは俺の女で唯一無二の大魔導士、ユーグだって忍者だ。」


 「そういう言い訳をするなら是非、現パーティでもう一度あの山に行ってギガンテスを相手してきてください。」


 「今度は途中で余計な一つ目もいないし全力で当たれるでしょう?」

 ユータは言葉に詰まってしまう。

 今の自分達ではまだまだ勝てない事は流石に理解しているようだった。


 「それじゃ、お幸せに。」

 アイラは皮肉を言ってその場を去った。

 ノルンはそれに付いて行く。



 「シアを追放した……ね。シアはあんな人達から離れられて、やりたい事も出来るし今の方が倖せなんじゃないかな。」


 「これが今代の勇者とは……お父様も教皇も考えが甘いと気付かないのかしらね。」

 アイラとノルンはそれぞれの思いをポロリと漏らしていたが、互いの言葉は聞き取ってはいない。



 「それにしてもこれが勇者……人は滅びたいのかな。」






 冒険者ギルドに到着したアイラとノルンの二人。

 

 「鑑定と特別褒賞があるようならお願い。素材は魔石は売らないのでそれ以外は応相談で。」


 受付に案内され、ギルド奥の解体広場へと付いて行く。

 

 「Sランクのギガンテスじゃねえか。ってあんたか、じゃぁ当たり前か。」

 鑑定と解体を行う職員でさえアイラの正体を知っている。

 ユータは世間を知らなすぎると、ここでもアイラはユータの評価を下げる。

 

 「魔石は売らないんだって?」

 職員が気さくに尋ねてくる。髭が似合うナイスガイなだけに気の良いおっさんに見える。

 

 「に使えそうだからね。」

 アイラにはその目的というか用途が既にあるようだった。

 

 「これだけの素材をそのまま貰えるなら討伐褒賞含めて金貨3000枚は出せるぞ。」


 「じゃぁ、半々で良い?」

 振り返ってアイラをノルンに聞くけれど、ノルンは渋い顔をして首を横に振る。


 「私は別に討伐には参加してないから受け取れないよ。」


 「そういうわけにもいかないよ。一夜を共にした仲じゃない。」


 「そういう誤解を招く言い方っ。もうわかりましたー。それでも7:3でアイラ7ね。」


 「私もお金には困ってないので配分は貴女に任せるよ。うん、それで良いよ。」


 報酬を受け取るとタカ・ラガワ温泉へと再び跳んだ。




 「それじゃぁ、新天地へ行く準備は良いかい?」

 拳を握り絞めて、天高く突き上げる。

 上着が捲れ可愛いへそが露わとなった。


 「いいともー」×6

 アイラが音頭を取ると、ノルンと元ボン・クーラの侍女5人は元気よく返した。

 

――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 次はシア達に戻ります。

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