第33話 ボン・クーラの悲劇

 「美味しかったわ~。」


 ろいやるすい~とだけあって、部屋食であった。

 コース料理のため、順次運ばれてくる。


 「ねぇ、デザート……」

 アイラの目が怪しく光る。

 ハイハイでノルンの元へとゾンビのように這っていった。


 「わ、私はデザートなの!?それに私本当は……」

 ペロリと舌なめずりをするアイラは妖艶に映る。

 浴衣から開けた……開けて……胸元の膨らみはなかった


 「それも大丈夫。何となく察してるから。髪の色見れば……ね。」


 アイラはノルンの開けかけた浴衣の隙間に手を入れていく。

 

 「ちょ、さっきしたばかりなのにぃ。それに食べたばかり……」


 「だ・か・ら、デザートなんだってばぁ。」






 「で、寝る前にもう一度入るって?食後に部屋の露天にも入ったのに?」


 「露天風呂は醍醐味だからね。あのクズ勇者のせいで荒んだ心は温泉で癒すの。」

 アイラは何度も入る気満々であった。

 到着して1回、食事して1回、寝る前に1回、朝起きて1回、チェックアウト前に1回と1泊で最低5回は入る程温泉好きなのである。


 「えっちな事は流石に禁止っ。私まだ処女なのに……」


 「安心して。私も処女になったから。」


 「それってどういう事?」


 「内緒。世の中には便利な事もあったもんだねぇ。」


 「まぁ、純粋に温泉を楽しむだけだよ。馬鹿貴族がいなければ純粋に楽しめるんだけどねぇ。」


 「アイラ、そういうのはフラグっていうらしいよ。」



 ガララララと扉を横に開き、温泉へと向かうアイラとノルン。

 相変わらず漢らしく堂々と歩くアイラに、おずおずとタオルで大事なところを隠しながら歩くノルン。

 二人が身体に湯を流そうと洗体所に着くと横目に先客がいる事を確認出来る。


 面倒だな、男だと思うアイラであるが、それも一瞬の事。

 気にせずお湯を身体に掛ける。ノルンも同様だった。


 湯気が多少仕事をしているせいか、先客の詳細までは確認出来ない。

 男が1人、その両脇に女が1人ずつ入浴していた。

 

 「あれが例の貴族かな。」


 「どうだろう。それっぽくはあるけど。」

 両隣の女性に腕がいっているので、まぁどこかしら弄っているのだろう。

 

 「面倒だから少し離れたところに入ろう。」



 ちゃぽっ

 右足から湯船に入るアイラ。

 お湯の波紋を崩すように左足を入れる。


 端っこに入り外の景色を眺める二人。

 当然そのまま夜景を堪能させてもらえるはずもなく声がかかる。



 「おい、そこの。こっちへ来て相手をしろ。」

 

 アイラもノルンも自分達が言われた事は気付いているが、その言葉には従わない。

 

 「おい、そこの、何度も言わせるな。こっちに来て俺の相手をしろ。」

 アイラとノルンは後ろを振り返る。


 「平民なんている?」

 アイラがノルンに問いかけるとノルンは首を横に振る。



 痺れを切らしたのか、男は立ち上がり、プラプラさせながらアイラ達の元へ向かってくる。


 「お前達、俺を無視するとは良い度胸だな。無理矢理〇してやっても良いんだぞ。なんせ俺は貴族様だからな。」

 こいつも勘違いしているな、あんた本人が貴族なのではなく、親が貴族でありあんたは貴族の子息だろうとアイラは思っている。

 それでも平民よりは上の位にはなるのだが、こいつ自身が偉いわけでもなんでもない。

 何を親の意向で威張り散らしているのだろうか、こいつもやっぱりクズかと二人は思った。


 「……」

 言いたい言葉を飲み込むアイラ。


 「だめだよ、アイラ。」

 ノルンはアイラが実力行使しようとぷるぷるしていると思っていた。


 「いや、そうじゃないんだ。ゾウさんが、ゾウさんが……」


 「怖いの?」

 「違うよ。あんなもん怖くもなんともないって。」



 「お前ら何をヒソヒソ話してんだよ。生意気な口をコレで塞いでやろうかっ!」

 

 「ヒッ」

 ノルンの目の前に差し出されたソレは既に元気になっており、ノルンの頬を微かに掠った。

 

 「混浴露天風呂だからといって何をしても良いというわけではない。成人しているのにそんな事もわからないの?貴族様の教育ってそんなものなの?」

 最初から煽り節で責めるアイラ。

 粗末なものをノルンの眼前に出されたのだから仕方ないのかもしれない。


 「あ?お前から突っ込まれたいか?」


 「そんなんじゃ喉までも届かないって。自分が粗〇ンってわかってる?強制的に相手をさせられてる侍女だって演技してるに決まってるじゃん。」

 豆腐メンタルの男性が聞いたらそれだけで大ダメージを受けそうな事を平然とやってのける。

 そこに痺れたり憧れたりするかはわからない。


 「ねぇ、測ってあげようか?ちゃんと勃たせなさいよ、しっかり測ってあげるから。」

 空間収納からストレッチを出すアイラ。

 150mmのストレッチを取り出したが、果たしてボン・クーラ氏のは何mmあるのだろうか。


 「てめぇ聞いていれば好き放題言いやがって。」

 好き放題先に言い出したのはそっちだろとツッコミを入れたいアイラ。


 無理矢理突っ込もうとしたのか、動き出しの一瞬の波紋が発生した時にはアイラはそこにはいなかった。

 もちろんノルンも一緒にいなくなっている。

 お姫様抱っこでアイラが救出していた。


 「てめぇっ」

 お貴族様には似つかわしくない言葉で追い回してくる。


 「きゃー変態が追いかけてくるぅ。」

 お姫様抱っこをしたまま早歩きで逃げ回るアイラ。

 滑るから危ないのだが、そこは抜かりのないアイラの事なので滑り防止を掛けている。


 「ちょ、おまっ、マテッ、あっ」

 ボン・クーラは見事にすってんころりんすっとんとんと転んだ。

 

 「いってー。てめえ貴族に怪我を負わせてただで済むと思ってねぇだろうな。」


 ノルンを椅子に座らせてアイラは未だ起き上がれないボン・クーラの前にヤンキー座りをする。

 

 そうすることで丸見えなのだが……

 

 「なぁ、お坊ちゃん。貴族貴族っていうけど、あんたは子息であってあんたが偉いわけじゃないよな。」


 「仮にあんたが貴族本人で偉かったとしよう。そうだとして、あんたはそこまで他人を好き放題して良い程偉いんか?」


 「さっきも言ったけど、お前の粗末なお〇〇ぽで女が本気で喜んでると思ってる?膜にすら届かないんじゃない?」


 「あぁ、そうだ。貴族貴族と煩いから言うけど、私……あんたより偉いから。」


 空間収納からアイラの……冒険者カードを見せつける。


 「は、伯爵……だと!?」


 ぺちぺちと石畳を歩く音が聞こえる。

 こちらはアイラとは違い大事な所はタオルで隠していた。


 「私も、貴女より偉いですよ。この髪の色を見てわかりませんか?」

 ノルンが丁寧な言葉を喋っている。

 それはつまり、信用・信頼を勝ち得ていない相手との喋り方ということだ。


 「はっ、だ、第二……」

 

 アイラは縮みあがったソレを鷲掴みにする。

 

 「今日のところは一つで許してあげるよ。後、この事は貴方の父上に報告をあげておくから。」 

 アイラがある意味死刑宣告を告げた。


 「そうですね。お父様にも報告を入れておきましょう。クーラ家の代わりを探さなければいけませんね。」


 その後、聞くに堪えない絶叫が露天風呂に聞こえたとか。


 「貴女達はどうする?クーラ家に戻る?それとも……」


 「戻りたくはありません。」×2


 「そ、再就職先にあてはあるの?なければ知り合いの店を紹介するけど。」

 

 「是非お願いします。」×2

 深々と頭を下げる二人の侍女。

 こんな貴族のところで働くくらいなら、場末の酒場の方が生き生きと仕事出来るだろう。


 「ソレの後処理は任せるわ。面倒な書類を作成しなければならないし。」


 先程ボン・クーラの両端にいた女性二人は湯船から出ると、かつての主人を上から見下ろし……

 ボン・クーラはとても酷い目にあいましたとさ。


 「女ってこえぇ。」

 「貴女も女でしょう。でも色々助かった、ありがとう。」


 「これだから猿みたいな貴族の男は嫌だねぇ」

 



 後に橙色の髪をした女が、新たに6人の女性を連れてシアのアトリエに来訪するのは別の話。


―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 次でユータサイドは一旦終わります。

 

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