第32話 ユータ達のその後④

 「勇者と書いてクズと読むのかな。」

 アイラは皮肉を言った。


 「そうかもしれないね。アレ、討伐してもあいつらに分け前を渡す必要はないよね。」

 ノルンもそれなりにキレているようで、げきおこらしい。


 その口ぶりからSランクのギガンテスを倒せると受け取れる。


 「じゃぁ、仕事しようかな。」



 「打倒、巨〇!!」

 逃げて行ったユータ達が見る事は叶わないが、一人禍々しい剣を左手に持ち構えていた。


 「お前に恨みはないけどカンベンね。」

 走り出したアイラはそのままギガンテスの身体を駆け上がり、耳たぶの上に乗った。


 「せめて一撃で。」

 ぐぬっとした音を立て、アイラの剣はギガンテスのこめかみを貫いた。


 「ふんっ。」

 アイラが力を込めると剣先から何かが解き放たれる。

 その衝撃波は黒紫の色を放ち反対側のこめかみから抜けて出て行く。


 脳の一部を貫通したのだ、長く生きてはいられまいとアイラは思った。


 アイラがギガンテスの身体から降りると、その巨体は地面へと倒れ落ちた。


 「核だけ貰っても良いかな。他は上げるんで。」

 アイラはノルンに提案する。


 「いや、良いよ。私は見てるだけだったし。」

 実際ノルンは何もしていないので、分け前を貰う気はなかった。


 「そういえばさっきから話し方がラフになったね。そっちが素なのかな。」



 「お嬢さん達、強いね。助かっ……」

 男は最後まで言い切る前に首を刎ねられた。


 「ちょ……いきなり……って、あぁね。それとさっきの質問だけど、これが素だよ。丁寧に喋るのは観察している段階の時までだけだね。」


 「私も同じかな。もっとも私は直ぐにボロが出るけど。丁寧に話すのはから苦手。」


 

 「じゃぁついでに盗賊狩りもしていきますかね。」

 アイラはギガンテスを空間収納に保管し、ついでに先程の男の首と冒険者カードも保管する。


 「盗賊狩りは協力という事で半々で良いよね。」


 



 ベルンスト領グリーンリバーライトへと帰還したユータ達はギルドに報告をしていた。

 サイクロプスを倒した証の魔石を提出し完了証明を貰う。


 「こちらの魔石はギルドに売りますか?それとも……」

 

 「魔石、売るよ。」

 ユータ達はこれでも向上心はある。

 まだまだ強くならなければならない。

 ユータはアリシアと言う将来の伴侶は得ていると思っているが、側室は何人いても困らない。

 女に困らないためにも金はいくらあっても困らない。


 今回新メンバー候補に雇った2人のどちらかまたは両方はその候補に入れても良い。

 フードを被ったアイラも声は美しかった。きっと顔も美人に違いない。

 2人とも胸が小さいのは仕方ないけど、それを補ってありあまる他の美貌があればそれで良いと思っていた。


 しかしユータは忘れている。

 実家からはほぼ勘当状態にある事を。

 勇者として実績を残し、自身が爵位を得なければ重婚は認められない。

 この国では平民は一夫一妻であり、貴族は養えるのであれば一夫多妻でも多妻一夫でも認められている。

 もっとも、多妻一夫など実行した者は歴史上1人しかいないが。 


 



 「ん?そういえば転移は?」

 「使えるよ。」


 「そっか、もうね。天職ってなんだろうねって感じだね。」

 「という事はアイラも?」


 盗賊を全滅し首と証明になる冒険者カード(当然失効はしている。)を空間収納へ保管し転移する。

 しかし直ぐに戻ると面倒なので二人は別の地、温泉で有名なタカ・ラヤマ温泉へと転移した。


 「三日くらいここでくつろごう。大丈夫、お金はあるから。」

 「私も大丈夫。お金はたくさんある。」



 「一番高い部屋を3泊あるかな。」


 「ろいやるすいーとですか。2部屋ありますが、そのうち片方を子爵家のお坊ちゃまが利用なさってるのであまりお勧めはしませんが。」

 宿の従業員も貴族が面倒なのは理解しているのだろう。

 やりたい放題なイメージを持たれていても仕方がない。

 

 「そんなに面倒な貴族様なのかな?」


 「……他言はしないでくださいね。ボン・クーラ様が泊まっております。家臣の男性2人、女性5人です。」

 「このタカ・ラヤマ温泉は全国でも珍しい混浴温泉なので……一応女性は湯浴みを着用してのご利用が可能となっておりますが。」


 「見たくもない裸を見てしまうという意味では、男性も湯浴み着用可にしないとどこかの団体から注意を受けるような気が……」


 「何か?」

 「あぁいや。こっちの話。で、そのボン・クーラ様とやらはどう問題なのかな?一応注意しておかないとね。無駄な争いを避けるためにも。」


 そこで受けた説明によると、ボン・クーラ坊ちゃん(20)は侍女として連れてきた5人の女性と混浴露天風呂で合体行為を繰り返しているらしいとの事。

 他の利用者は貴族が相手だから何も言えず、そそくさと退散するのが精一杯で、従業員に報告するのも躊躇われるとか。

 清掃に入った従業員が事後の様子を見て発覚したという事だ。


 湯船に浮かぶ白い液体のせいで、一回一回お湯を抜き、入れ替えなければならない。

 一日一回で良いこの作業を朝と昼と深夜に行わなければならないので、正直追加料金が欲しいくらいだと受付の女性は嘆いている。


 「あ、そう。貴女だけには一応教えておくね。これ、私の身分証明になるかな?」

 アイラはユーグとの面接時に見せたものとは違う冒険者カードを見せる。


 「当宿が一切責任を負わないという条件を呑んでいただけるなら、もう何をなさっても構いません。」

 受付の女性は投げやりになってしまった。


 「何を見せたの?」

 ノルンがアイラに聞いてくる。

 

 「まぁ証明書?」


 「なんとなくわかったけど、これ以上は聞かない事にする。」


 部屋に辿り着くまで例の貴族とは会わなかった。

 どこか観光にでも出かけているのかもしれないし、部屋で宴会でもしているのかもしれない。


 「さ、とりあえずひとっ風呂行きますか。」


 部屋に備え付けの露天風呂もあるのだが、まずは大浴場を楽しもうとアイラとノルンはタオルと着替えを持って部屋を出る。



 「お、高級そうでかつ可愛い下着だねぇ。」

 アイラがノルンの下着を見て言った。


 「そういうアイラのも……」


 ノルンはシルクの高級下着、アイラのも髪の毛と同じ橙色した可愛い下着だった。


 「こうして見ると身体付き、殆ど変わらないね。髪の毛を同じ色にたら区別付かないかも。」

 しれっとアイラは自分の身体とノルンの身体を見比べて爆弾発言を投下した。


 「綺麗なお尻のライン可愛いよねぇ。ちょうど良い肉付きというか。」


 「ひぅんっ」

 アイラがノルンの尻を触っていた。

 二人の距離は接吻する5秒前といったところだ。

 

 触った時の反動で身体の全面同士がピタッと触れ合った。


 「ノルン……可愛いよね。その黒髪も綺麗だし。」


 「ぉ?」


 触れ合った勢いで、ノルンの手もアイラの尻を弄る事に。

 弓矢を扱うにしてはごつごつしていないすべすべとした手と指で、アイラの尻のほっぺをなぞっていた。


 「アイラは女の子が好きなの?」


 「ん~。性別でどうという事はないかな。可愛いが好きなの。」


 「って考えてみればクエストをしていたんだから一回洗いましょ。」

 ノルンの提案はもっともだと思い、名残惜しいと思いながらもアイラはノルンの尻から手を離した。




 「隠す気ないでしょ。」

 ノルンはアイラに言った。

 確かにアイラは湯浴みなど着ていないし、ガサツな男性冒険者のように全裸でのっそのっそと歩いている。


 「減るもんじゃないし?」


 「あぁその、裸体もだけど……」


 「だってもう気付いてるでしょ?隠す必要はないって。」


 「やっぱり仲良くなるには裸の付き合いが大事だよって~。」

 アイラはそう言って洗体所へと向かった。


 

 「ねぇ、背中洗ってあげゆ~。」

 そう言ってアイラは自分の身体をノルンの背中に押し当てる。


 「ちょっと、当たってるよ。」


 「当ててるんだよ。」





 「うあ~のぼせたぁ~」

 ノルンは目を回しており、アイラにお姫様抱っこをされて脱衣所にある長椅子に運ばれている。

 大事な所は見えないようにタオルで隠されていた。


 「ごちそうさまでした。まさかノルンもあそこまで乗り気になってくれるなんてね。」

 「それと流石射手だね、腕の力半端ないし美しい筋肉だよ。」

 団扇でノルンの身体を扇ぎながらちょっと淫らな行為を思い出しているアイラだった。 


―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 アイラとノルンによる水戸黄門劇場が始まる予感。


 

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