第13話 経験者は神のように敬られる。

 メロン馬車に揺られる事数分。先程とは打って変わって静かな車内。

 疲れていたのかラッテが眠ってしまったもの大きい。


 「なんだか3人揃ってお姉さまと呼ばれていたのだけど、どういう事でしょう。」

 レティシアが先程のラッテの発言について思い出したように言った。


 「私達が窮地に現れた救世主に思えたんじゃない?それで美化128%とか。」

 さらっとユーフォリアは返すが、言ってる事はもっともかもしれない。

 命と貞操の窮地に颯爽と現れたのだから、吊り橋効果も相まって美化する事はと当然かもしれない。


 「シアの一番の良き理解者となりは私のものなのに。」

 実際席はレティシアの隣なのだけれど、ユーリの言う隣とはもっと深い意味なのだろう。


 指を咥えて悔しがる姿は一人だけ感情を交えているように思えた。


 「そういう仕草、可愛いわね。」

 横目で見ながらレティシアが答えると、ユーリは目を見開いて驚いていた。

 

 「てぇてぇわ~」

 そんな二人を見て向かいに座っているユーフォリアは微笑ましく眺めていた。


 

☆ ☆ ☆


 門の前に来ると門兵に対してギルドカードを提示する。

 流石Sランク、あっさりと通って良しとなった。


 「Sランクだとすんなりいっていいわね。」


 メロン馬車のまま冒険者ギルドの前まで進んで行く。

 その物珍しい見た目は、当然住人達の好奇の目を集めるには充分で、かなり目立ち注目の的となっていた。


 「かっけー、あの馬車かっけー。」

 「なんてメルヘンな馬車なの。どんな人が乗ってるんでしょう。」

 「どうせ頭のおかしい領主の娘だろ、良くも悪くも有名だしな。」

 様々な声が馬車の中にまで聞こえてくる。



 「今の人の言い方だとパパンが頭おかしいって聞こえるんですけど?」

 窓の外を覗きながらレティシアは呟く。


 「言葉の綾ってやつでしょう。いちいち突っ込まない。」

 「突っ込むものは私達誰も持ってないけどね。」


 「ユーフィーは下ネタが多いですよ。」


 

 「あ、そうそう。さっきのシアの範囲回復で、みんな色々復元したじゃない?」

 「あの光をついでのように私も浴びてたんだけど、そのおかげか私生娘に戻ってたわ。」 

 もう少しでギルドに着くというところでユーフォリアはとんでもない事を吐露した。 


 「ん?どういう事です?」

 よくわかっていないレティシアは聞き返した。


 「経験者から未経験者の頃に戻ったという事。身体が、性的な意味で。」


 「「ええええええええええええ!!」」


 レティシアとユーリは大きな声で驚いた。

 大声に驚いてラッテが起きるのではないかと懸念されたが、ぐっすりと眠ったままだった。


 「そそそそそおそそそ、その。ユーフィーはだだっ、男性経験がおありでしたの?」

 レティシアは真っ赤になりながらどもりながら尋ねる。


 「うん。それなりには。」


 「そそそ、そういえばユーフィーって年齢は??」


 「の秘密。」

 それは胸のサイズと同じくらい秘密である。女性のブラックボックスの一つだ。


 「ななななー、なななななーななな何歳の時に?」

 ユーリも挙動不審者のように言葉がどもっている。


 「の秘密。」

 黙秘権を行使する


 「「ユーフォリアパイセンッ。ははー」」

 

 レティシアとユーリはユーフォリアに向かって両手を天高く掲げてから地面に頭と一緒に卸した。

 まるで神に祈るかのように。


 「そういうの良いから。それに生娘に戻ったのだから、貴女達と同じだよ。ほら、もうギルドに着くよ。」


 顔は真っ赤、脳内はピンクに塗れた二人をユーフォリアは現実に戻そうとする。

 貴族の娘だろうと、まったく性に興味がないわけではない。

 冒険者になる者は違うかもしれないが、貴族の結婚は主に政略が多い。

 18歳であれば一人目の子供を身籠っている方が多いのだ。


 レティシアとユーリもまた、それなりに性には興味があった。

 元々ユータと婚約していたわけでもあるし、いつかはそういう事もなんて想像していたのだから仕方ない。

 もっとも今は婚約破棄されたわけだし、ユータとどうこうする事など微塵にも考えてはいないけど。


 それと、ユーフォリアに対して尊敬のような態度を取ってはいるけれど、男性と何かするのはちょっと今は良いかなとも思っている。

 ユーリは……態度からわかるように、レティシア一筋に見える。


 単純にないものねだりでこの人凄いとなっているだけであった。


 そうこうしている内に、ギルドはもう目の前だった。


 「ほら、ラッテ。ギルドに着いたよ。」

 ぺちぺちとほっぺを叩いて起こす。


 「はうっ、お、おにぇさまぁ~」

 ラッテは見事に寝惚けていた。


 「しょこはちがいましゅ~。」

 一体どんな夢の中にいたんだという寝惚け方。

 

 「置いていっちゃうよ。」


 「ひっ、いや。置いていっちゃいやぁっ。」

 カッと目を見開き目覚めるラッテ。

 その表情は恐怖に塗れている。もしかすると置いて行くという発言が先程の森の中と連想していたのかも知れない。


 「っほら、大丈夫だか。よしよ~し。怖くな~い怖くな~い。」

 レティシアがよしよしとラッテの頭を撫でるとやがて落ち着いていった。

 心なしかツインテールが少しぴょんと立ったようにも錯覚していた。


 

 後ろの馬車を覗くが未だに誰一人として起きていない。

 目覚めたくない何かがあるのだろうか。 


 一人は残って見ていた方が良いかなと考えたが、メロン馬車を見に来た野次馬が多いので待機は諦める。

 

 「とりあえず報告に行きましょ。でも報告はユーフィーがしてくれないと……」


 「あ、うん。」 

 

 先頭を歩きギルド入り口の扉に手をかける。


 「まぁ、何人かなんて数えてないし覚えてもないんだけどね。」

 その言葉は誰にも聞かれる事無く風に消えていった。




――――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。


 ユーフォリアの性に関して。

 最後の呟きで誤解を与えてしまいそうですが……

 別にビッチというわけではありません。

 そのうちどこかで語られます。


 でもそれは色々明かせない事に繋がるので、すぐにではありませんが。

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