第12話 ラッテという少女

 ユーリが空間収納から取り出して敷いたシートに、女子冒険者は腰を掛けて膝を抱えて蹲っていた。

 レティシアが件の女性冒険者の元に着く。


 「間に合ったとまでは言わないけれど、貴女は助かった。これからどうするかは貴女次第。」


 

 「それと……スカートの中、見えてるわよ。」

 彼女の服装スタイルは身軽な盗賊や斥候のような恰好だった。

 身軽さを売りにするならば、短パンスタイルの方が良いのでは?と周囲に言われそうではあるのだが。

 

 冒険者の中には可愛さを取り入れる人もいるのでこの冒険者もそうなのだろう。


 レティシアにスカートの件を指摘されるが、取り乱したりはしない。

 大事に至る寸前とはいえ、もっと恥ずかしい所を見られていたので今更という事なのか


 レティシアの中では軽い笑い話を交える事で緊張を解こうという意図があったのだけれど、誰もそこには気付いていない。


 レティシアは彼女の前に膝をつき半立ち状態で彼女の頭に手を添える。

 そしてそのまま自分のない胸に押し当てるように抱きかかえる。


 「もう貴女は大丈夫。大丈夫だから前を向いていきましょう。」

 結界を張って回復のあたりからレティシアが聖女らしい事をしている。

 今の言葉もどこか心に温かい光を与えてくれるような、本物の聖女様の浄化のようにも感じる。


 「うっ、うぅぅっ。お、おねえさまーーー。」

 ん?お姉さま?とレティシアは頭上にはてなマークを浮かべている。


 「ずるい……」

 ユーリがレティシアに聞こえるように不満を漏らしていた。


 数分後泣き止んだ彼女の背中を優しく撫でている。

 「ほらほーら。もう怖くなーい。怖くなーい。」

 幼子をあやすようにレティシアは擦っていた。


 「レティシアお姉さま、ユーリお姉さま、ユーフォリアお姉さま。本当にありがとうございます。」

 どうやら助けにきた3人ともお姉さま呼ばわりされていた。


 彼女の名前はラッテ。16歳のEランク冒険者。

 泣き止んだ後に自己紹介をしていた。

 冒険者ランクはEであるが、胸のサイズはAかBだろうと枸杞の実の3人は思っていた。


 そもそも枸杞の実云々は胸全体というよりは、その先端に付いている乳首に対する比喩のはずだが、誰もそこには突っ込まない。

 金髪で腕の外側にまで垂れているツインテールの彼女の姿は、斥候と言うにはやはり違和感が多い。

 その後天職を聞いたレティシア達は納得した。


 「私の天職はです。」

 この場にいる全員が聞いたこともないので、この娘の天職も唯一無二だと3人は思った。

 看板娘だから可愛い恰好をしている。それは理解出来る。


 それならばなぜこの場にいるのか……


 ラッテは学生時代の先輩と一緒に冒険者として生計を立てていた。

 学校に通っているうちから平日は学校、休日や放課後の空いた時間に冒険者として生活をしていた。

 もっとも仕事内容としては、街の清掃とか飲食店の皿洗い等ばかりではあったのだが。

 こつこつと地道に経験と信頼を得てランクだけはEランクにまで上がる事が出来ていた。

 

 学校はレティシア達と違い、平民でも通える一地方の学校であった。

 話を聞けば、それはフラベル領にある学校だとか。

 なにそれ、自領なのに知らないやとレティシアは思ったが、自身が通っていたのは王都にある学校であるため知らなくても無理はない。


 先輩冒険者が後方支援という形で、このエルダートレント討伐に乗り出したのは数日前。

 メインである攻略部隊は残念ながら貫かれて帰らぬ人となっている。

 中には女性経験が未経験の男性冒険者もいたとか。

 童貞喪失の前に後ろの処女を喪失して、そのまま亡くなるとは可哀想にも程がある。


 何故なら討伐依頼を受けた一つのパーティが「サクランボボーイズ」だったからだ。

 女性経験をしたら脱退というパーティだったため、多少は名が知られていた。


 「先輩の事はわからないですが、貴女は付いてくるべきではなかったですね。」という言葉をレティシアは飲み込んだ。

 冒険者は自己判断で決断を下さなければならない。

 例え流されても脅されても最終的に判断を下すのは自分自身なのだから。

 

 「戻ってギルドに報告しましょうか。」

 そうですね、早く戻りましょうと言うユーリ。


 「面倒事になりそうな予感……その時は報酬上乗せするからね。」

 ユーフォリアはやれやれといった感じで肩を下ろした。


 「それと、これは他の子が目覚めた時にも言いますが、あくまで討伐したのはこちらのSランク冒険者のユーフォリアさんですからね。」


 ユーフォリアは目を大きく見開いて驚いた表情をしているが、最初から決まっていた事でしょうとレティシアは目で語る。

 

 「はい、レティシアお姉さまのおっしゃる事は守ります。」

 彼女の中でどういう思考回路が形成されているのかは誰にもわからないけれど、ラッテは既に舎弟ならぬ妹分になったつもりでいた。



 レティシアは冗談半分で……

 「メロンパン買って来い。後、コーヒー牛乳ね。お金?財布?そんなもん自分のから出せば良いでしょ。」

 どこの悪徳先輩冒険者だよというセリフを言うと。


 「わかりました。街についたら早速買ってきますっ。」

 敬礼ポーズを取ったラッテが姿勢正しく返答する。 


 「プークスクス。大輪八分咲きだね。」

 その様子を見ていたユーフォリアが爆笑していた。

 「しあおねえさまー」

 文字通りユーフォリアは両手を広げて咲いて見せた。


☆ ☆ ☆


 「じゃじゃーん。」

 レティシアが意気揚々と空間収納から大きな乗り物を取り出した。


 「貴族の娘はじゃじゃーんなんて言わないけどね。」

 ユーフォリアがツッコミ役になって呟いていた。


 「わっ、わっ。シアお姉さま凄いです。これはなんですか?」

 いつの間にか愛称+お姉さまになっている。


 馬車の荷台のようなものが現れた。

 おとぎ話で出てくる12時になると魔法が解けてしまう云々のかぼちゃの馬車のような。


 「シアのはメロン馬車ですけどね。」


 「ヘタが回って空も飛べます飛べます……飛べますのよ。」

 下手な貴族令嬢のような口調で返したレティシアはどこかいたずらっ子のような表情をしている。


 「流石に嘘でしょう?」

 「うっそぴょ~ん。」

 ユーフォリアが嘘でしょと突っ込むとレティシアが嘘だとあっさり白状する。


 「それで、これを引くのが……これ。馬型ゴーレム。魔力を込めるだけで動く自動人形ですね。」

 「とあるダンジョンの宝箱に入ってましたね。」

 レティシアとユーリが嘘か本当かゴーレムの出自について語る。


 「だからそれも嘘でしょ。」

 「宝箱は嘘だけどダンジョンでのは本当。こういう魔物がいて、倒した後魔法で復元したらこうなった。」

 結果的には聖女の力の無駄遣い。

 しかし当のレティシアは至って真面目である。

 何かに使えないかな~なんて思って復元したのだとか。

 

 馬に人跨った魔物、ホースマンを倒した時の事だった。


 未だに起きない女性陣を後方のメロン馬車荷台に寝かせて連結させる。


 「しゅっぱーつですわ。」

 見栄えのために、御者ゴーレムを馬車ゴーレムに乗せている。

 

 「シア、そろそろ似非貴族令嬢口調やめません?」

 

 「ひどっ、これでも一応貴族令嬢なんですけどね。」

 レティシアは隣に座るユーリの両頬を摘まんで引っ張った。



―――――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 ラッテの今後がどうなるか、多分選択肢は少ないと思います。


 金髪ツインテで看板娘の天職となれば……

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