第11話 聖女らしい事を初めて行いました。

 「え?実作業は二人がやるから私に受諾しろって?報酬は酒池肉林だって?」


 説明ありがとうとレティシアは心の中で感謝する。そして酒池肉林はユーリでさえ言ってませんよと心の中でツッコミを入れていた。

 しかしそれは実際は行ってはいけない禁止事項である。

 それがまかり通ってしまえば、ギルドにおけるランク制度等が無意味となってしまう。


 命知らずというだけの話ではない。

 高ランクと低ランクで依頼の交換という事も、当然ながらしてはならない。

 本来であれば、人というのは徐々に成長する。

 その成長に合わせて様々な依頼をこなし、ランクというものは必然と上がっていくものだ。


 元々の個の違いがあるため、実力や成長の速度は違ったりは当然存在するけれど。。

 それでもそれは一部の話であって、殆どの人はゆっくり成長する。


 冒険者ランクが低いのに意味不明な実力を持つレティシアがおかしいのだ。


 そんなおかしいレティシアが依頼の交換ならぬ、共同受注という空いているかわからないギルド規約の隙間を拭った事をしようとしているのは、発覚した際には最高で除名もあり得る。


 ギルドにはユーフォリアが受注し、その後ろをたまたま通りかかっただけという体でいこうというのだ。

 もちろん討伐の報告もユーフォリアが行えば、道中何があったとしても誰もわからない。

 その現場にいない限りは。


 「だめとは言わないけど……メロンが欲しいな。」

 ユーフォリアの視線を辿るとどことなくレティシアの少し膨らんだ胸の当たりに向かっていた。

 もちろん、そこにはパットが入っており、偽物なのであるが。

 そして手は自らの胸の前でゆっさゆっさと上下に揺らしている。

 


 「え?私達のは枸杞クコの実くらいしかありませんが。」

 代わりに応えたのはユーリだった。手を胸に当てるとペタンと効果音がなりそうな程悲しい絶壁。

 自分でやって後悔している。ほんの少しくらいは膨らみあるもんと。心の中では言い訳をしていた。


 「誰が胸の話をしてるかっ。私だって枸杞の実くらいしかないわっ。」

 三者三様とはいかず、三本の矢はいずれも等しい矢ならぬ膨らみだった。

 


☆ ☆ ☆


 「ありがとうございます。Sランクのユーフォリアさんなら大丈夫だとは思いますが、気を付けてください。」


 カルナは続けて「女性は特に酷いそうですから念のため」と言っていた。 


 レティシアの空間収納にはユーフォリア所望の高級メロンが収納されている。

 前払い報酬としてすでに5玉渡していた。

 もちろんユーフォリアも空間収納を有しているので、受け取った後は既に収納済であるが。


 自分で採取しに行けば良いじゃんと言われそうだけれど、こういうのは建前というものも必要であった。

 口約束の契約とはいえ、形にするにはそれに見合った対価を支払う事で対等となる。


 高級メロンの存在するエリアには並の冒険者では到達出来ない。

 そして人が栽培するには、知識と経験が足りていない。

 必然的にダンジョンの中に存在する物を確保するしかないし、市場に出回っているものはダンジョン産だ。


 並の冒険者ではダンジョンの下層に行くのも困難。

 となれば、レティシア達の実力も必然的にユーフォリアに提示する事が出来る。


 ちなみにユータ達に追放された、件のダンジョンの後半のフロアに生育されている。

 しかし同フロアにはメロンを食す猿の魔物が多く、採取する事が容易ではない。

 ダンジョンにやってくる冒険者が採ろうとすると、猿達集団で邪魔をする。


 その邪魔を掻い潜っての採取となるため、高級メロンの売買金額は必然的に高額となる。

 猿単体の戦闘能力は並の上といったところで個の討伐ランクではBとCの中間程度。

 

 しかし徒党を組んだ場合はAにも匹敵する。

 ヤるかヤられるかもしくは素通りするかの3択しか存在しない。


 「ねぇねぇ、π乙~。」

 言葉のニュアンスは難しいけれど、服の中……胸の位置に二つメロンを挟んだユーフォリアは、レティシアとユーリに見せつけた。


 

 「そういうキャラだったの?」

 レティシアはやれやれといった表情をした。


 「もう私達は大分砕けられる関係になったんじゃないかな~と。下ネタも解禁かなって?」

 ほらほら偽乳偽乳~からの巨乳巨乳~とやって見せびらかしている。


 「ユーフィーがソロな理由を垣間見た気がする。」

 冒険者をしていれば多少性を超越した考えをしていたりはするものだけれど、ユーフォリアのは少し違って感じていた。

 多分鬱陶しくなってしまうのだろう。

 残念系美少女……という言葉がしっくりくる。


 「一応シアは貴族の娘なのですが。」

 ユーリは額に手を当てて唸っている。


 「私、そういうの気にしなーい。」

 Sランク冒険者は貴族に換算すると伯爵と同等とされている。

 それはSランクになるために必要な条件の中に王家または上位貴族に関わる依頼を完遂し、信頼を得る事が条件となっている。

 例えば、〇〇ドラゴンを討伐等でそれらは達成されるのだけれど、そう都合よくそのような難題は存在しないので、大抵は貴族の護衛を一定数こなる事でクリアする事が多い。


 Sランクが伯爵と同等扱いという事は、レティシアの実家とはほぼ対等という事になる。

 

 レティシア自身は令嬢のであり本人に爵位があるわけではないので、実質ユーフォリアの方が上という事にもなる。


 一方レティシアは小玉の西瓜を胸に入れていた。

 「ほらほら、美乳~。」

 

 メロンだと大きすぎて下品だと、小玉の西瓜であれば適度だとレティシアは言いたかった。



 「シアも乗っからないでくださいなっ。」


 いつのまにかこの3人のツッコミ役がユーリとなっていた。

 流石にボケ倒し3人とはいかないのだろう。


 

 「ねぇねぇ、妊婦~」

 大玉の西瓜をお腹に入れてアピールするSランク冒険者のユーフォリア。

 口から出さないだけ褒めておこうと思ったユーリだった。

 緑色の魔王の真似はさせなかった。



☆ ☆ ☆


 南東の森を進んで行く3人。

 歩き辛いと感じる程草木は生い茂っていない。

 きちんとした舗装された道があるわけではないけれど、何度も冒険者が通ったのだろうか、雑草が踏みしめられ土が露出し簡素な道は出来ていた。

 道中魔物の一体ともすれ違わない事に疑問を感じながらも件のエルダートレントの出現地域に差し掛かろうとしていた。



 「あの地図通りならそろそろかしら?」

 レティシアがそう言ったところで、やや開けた場所に出ていた。


 その目線の先の中心には大木が1本。

 

 「あ、そういう事ね。」


 大木から少し離れたところには、男性冒険者の成れの果てがいくつか転がっていた。

 その遺体の股間と口に大きな空洞が空いている。

 それは恐らく上か下かはわからないけれど、貫かれた跡だろう事は多少遠目であっても理解出来る。


 串刺しにしてそのまま投げ飛ばしたのだろう。

 だからこそ穴の開いた死体が転がっているという事だ。


 しかし、それよりももっと酷い光景。

 蔦に絡まれ身動きの取れない状態の女性冒険者。

 その身体は現在進行形で、上からも下からも大木の枝が貫いている。


 中には木と一体化している女性冒険者も数人存在していた。

 肌が木目となっており生死は不明。石になってしまう石化の木バージョン、木化とも言うべきか。


 そして今まさに、一人の女性冒険者の太腿を舐めるように伝い、秘所へと侵入しようとしていたところで枝は動きを止めていた。


 「エサがまた増えた。ワシをこれ以上肥えさせてどうしようというのだ。」

 それは討伐しようとやってきた冒険者達を指しているのだろう。

 辛うじて逃げられたあの男性冒険者と、今犠牲になろうとしている女性冒険者以外は養分にされているとみて間違いない。


 「に、逃げ……て。」

 今餌食になろうとしていた冒険者が涙を流しながら逃げる事を勧めてくる。

 自分はもう助からない。きっと自分達を救出しにきた、もしくはエルダートレントを討伐しにきてくれたのだろうけど、女性三人で敵うはずもない。

 だから逃げてと。


 その言葉を聞いて前に出るのはレティシア。


 「だ、ダメ。貴女達も犠牲になっ……ちゃう。」

 涙で汚れているが、きっと普段の姿は可愛いのだろう。

 崩れていてもそれは垣間見ることが出来ていた。

 


 「近付かないとそいつ殴れない。」

 レティシアの勇猛な言葉に、ユーフォリアはただその様子をじっと見ている。

 

 「可愛い女の子を泣かせる奴は許さない。」

 考え方がユーリに近付いていた。その横では少し胸にちくっと何かが刺さったのか苦痛に苛むユーリの姿。

 ユーリは服の上から胸を押さえていた。


 「震えるわ私の心、燃え尽きる程私の拳……」

 ビュッという効果音がなったかのように、一瞬で今いた場所から駆け出したレティシア。


 「真っ直ぐ行ってぶっ飛バース!」

 エルダートレントの枝が多数レティシアに向かって伸びてくる。

 

 しかしレティシアに触れる前に見えない障壁に阻まれたのか、枝は霧散する。

 

 「滅殺っですわっ。」

 先程エルダートレントが発していた顔の部分をレティシアの拳が捉える。


 「ぶぐげえぇぁぁぁぁぁっ。」

 単語にならない絶叫を上げるエルダートレント。

 

 「一発じゃ生ぬるい、この女の敵ーーー。」

 右と左の拳が何発もそのボディへと突き刺さる。


 顔のあったであろう位置が空洞となると大木としては形成出来ず後方へと倒れる。

 その際エルダートレントの根が土の中から盛り上がっては地上へと現れる。

 大木の根まで引っこ抜くレティシアの拳。

 魔力を乗せた拳だからこその威力ではあるが、他人が見れば純粋な腕力にしか感じないだろう。

 

 それを知っているのは家族、、ユーリ、そして今の様子を見ていたユーフィリアくらいのものだった。


 一方、隙をついて行動していたユーリは、先程の女性を抱えて救出していた。

 レティシアも大概であるが、ユーリもまた大概であった。

 レティシアが拳をお見舞いしている間に、捉えられていた女性冒険者にまとわりつく枝を叩き折り、そのまま救出しているのだから。


 それも件の女性だけでなく、木と一体化していた数体の女性達を。


 

 「燃え尽きなさい。」

 瞬時に結界を張り、エルダートレントとして存在していたを火の魔法で燃やす。


 「まだよっ。」

 もう一つ張った結界内でさらにもう一つ仕事をするレティシア。


 「復元……からの!」

 一帯を覆い尽くす金色の光。

 逃げてと叫んだ女性冒険者や木と一体化した冒険者、そして既に事切れている穴の開いている男性冒険者達を包み込む。

 その光に包み込まれ、数秒の後光が晴れる。


 「流石に死者を生き返られる事は出来ないけど、身体の復元は可能……」


 エルダートレントが燃え尽き、所謂ドロップ品が残るまでその様子を眺めているレティシア。

 素材となってしまえば、その魔物が生きていた時の事は無関係となるため、素材として遠慮なく持って帰る。

 もっとも一部はユーフォリアに討伐証明として提出してもらうのだけれど。



 光が晴れて現れた女性達、遺体の身体に異変が起きていた。

 「あ、私の傷……治ってる。」

 逃げてと叫んだ女性冒険者は、自らの身体をあれこれと触れる事で確認していた。

 同時に一体化していた他の女性冒険者が、生きていた時と同じ姿に戻っている事からもそれは実感していた。


 元の姿に戻った数名の女性冒険者の胸が上下している。

 それは彼女達が生きているという事であった。


 「どうして?」

 泣きながら女性冒険者は尋ねてくる。


 「生きていたからだよ。あんな姿にされてはいたけれど。」

 レティシアは冷静に返答していた。


 エルダートレントの一部は「エロだトレント」というギャグかという代名詞が付けられる個体が稀に存在する。

 自らの枝を性器に見立ててて異性の穴へと侵入してはえっちな養分を時間をかけて吸収する。

 そしてある一定の粋に達すると、苗床として近くの土に埋める事で子と成す。

 自らの樹液と他種族の卵なり精なりで。

 

 捕まった他種族の異性は、エルダートレントにとって伴侶であり子孫でもあるというなんとも形容しがたい存在として分植され、自らもトレント系魔物として繁栄していく。


 だからこそ種を残せない、同性の別の種族に対する時の対応は残酷となる。

 養分としても利用出来ないので無用の長物となるためだ。


 そのため男性冒険者は下から上へと一撃の元貫かれ殺されていたというわけだった。

 一撃で屠られているので、苦しみは短い時間と考えた時、残酷かと問われれば不明ではあるが。



 「あ、ありがどうございまずっ。」

 泣きながらお礼を言ってくる女性冒険者。


 「聖女らしい仕事、初めてしました。」

 ユーリと女性冒険者の元に戻って来るレティシアは清々しい顔をしていた。


 「女の子の感謝の涙……なんだか萌える。」

 レティシアは何か扉を開き掛けていた。



 「あ、私も戻ってる。」

 ユーフォリアが何やら独り言を呟いていたが、レティシア達には聞こえなかった。


 必死の想いでギルドに駆け込んできた冒険者や、犠牲になった冒険者には気の毒は話しだが、レティシアにとってはエルダートレントはただのサンドバックならぬウッドバックでしかなかった。


―――――――――――――――――――――


 ユーフォリアの戻ってる云々は大人の事情で言えません。

 遠い未来どこかで明らかになりますが。


 次話が公開されればなんとなく想像出来る事ではありますが。

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