06
「……や、やったあ、倒せ…………あれ」
腰が抜けた……というか魔力切れで足が動かない。あんなに威力を出すことは無かったかもしれない。
「大丈夫ですか? あ、でもこっちも魔力切れ気味みたいです」
賢者も言いつつ床に座り込んだ。だよね、この部屋の天井を貫通してたよあの氷。魔力を天井にぶつける癖は直ってなかったらしい。
魔王の白髪は血に浸って赤く染まっていく。魔力はもう感じない、今は城から感じる魔力だけ……
「……城が消えない……ていうか、猫まだ生きてる……?」
城は全く消える気配がない。そして猫はまだ後ろにいる。城の影響か光っている。
「ん?……変だな。そういえば確かに俺は生きてる……」
猫自身も理解していないらしい。異常事態だ、魔王がいないなら魔王の魔力である魔物や城は消えるはず。実は魔王の魔力じゃなかったってこと……?
「変ですね……美女さん、何か知って……」
賢者も分かっていないらしい。ということはかなり問題だ。流石にまさか美女が知ってるなんてことは
「三人とも逃げて!」
美女が叫んだ。
「はい残念でした。私は第三形態まであるんだよ」
声が聞こえると同時に強い衝撃が走り体が壁に叩きつけられた。
「……あ、え、魔王……」
頭から出血しているのか視界がぼやけている。
そこに立っていたのは血に染まった……訳ではなく、真っ赤な髪をした魔王だった。傷はもう無い、魔力もさっきの倍はある。
「魔女ちゃん、転移魔法を使って! 二人と猫の分なら魔力足りるよね」
美女は魔王の目の前に立ったまま手を伸ばした。戦う気だ。
「戦うの? 馬鹿みたい、負けるのに。私は形態が変わるごとに三倍は強くなるよ?」
「形態が増えてるなんて思わなかったよ。まさか自力で進化しちゃうなんてね……でもせめてもの罪滅ぼしに私はここで戦う」
やっぱり意味が分からない。自力で進化するって、罪滅ぼしって……
「美女さん無理です。いくら美女さんの実力があっても第三形態までは」
「皆、最後に言っておくね。魔王を作ったのは私だよ」
それは知ってる、知ってるけどだからって美女に責任は
「知ってる?神様って作れても操れないんだよ」
えっ、そうなんだ初耳だ……て、あれ?
「……金髪娘、お前まさか」
「おっと猫。ここは自分で言わせて」
猫が何かに気が付いたらしい。けれど美女に止められた。
「私は女神なの。……あ、自画自賛的な意味では無くてね。文字通り、神なんだ」
ちょっと待って過去一番で理解が追い付かない。確かに美女は女神級に美人だとは思うし実力も定期的に神がかってるとは思った、それに人外じみた能力とかも……え、本当に神……?
「訳が分かりません。それなら……美女さんが神だとすれば何故ここに」
賢者は反対側の壁の下に座り込んでいる。凍っていなかった方の腕は血まみれになっている。
「戦争を止めようと魔王を作ったらね、想像以上に危機になっちゃって。追放処分受けっちゃったって訳なんだ。我ながら身勝手だよねホント」
頷きながら美女は魔王の方を向いた。無理だ、よく分からないからはっきりとは断言できないけど美女だってさっきのでかなりダメージがあったはず。足元がふらついている。そんな状態で魔王と戦って、生きていられるわけがない。
美女、死ぬ気だ。
「…………駄目、絶対に全員生きて帰らせる」
「え、魔女ちゃん、ダメだよ魔力が」
確かに、ちょっときついかもしれない。魔力は残量が空になると死ぬ。空近くになっても危ない、だから今全員に転移魔法を使ったらどうなることか分からない。
「遺言タイムは終わった? そろそろ攻撃再開するけど」
魔王が手を地面に向けた。その瞬間床が凍り付いてつららが生えた。
「魔女ちゃん、待って! やめて」
対象は前にいる美女、反対の壁にいる賢者、あと猫……猫は軽いから楽かな。
「転移魔法っ!」
唱えた瞬間意識がすっと消えた。
私、いつからこんなに臆病者じゃなくなってたんだろう。皆のおかげかな。
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