04

「この程度。抑えられないとでも思った?」

 炎が消えると焦げあとの真ん中で魔王はため息をついた。

 確実に当たったはず、なのに全く魔法が効いていない。

「こ……氷魔法っ!」

「属性を変えても無理なものは無理だって」

 魔王がいた場所に氷の柱が立つ。しかし魔王は氷の柱の裏側から姿を現した。まるで脱出マジックだ。我ながらなんて緊張感のない例え。

「電気魔法!」

 とりあえず片っ端から試す以外ない。杖の先から電流が走る。唱えてから気が付いたけど電気魔法は全くコントロールが効かないんだった。

 後ろの方で猫の悲鳴が上がった。猫に命中したらしい。流石猫の運の悪さ。

「魔女さんまだ魔力を使い過ぎない方が良いです」

 賢者が猫に回復魔法をかけた。

 た……確かにそうだ。つい変に焦ってしまった。魔力残量はまだそれなりにある、けど私の魔力は多いと言っても賢者や魔王には到底かなうものじゃない。使いどころを見極めて使っていった方が良さそうだ。

 魔王はマントにすら傷がついていない。

「やらないならこっちから行くよ」

 構える前に魔王は槍を放った。賢者の方だ。

「火炎魔法っ」

 その前に賢者が火炎魔法を放った。魔法の才能もあって反射神経も良いとか普通に考えたらこんな魔王討伐に送り出されるより、各国の人事部に狙われている方が正しいはずだ。

 とか思っていたら槍は放たれた炎を通り抜けて突き出した賢者の腕に刺さった。

「け、賢者! 回復魔法っ!」

 床に血が広がるも氷の槍の影響で凍り付く。どうにか出血量は抑えられたらしい。

「すみません、早速魔力を消費させてしまいました」

 こんな時に謙虚なのは良くないよ。そもそもあの氷の槍を受けて、回復魔法でどうにかなる傷だったとは思えない。

「よそ見とか余裕だね」

「あっ」

 振り返ると新たな氷の槍は顔の前まで迫っていたが、当たる前に空中で静止した。制止するなんて訳の分からない現象が起こるはずはない、正しくは美女が槍を素手で掴んでいた。

「ギリギリセーフで止められてよかった、顔に当たってたら大惨事だったよ」

「素手で掴んじゃうなんて凄いね。もしかして人外とか?」

 魔王ですら手を前に伸ばしたまま驚いているような様子だ。

 何で触れただけで凍るようなものを素手で掴めるのか。そういえば北の国の雪山でゴーレムに挑んだ時も腕を凍らせて平気だったけど、美女って本当に何者なんだろう。

「美女、それ投げてみて!」

 確証は全くないけど火炎魔法すら効かないその槍なら魔王にも効くかもしれない。

「了解っ!」

 美女は槍を振りかざし……手を止めた。流石の美女でもあの槍を素手はダメージがあったのかもしれない。逆に無い方が変だ。

「どうしたんですか、美女さん」

 さっき負傷した腕を抑えたまま賢者は反対の手で杖を握っている。詳しい魔法の知識は無いから影響は分からないけれど、怪我した方の手は利き手のはず。

「……ごめん、私攻撃できないよ」


 突然美女が呟いた。そして掴んだ槍を地面に落とすと槍の周りに氷が張った。

「え、美女、やっぱりさっきの槍で怪我を」

「そうじゃないの。でも…………」

 怪我しなかったんだ。でもそうだとしたらどうして攻撃できないのだろう。美女は攻撃力が高いし魔力に頼らずとも攻撃できる分かなり重要な戦闘力だと思うんだけど……まさか人外だからこそ私たちにはわからない攻撃の魔力的なものがあるのかもしれない。で、それが切れたとか……? 

「あれ、まさか今頃さっき私が言ったことに感化でもされた?」

 確かにその可能性もある。でも今は考えてる場合じゃない、そんなことを言っていたら全滅だ。

「違う……けど、私は魔王に攻撃できない」

 違った、けどなら尚のこと変だ。一体何で

「分かりました。でしたら美女さんの分もカバーするまでです」

「え、賢者待って。私たちだけじゃ攻撃はきついと思うよ」

 確かにこういう状況ならカバーできるのが理想だ。だけど二人揃って魔法使い、猫が加わっても魔王相手に最後まで攻撃が持つかは怪しい。

「魔力切れになったら回復薬があります。多分持ちます」

「多分って魔王決戦で一番使っちゃいけないやつだよ」

「普通に考えて攻撃が効かないわけがないです。作戦を練れば勝てます」

 断言した。でも確かに攻撃が効かないのは変かもしれない。

 魔王と言っても肌が鉄でできているわけじゃない。魔法攻撃が全く効かないというなら何かしら理由があるはずなんだ、例えば防いでいるとか吸収しているとか……


 ……防いでいるって、何かデジャブな気が……

「火炎魔法っ!」

 唱えると同時に杖から炎が噴き出して魔王にかかる。魔王は腕を組んだまま炎の中にたたずんでいる。

「全く効いてません、一度作戦を立て直した方が」

「賢者今だ、氷……じゃなかった、それ以外の攻撃魔法かけて!」

 今更だけど炎と毒と回復以外で賢者が使える魔法の種類が分からなかった。

「それ以外ですか?……わかりました。電気魔法!」

 賢者が杖を炎の上がる方へ向けると、雷に匹敵するほどの電流が魔王目掛けて落ちた。普段ほとんど使ってないのにコントロール抜群なのが羨ましい。


 魔法が全く効かない、と感じたことは前にもあった。火山の国で誘拐犯のボスと戦った時だ。あの時はボスの奥さんが遠くから私の魔法を防げるような魔法を放ってボスにダメージが行くのを防いでいた。その前にも彼女は氷魔法を使って火魔法を食らわないよう身を守っていた。魔王もこれと同じだ。


 いつの間にか私もこんなに頭が回るように……いや、よく考えたら逆に何で気が付かなかったんだろう。やっぱり記憶力が危ない感じになってるんだろうな。



「……なんだ、ここまで来るだけあって馬鹿ではなかったんだ」

 火が消えると魔王は焦げあとの真ん中に立ったままだった。


 しかしすぐにバランスを崩し魔王は地面に膝をついた。感電している。

 攻撃する方法さえ分かったなら、私たちだけでもどうにか美女の分をカバーできるかもしれない。

 事情は全く想像つかないけれど、これまで何度も助けてくれた美女を苦しませるわけにはいかない。二人がピンチの時には、私が助ける番なんだ。

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