第三部 死亡フラグ
01
「魔王討伐in魔王城っ!」
魔王城以外の選択肢が無いのでは?
「早めに行きましょう。帰りが夜になると道中で寝る自信があります」
こっちはあっさりしすぎでは。あれ本当に魔王城だよね?
でも私も今日は流石に眠い。昨夜はつい全員で夜更かししてしまった。
見上げると巨大な城がそびえたっている。これが魔王城だ。その最上階は紫の霧に包まれてよく見えないが、今までのボスとは比べ物にならないほど強力な魔力を感じる。要は魔王はここからでも分かるくらいの魔力の持ち主なのだ。
それとは別に城からも魔力を感じるあたり、もしかしたらこの城自体が魔力の塊なのかもしれない。そう考えると最近出現したにもかかわらずここまで立派なのにも納得だ。でもこんなこと私が気が付いたなら賢者はとっくに分かってるのだろう。
賢者は城を見上げている。これでもなお無表情だ。
「魔王を討伐できたとして、魔物と一緒に城が消えて転落死する可能性がありますね」
あ、分かってるどころが恐ろしい結論にたどり着いていた。何その気が付きたくなかった事実。
「でも魔物って倒したら灰になるよね、城もそうなんじゃないかな? 討伐後は灰の上にダイブ的な」
美女も物凄い冷静だ。基本的に二人に動揺というものは存在しないのだろうか。
「城がどのくらいの量の灰になるか分からないな。無傷でいられる可能性は五分五分ってところか」
猫、お前もか。猫ってこんな頭脳派キャラだったっけ。
ていうか動揺してる人私だけなのか、魔王城前なのに。
この感覚は王様に呼び出されたときと同じだ。あの時は賢者も美女もまるで魔王を恐れていないように見えて、逆に動揺している私が変な人なんじゃないかと一瞬疑ったっけ。あれももう遠い前……いや、結構最近のことだけど、まさか魔王城まで来て同じ感覚になるとは思わなかった。少し感慨深いものがある。
まあ、あの時に思ったことは半分くらい勘違いだったわけだけど。
「じゃあそろそろ行こう。灰になるってのはちょっと心配だけど」
当たってたのは二人がむしろ楽しそうだと言うところくらいだろうか。数撃ったから一つは当たったみたいな感じがしないでもないけど。
「想像以上に早かったな」
魔王城に入ろうとした時、中から声が聞こえてきた。
かなり強い魔力を感じる。魔物だ。
「門番ですか」
賢者が呟いた。いや、門番にしては魔力が強すぎるような気がする。基準は無いけど。
「門番? 流石に俺を門番にするほどうちの魔王様は馬鹿じゃないぜ」
魔王様、ということはやっぱり相手は魔王の配下だ。
声の主は笑いながら外へ出てきた。その姿はまるで大きな角の生えた人そっくり
…………え、人?
「全員下がれっ! あれは」
猫が突然叫んだ。しかし言い終わる前に飛んできた何かに飛ばされた。
「ね、猫!?」
そのまま木に叩きつけられた猫は意外にも無傷だった。手加減された……?
人そっくりの魔物はため息をついて手を下ろした。
「誰が出会って早々戦うかっつの。あ、うちの魔王様か」
「た、戦う気が無いなら口で言えよ……」
体を起こしつつ猫が言った。良かった、意識はあるらしい。
「言う余裕が無かっただろ。落ち着きのないお前が馬鹿」
この感じ、二人は知り合いなのだろうか。確かに猫は魔物だしその可能性は十分にある。会話からして友人同士なのかもしれない。
「それで? 側近君は何でここに?」
美女の一言に側近は明らかに呆れた表情をした。
………………あれ、側近? 美女今さらっととんでもない事実を言ったような。
「人の正体を先に暴露するな馬鹿神」
「えっ、何その謎なディスり方!?」
本当に側近だったらしい。側近って魔王の側近……通りで魔力が強いわけだ。
にしても馬鹿神って何か凄いしっくりくる気がする。
「魔女ちゃんまで酷い!」
「美女って一体どのくらいの頻度で私の心読んでるの。そろそろ怖くなってきた」
ていうか本当に何者なんだ美女。魔王討伐後に正体が判明するんだよね。
「ところで側近さんは何故ここまで?」
そして賢者、こんな非科学的な現象を目の前に完全無視するんだ。今までもそうだったけど彼、美女の奇行に関しては途中から考えることを放棄している感じがしてた。賢者に無理なら私には永久に理解できないのかもしれない。
「何故? そんなもん来客が来たから案内しに来てやったに決まってんだろ。お前らこの城の複雑さ舐めてるのか」
「側近、お前は何で全発言が喧嘩腰なんだよ」
私的には猫もお互い様なのではと思う。ていうか城複雑なのか。絶対迷子になる流れだったから側近来てくれてよかった。
「あれ、でも何で案内? 迷って上まで来られないほうが好都合なんじゃ……」
魔王城に入ろうとした側近はそれを聞いて鼻で笑った。喧嘩腰だ。
「どうせ上まで来たってお前らには魔王様は倒せねえよ。あ、あと話したいこともあったしな」
「話したいこと?」
側近はそれ以上は答えずに振り返ると歩き出した。
「付いて行ってみましょう。罠の可能性もありますが」
賢者のその最後の一言が地味に不安をあおる。それをあえて言う必要はあっただろうか。さっきから賢者がなんかサディスティックな気がする。あれ前からだっけ。
「よし、魔王城初上陸!」
美女も初めからずっとこのテンションを維持してる気がする。多分魔王を前にしてもこんな感じなんだろうなと思うとちょっと安心する。その後は少し心配だけど。
さて、いよいよ魔王城だ。
勝っても負けてもこの門をくぐるのはこれが最後になるのだろう。
【 第三部 死亡フラグ 】
「え」
「どした? 魔女ちゃん」
美女に声をかけられ顔を上げると、側近と男子達は大分離れたところを歩いていた。まずい置いてかれる。
「い、いや。多分気のせいかな」
「大丈夫? 体調悪くなったら言ってね」
「うん……」
気のせいなのだろうか。なんだか今、物凄く不吉な予感がした。
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