第二部 名無し
01
俺の名前はライ。平均……いや、平均遥か下に位置する男子学生だ。
理由は簡単。俺の生まれ持った魔力量は無いに等しかった。
なのになぜか入学することになったここ魔法学院で、魔力の少ない俺は落ちこぼれとして日々全校生徒の笑いの的。見返してやりたいが俺には力が……。
「ライ、貴方は人一倍努力をしました」
突然、礼拝堂の方から女性の声がした。侵入者か?
「なっ……!」
そこにいたのは光る女性。魔物かとも思ったがどうも様子が違う。まさか女神様?
「私が貴方の努力を称え、誰よりも強力な魔力を授けましょう」
「い、いいのか女神様!?」
つい動転して敬語とタメの混ざった変な話し方になってしまった。でもこれなら俺もこの学校のトップ、否、この世界の支配者にだって……!
「リアリティーが無いです。持てる魔力量は生まれつき決まるものであり増える、増やせるものでは無いと思います。こんな事したら魔力が爆発して……」
突然賢者が呟いた。
「ラノベにリアリティーを求めたら負けだよ。ていうかそれは本全般に言えることだと思う」
「すみません、あまり架空の物語は読まないものですから」
想像してた通り賢者は本と言ったら図鑑とか魔導書しか読んでないらしい。どおりでなにかが抜けてると思ったら……。
というかこの本の主人公、何で一回『平均』と言いかけたんだ。なんて言うつもりだったのかがめちゃくちゃ気になるじゃないか。言いかけたなら全部言ってほしい。
あれから私は賢者の話を意識して聞くようになった。その結果もう一つ気が付いたことがある。
彼は一人称を使わないのだ。むしろ使わないから不自然な話方になっているときすらある。なんだろう、一人称にコンプレックスでもあるのかな。それとも単にその話し方が習慣化してるとか? だとしても何故……?
考えれば考えるほど謎は深まるばかり、だけどこんなこと聞くのもかなり変な人だと思ったらどうにも聞き出せずこんなところまで来てしまった。私の軟弱者。
馬車屋の馬車に乗って次の国へ向かうことになり、今日で三日目。
初日はまだ海が見えていたけれど今はもう全く見えない。今思うとせっかく海の傍に行ったんだから何か遊んで来ればよかったとちょっと後悔だ。まあ、水着を着たとしても美女に劣等感を感じるばかりだと思うけど……。
「おじさんすみません、あとどのくらいで到着…………あれ」
操縦席に座っていた馬車屋のおじさんはいつの間にかいなくなっていた。代わりに美女が操縦している。
「美女? おじさんは……」
「おじさんなら寝てるよ。ホントのこと言うと気絶してるだけだけど」
……えっ? 気絶っておじさん何があったの。
「猫が突然ビーム放つもんだから。見事に命中しちゃって」
「なっ……猫」
猫まさか力無き一般人に手を出すとは。そんな卑怯者だったのか。
「おい語弊があるぞ! 目が覚めたら水の底で窒息しかけたんだ、パニックにもなるっつの。お前ら俺を殺す気だったのかよ!」
びしょ濡れの猫が現れた。
ああ、なるほど。これは間違いなく賢者だな。
てか今更だけど猫の生命力は異常な気がする。干物にされてたのに水に浸したら治るって最早それ生物じゃないよね。あ、魔物か。
でも少なくともその生命力が賢者に目を付けられているせいでこういう目に合ってるのも事実。そろそろ不憫になってきたから止めようかな。
「ところで次に行く国ってどんな所なんだろう」
「確か火山の国? だっけ。火山の中に国があるとか?」
美女それまさか本気では言ってないよね。
「火山の国というのは火山に近いからであって中に住んでいるわけではないです」
賢者が言うと美女は意外そうな顔。ほ、本気では言ってなかったんだよね……?
火山の国。
この国は独特の文化で有名な国で、冒険者なら一度は訪れたいと言われている観光名所の一つでもある。昔は龍がいたという伝説もあるが、百年ほど前に旅人によって倒されたため今はいない。賢者情報。
龍ってそんな攻撃的だったんだ。イメージと違う。
昔は暇さえあれば本ばっか読んでたから完全にフィクション脳になってるんだな私。しかし現実は魔王討伐に向かってるという異常事態、いつかフィクションと区別がつかなくなりそうでなんか怖い。
「あ、見えてきたよ! でっかい山! あれが噂の火山かな」
操縦席から美女が声を上げた。
「火山……って案外ごつい見た目でもないんだ」
思ってたよりのどかな感じの山が向こうの方にそびえたっていた。
「って……あ、あれ? あの山の上でうごめいてるのって……」
「魔女ちゃんどした? 何か面白いものでも…………あっ、あれ龍じゃん!」
山の上でうごめくもの。居るわけが無い、無いけどそうとしか思えない見た目だった。
「龍が復活……まさかアンデットですか」
賢者は妙に冷静な反応。アンデットって……つまりあれは魔物?
でも魔王が現れたのは最近、百年前の龍のことなんて知らないはず。
と言っても龍が居るということ紛れもない事実なのだ。この後どういう展開になるのか、そろそろ私には想像がつく。
「よし、あれ倒しに行こう! そして伝説に残るぞっ!」
「賛成です。アンデットの生態には興味があったので丁度良かったです」
「うん、言うと思ったよ。まあ私も賛成だけど」
私は完全にこのメンバーの色に染まってしまったらしい。こんなにあっさり伝説級の魔物を倒しに行こうだなんて……。
さっきまで地平線しか見えなかった所に木で作られた赤い門が見えてきた。確かに独特の建築。
火山の国では面白いものが見つけられるかもしれない。
【 第二部 名無し 】
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