第40話 権利行使
「……………」
有名探索者を輩出する倉岡家の当主である与一。
その与一から指導を受けるはずだった幸隆と亜美だが、ダンジョン内で起きた異変によって急遽中止になってしまった。
翌日、月曜日の昼休み、幸隆のスマホに与一から連絡が入った。
放課後に倉岡家に来て欲しいという連絡で、何やら話したいことがあるらしい。
そして、放課後になり、幸隆は亜美と共に倉岡邸へ向かった。
幸隆は二度目となる訪問だが、初めて来ることになった亜美は、門の前で固まっていた。
「……アホ面になってるぞ」
「はっ! ご、ごめん」
幸隆の言葉を受けて、亜美はようやくフリーズ状態から解放された。
そうなる気持ちも分からなくない。
二度目とは言っても、幸隆もまだ慣れていないからだ。
今では国にとって重要な資源となっている魔石。
ダンジョン内の魔物を倒してその魔石を手に入れる探索者は、危険仕事ということもあってかなりの高給取りだ。
ダンジョン創成期から多くの探索者を輩出しているような家となると、それだけかなりの資産があるということなのだろう。
昔、ダンジョンができる前は無名だった町が、魔石マネーで大発展。
今では地価も上がり、これだけの敷地の邸となると、十数億はくだらないだろう。
自分たちのような一般の高校生がそんな邸に入るなんて、緊張しない方がおかしい。
◆◆◆◆◆
「ダンジョンの急成長……ですか?」
「あぁ、そうか……」
邸に入り、出迎えてくれた家政婦さんに前回きた時と同じ部屋に案内された幸隆は、亜美と並んで与一の対面にあるソファーに座る。
そして、2人は与一から昨日別れた後の説明を受けた。
しかし、聞いたことない言葉に、2人は首を傾げる。
その反応で、授業では教えられていない言葉なのだろうと、与一は判断した。
「ダンジョンは内部で死んだ生物を養分にしている」
与一の言葉を、2人は頷きで返す。
入試問題としては出ないが、探索者を目指す者なら知っていて当然の知識だからだ。
ダンジョン内で死んだ生物の死体は、約30分くらい放置されると消え去る。
それはダンジョンが養分とするべく取り込むからだ。
その養分を使用して、ダンジョンは内部に魔物を生み出すと言われている。
「取り込んだ養分は、魔物だけに使用されているわけではなく、成長にも使用している」
与一が言うように、ダンジョンは取り込んだ養分全てを魔物を作り出すために使っているわけではない。
ダンジョンが地下へと広がるためにも使用されている。
そのことは、ダンジョンができて70年近くで証明されている。
創世記にダンジョンの外から下層内部へと進入できないかを試したところ、様々な手を使用しても不可能だった。
しかし、そのことがすべて無駄だったわけではなく、ダンジョンの最下層が年々深くなっていっていることが判明されたのだ。
「取り込んだ養分のうち、数十年ため込んだ養分を成長に一気に使用して急成長する」
「あぁ……」
「それでダンジョンの急成長……」
「その通りだ。私たちが言っているだけだがな」
ダンジョンが取り込んだ養分を常に全部使用しているかなんて、はっきり言って誰にもわからない。
もしかしたら、緊急時のために残しているのではないか。
例えば、最下層にあるとされるダンジョン核に危険が迫った時、強力な魔物を生み出すために残しているのではないか。
そして、今回のように、急成長するために残しているのではないか。
など、色々な説が学者の中で広まっていた。
与一たちの間では、あながち間違いではないのではないかとされているようだ。
自分たちが授業で教わっていないのは、あくまでも説ということであって、証明されていないからだろうと、幸隆と亜美は納得したように頷いた。
「この70年、50層以下に進んだ人間はいない。そのため、今回のことでダンジョンの変化を調査しないといけない」
前回の時のように、単純に地下へ伸ばしたというだけかもしれないし、魔物の強度を変化させたのかもしれない。
つまり、急成長といっても、ダンジョンがどこを、どう変化させたのか分からないため、探索者の安全のために自衛隊による調査が行われるそうだ。
「短くて10日前後は進入禁止だな」
「……そうですか」
「……しかたないですね」
今では自衛隊員の多くは探索者資格を有しており、国防に大いに貢献している。
もしも、日本に敵意ある国からミサイルが発射されても、魔石を使用した魔術によって、発射国にミサイルを送り返すことも簡単だ。
魔石という資源とともに強力な防衛能力を得たことで、日本はそれまで以上の平和を手に入れたのだ。
その魔石が手に入るダンジョン。
異変が起きた時のため、探索者資格のある自衛隊員を集めた部隊も存在している。
その部隊が、内部調査に入るようだ。
そのせいで、一般探索者はしばらくダンジョンに入れなくなるらしい。
与一の言葉により、幸隆と亜美は進入禁止を受け入れざるを得なかった。
「しかし……」
「「……?」」
一般探索者の進入禁止。
当然高校生の幸隆たちも同じだ。
それなのに、何かまだあるかのような与一の言葉に、幸隆と亜美は首を傾げた。
「今回の調査に、アドバイザーとして倉岡家元当の私が参加することになった」
「はぁ……」
探索資格のある自衛隊員部隊でも、創成期からダンジョン内に潜っているような人間はいないため、経験不足が不安になる。
その不安を取り除くためか、どうやら与一が一緒に調査に向かうことになったようだ。
理由は何となく理解できたため、幸隆はあいまいに返事をして話の続きを待った。
「その権利を使って、弟子を1人連れていくことにしたから、君にはついてきてもらう」
「え゛っ?」「えっ?」
弟子として連れて行く人間として自分が指さされて驚く幸隆と、危険かもしれない場所に幸隆が連れていかれることを不安に思った亜美。
与一の発言に、幸隆と亜美は思わず固まった。
「君も50層以下を目指すつもりなのだろ?」
「は、はい!」
下層の魔物の魔石ほど多くの魔力を内包しており、大金で国に売ることができる。
そのため、探索者は日々より下層を目指して頑張っている。
幸隆にもその思いがあるが、彼の場合それだけではない。
松本稔の作り出した謎多きゲームを攻略するためにも、実力を上げないといけない。
そのことが分かっているため、与一も自分を連れて行くつもりなのかもしれない。
そう感じた幸隆は、戸惑いつつも返事をする。
「じゃあ、ついてきな」
「……はい!」
与一としても、ゲーム攻略によって松山からダンジョン攻略のヒントとなるようなものが手に入るのではないかという思惑がある。
そのためにも、幸隆を連れていき強化するつもりだ。
危険なことは分かっているが、それくらいしないと50層の壁は越えられないのだと、幸隆は与一の誘いに力強く返事をしたのだった。
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