第22話 東郷戦②
「ハッ!!」
「っと!」
魔力を使用しての身体強化。
それによる急接近からの攻撃。
しかし、東郷が繰り出す拳や蹴りは、空振りになるばかりで幸隆には当たらない。
「くっ!!」
「フッ!」
前後左右に動き回り、幸隆は攻撃を回避する。
攻めている東郷の方が、それに翻弄されているようだ。
「くっ!! 何で魔力を使っていない奴に……」
一番納得いかないのは、幸隆が魔力を使用していないことだ。
攻め続けているのに、全然攻撃が当たらない。
まるで先読みをしているかのように、攻撃が躱されている。
最初のうちは自分の癖でも読んでいるのかもしれないと思ったが、フェイントを織り交ぜても躱され続けることは理解できない。
「くそっ!!」
このままでは、魔石の魔力が尽きるばかり。
考えた東郷は、一旦攻撃をやめて策を練ることにする。
だからと言って、攻撃を躱される理由が分からないため、思わず苛立ちが口から洩れた。
「ふっ!」
「っ!! 何がおかしい!?」
試合開始前は、試合を見に来ていた女子たちに笑顔を振りまいていたのに、今は完全に余裕が消えて焦っている。
その様子に、幸隆は小さく吹いてしまった。
余裕で勝てると思っていた相手に笑われたため、東郷は更に苛立ちを募らせつつ幸隆へ向かって問いかける。
「魔力を使っていない訳じゃないぞ……」
「何っ!?」
戸惑っている東郷の疑問に、幸隆は答えてあげることにした。
その態度も余裕ぶっているように見えるのか、東郷の苛立ちは治まらない。
「使っているけどお前が気付いていないだけだ」
「……なん…だと?」
魔力を使用して身体強化をしている東郷。
その東郷の猛攻に対し、魔力を使用しないで回避することなんて、幸隆には出来ない。
当然、魔力を使用しているのだ。
「お前の接近や攻撃に合わせ、最小限の魔力で身体強化して回避していたんだ」
幸隆は、魔力を使用せずに東郷の猛攻を回避し続けていた訳ではない。
現実世界とゲーム世界は、同じようだが少し違う。
ゲーム世界では、どこでも体内の魔力を使用することができるのだが、現実世界ではダンジョン内でないと体内の魔力を使用することはできないのだ。
そのため、ダンジョン外で魔力を使用するとなると、倒した魔物の体内から採り出した魔石を使用するしかない。
永田と試合した時と同じように、お互いに渡された魔石の魔力量は、平等を期すために同一になっている。
同一ならば、魔力の使い方で勝負することになる。
一気に決着を付けるために、全魔力を使用するのも手だが、幸隆は自分の得意な方法で勝利を得ることを選択した。
それが、永田の時と同じように、先に相手の魔力を無駄に使用させ、魔力量的に有利な状態で攻勢に出る方法だ。
「……そんな、馬鹿な……」
種明かしを聞いた東郷は、信じられないというかのような表情で幸隆を見つめた。
「……どうやら、退学撤回で良さそうですな」
「……そ、そうですね」
東郷とは違い、教頭の春日部は幸隆が何をしているのかを理解していた。
そのため、幸隆の退学の話を撤回する方へ決定したように呟く。
その呟きに、学年主任の山口も同意を示す。
「それにしても、すごいな……」
自身もダンジョンに入っていた経験のある春日部は、幸隆のおこなっていることに感嘆の言葉を呟く。
わざわざ確認する必要なかったのではないかと思えてくるほどのことが、目の前で繰り広げられているからだ。
『全くだな。高校生レベルでここまで出来るなんて……』
教頭の呟きに対し、たまたま近くにいた審判役の鈴木も心の中で同意した。
幸隆がおこなっている魔力操作の技術は、この学園の卒業間近の3年生の中でも、一部の人間しかできない技術だ。
探索者は、ダンジョン内の魔物を倒し、その体内から魔石を取り出し、その魔石を売ることで収入を得ている。
下層へ進むほど、魔物の強さは上がっていく。
魔物を倒すためには、魔力の使用が必須。
ダンジョンの内外では、体内か魔石のかの違いがあるが、魔力を使用することには変わらない。
体内のであろうと、魔石のであろうと、魔力の量には限界がある。
必要な分を必要なだけ使用することは、探索者としては重要な技術だ。
それが1年生で使いこなせているなんて、とんでもないことだ。
『いくら河田がコントロールが得意だったって言っても、半年間魔力を使えなかったのにあり得ないだろ……』
事故に遭う前、幸隆の魔力コントロールの技術は高かった。
担任だからということもあり、そのことは把握していた。
元に戻れないと思っていたところで、急に魔力が使えるようになったことは喜ばしいが、いくら何でも東郷に勝つのは厳しいと思っていた。
事故に遭ってから半年間、幸隆は魔力を使用することができなかったことが理由だ。
しかし、ふたを開けてみれば、事故前のレベルの技術に戻すどころか、それ以上にとんでもなく成長していた。
それもたった1週間でだ。
成長するにしても桁違いの速さに、鈴木も戸惑っていた。
「ふざけるな!!」
半年魔力を使用できなかった人間が、たった1週間で自分以上の魔力コントロールをしているなんて信じられない。
というより、納得ができない。
幸隆の言っていることを受け入れることができない東郷は、我を忘れて襲い掛かってきた。
「このっ!! このっ! このーーっ!!」
「……そんな大振りじゃ当てられるわけないだろ?」
接近して、左右の拳を振り回す東郷。
冷静だった試合開始時でさえ通用していなかったというのに、そんな攻撃が通用するわけがない。
そんな事も分からなくなるくらい、東郷は我を忘れているようだ。
スイスイと攻撃を躱しながら、幸隆は東郷に指摘した。
「ハァ、ハァ……」
息継ぎなしで2、3分全力で拳を振り回し、全部の攻撃が躱された東郷は息を切らす。
「魔石の魔力使いすぎだろ? 痛い目に遭う前に諦めたらどうだ?」
「………うるさい」
「なにっ?」
少しずつとはいえ、東郷は身体強化に使用していた。
それもあって、搭後の持つ魔石の魔力残量はもう少ないはず。
魔力を使い切れば、余裕のある自分は好きに攻撃ができる。
永田と同じ様に殴られたくなければ、負けを認めるように幸隆は忠告する。
しかし、その言葉に対し、永田は一段低くした声で返して来た。
「てめえごときが、俺を見下してんじゃねえ!!」
「っっっ!?」
忠告を聞き入れるどころか、東郷は怒りの声を上げる。
それと共に、尽きたと思われた魔力が噴き出した。
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