第21話 東郷戦①

「「「「「頑張って!! 東郷く~ん!!」」」」」


「ありがとう!」


 女生徒から黄色い声援が上がる。

 それに対し、声をかけられている東郷は手を振って返した。


「……何だよ? これ……」


 客席を見て、幸隆は思わず呟いた。

 学校側が幸隆の退学を取り消すために、昔のように魔力を使いこなせているかを確認することになった。

 そのために、放課後に東郷と試合をおこなうことになったのだが、訓練場にある観客席は満員になっており、半分以上は女子生徒が占めている。

 亜美には教えていたので、客席に居ても不思議はない。

 しかし、ただの試合だというのに、何で他に客が入っているのだろうか分からない。


「ちょっと話しただけなんだけど、こんなことになっちゃって何だか悪いね」


「……いや、別に……」


 まるで、「こんなことになるとは思っていなかった」とでも言うかのような口調だが、まんざらでもない様子。

 どうやら、このような状況になっているのは東郷のせいのようだ。

 そんな東郷の態度に、幸隆は「取り巻きの女子に話せば、こうなることが分かっていただろうが!」と突っ込みたくなる気持ちを抑え、気にしていないように返答した。


「思っていた以上に人気あるんだな……」


 原因は分かった。

 しかし、東郷が女子人気が高いことは分かっていたと言っても、ここまでとは思ってもいなかったため、幸隆は予想以上だったことに少し面食らった。


「……あっ! そう言えば……」


「んっ?」


 少しの間幸隆を見つめていた東郷は、何かを思いだしたように話しかけてくる。


「1学期の時の成績は、君に負けていたんだっけ……」


「……そうだっけか?」


 魔術の背席に置いて、東郷は入学してからずっと学年で上位に位置している。

 1学期の中間・期末の時もそうだが、そのすぐ上に幸隆がいた。

 当然覚えているが、幸隆は覚えていないように返答する。

 その返答に、東郷の頬が僅かに動いた気がした。


「魔力が使えるようになったみたいだけど、半年成長していないんだから負けるつもりはないよ」


 永田との試合の時は、幸隆が魔力を使えないと思っていたために、魔力の使用配分なんて考えなかったがための結果だ。

 しかし、自分は幸隆が魔力を使えるようになっていることが分かっている。

 そのため、自分は永田のようなバカなことはしないと、東郷はわざわざ教えてきた。


「そうか……」


 たしかに、半年近くの間魔力を使えなくなっていたのだから、他の生徒のように成長していない。

 十代の年齢の時期は、特に魔術師として成長が著しい。

 そのため、全く練習出来なかった幸隆と東郷では、かなりの差が開いていることは分かり切っていることだ。

 当然自分が勝つと思っている東郷の発言に対し、幸隆はまたも素っ気ない対応で返した。

 その対応に、東郷はまたしても頬が動いた。


「そろそろ始めるぞ」


「はい」「……はい」


 幸隆と東郷が話をしていたところへ、担任の鈴木が声をかけてきた。

 授業の時のように、彼が審判役をおこなうようだ。

 鈴木の出現により、ふたりは会話をやめて別々の方向へと離れていった。






「ルールは分かっているな? いつものように、危険と判断したら俺が強制的に止めるからな」


「うっす」「はい」


 試合のルールは永田の時のように、魔石の魔力が先に尽きたら負け。

 それまでに、相手にある程度のダメージを与えた方の勝ち。

 相手を死に至らしめたり、再起不能になるような攻撃は無し。

 そうなりそうになったら、審判の鈴木が止める。

 何度もおこなっているため、ふたりとも鈴木の確認に返事をする。


「それでは……」


 開始線に分かれた幸隆と東郷。

 そんなふたりを確認し、


「始め!!」


 鈴木は試合開始の合図をした。


「ハッ!!」


 開始の合図と共に、両者距離を取る。

 そして、東郷が先に動いた。

 魔石から取り出した魔力で野球ボール大の魔力球を作り、幸隆へと放つ。

 放出系の攻撃が苦手な永田と比べると、同じ魔力球でも全く異なるものだ。

 魔力を溜めて発射するまでの速度、そして威力がだ。


「おっと!」


 自分に向かって来る魔力球を、幸隆は左に跳ぶことで回避する。


“ドーンッ!!”


「「「「「おぉっ!」」」」」


 幸隆が躱した魔力球がそのまま飛んで行き、壁に当たって大きな音を訓練所に響き渡らせる。

 その音の大きさから、かなりの威力が察せられる。

 当たれば一発で試合終了というような威力の魔力球を、あっという間に作り出した東郷の魔力操作技術に、観客からは感心も含んだどよめきが起こった。


「さすが東郷家だな……」


「そうですね……」


 東郷家は、ダンジョンができてから有名になった一族のひとつだ。

 その跡継ぎとなるであろう東郷修治は、その名に違わぬ実力を示したことに唸る教頭の春日部に、学年主任の森山も同意する。


「ハッ!!」


「くっ!!」


 初撃を躱した幸隆に対し、東郷は接近する。

 まるで、最初からこちらへ跳ぶように誘導したかのようだ。

 接近しての右ストレートに対し、幸隆は頭を屈ませて回避する。


「フンッ!!」


「ぐっ!!」


 頭が下がった幸隆に、東郷の左アッパーが迫る。

 その攻撃を右腕で防いで、距離を取った。


「へぇ~……」


 半年間の成長の差は明白のため、東郷は一気に片を付けるつもりでいたのだが防がれてしまった。

 予想以上の幸隆の反応速度に、東郷は目を見張った。


「危ね……」


 東郷から距離を取った幸隆は、アッパーを受け止めた右手を振る。


『口だけじゃないだけに、面倒な奴だな……』


 近・遠距離でも問題なく、魔力を使用しての攻撃・防御がバランスよくできる。

 顔だけで女子にワ―キャー言われているという訳ではなく、学年上位の実力は本物だ。

 かなり鋭い攻撃だったために、幸隆も少し慌てていた。


「どうした? このままじゃ負けるよ?」


「まぁ、別に勝てなくてもいいんだけど……」


 担任の鈴木からは、この試合は勝敗ではなく、幸隆が魔力が使えるようになったかを確認するためのものだと言われている。

 そのため、幸隆としては、勝てようが負けようが関係ない。 


『まぁ、負ける気もないけど……』


 退学を撤回させるために、幸隆は魔力が使えるようになったことを教師陣に見せなければならない。

 そのためには、当然勝った方が良い。

 勝てなくても良いという気持ちは本当だが、だからと言って幸隆は負けるつもりはない。


「勝たせてもらうよ!」


 先程の攻撃で倒せなかったからと言って、別に戸惑うことではない。

 このまま何もさせないで勝つ。

 そんな思いの東郷は、またも幸隆よりも先に攻撃を開始した。


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