第20話 二桁

「ㇱギャーーー!!」


「おっと!」


 身長1mくらいの小鬼。

 ゴブリンが棍棒を手に襲い掛かってくる。

 幸隆は上半身を後ろにそらすことで、その攻撃を回避した。


「このっ!!」


「ゲギャッ!?」


 攻撃を躱されたゴブリンは、体勢が崩れている。

 その隙を逃さず、剣で斬りつけた。

 幸隆の袈裟斬りによって体を斜めに斬り裂かれたゴブリンは、大量の出血をして倒れ、動かなくなった。


「フゥ~……」


 ゴブリンが死んだことを確認した幸隆は、大きく息を吐いて肩の力を抜いた。


「問題ないな……」


 足下に転がっているゴブリンの死体の数は8体。

 これら全てをひとりで倒した幸隆は、剣に付いた血を拭って鞘へと戻し、満足そうに呟いた。


「やっぱり慣れないな……」


 ナイフを使い、幸隆は倒したゴブリンの体内から魔石を取り出す。

 その作業をおこなう幸隆は、眉間に皺が寄っている。

 ゴブリンが魔物だと分かっていても、人の形に近いため、解体するのは気分が良くない。

 そのため、幸隆は思ったことが口から出ていた。


「さて、次行くか……」


 ゴブリン8体の魔石を取り終えた幸隆は、先へと進むことにした。

 幸隆が今いるのは、ゲーム内の搭の中だ。

 退学を白紙にしてもらうために、幸隆は東郷と試合をおこなうことになった。

 担任の鈴木からは、「魔力が以前のように使用できることを示しさえすれば良い」と言われたが、何もできないで負ければ本当に退学しないといけなくなるかもしれない。

 そうならないためにも、幸隆は金曜の夜から月曜の朝までの時間を利用して、能力を向上しておこうと考えたのだ。

 どうせ、ゲームクリアを目指しているんだし、ゲームの攻略を進めることもでき、一石二鳥といったところだろう。


「っ!!」


 魔力を薄く延ばし、それに触れた生物の存在を感じ取る。

 探知術と祝えている技術だ。

 その探知術を使用して塔の内部を進んでいると、幸隆は魔物が潜んでいるのを発見した。


「またか……」


 周囲を見渡している所を見ると、魔物の方は幸隆の存在に気付いていないようだ。

 これなら、こちらは不意打ちで攻撃ができる。

 ただ、状況としては良いのだが、その魔物が問題だ。

 そこにいるのが、ゴブリンだったからだ。

 幸隆の探知に引っかかっているのは7体で、1体だけ棍棒を持っている。

 先程も言ったように、魔物だから倒すことに躊躇したりはしないが、魔石を取り出す時の不快感を思うと、あまり遭遇したくない相手だ。

 そのため、幸隆はゴブリンの姿を見て、嫌そうな呟きをしたのだ。


「仕方ない……」


 倒しても魔石を取り出さなければ、不快な思いをしなくて済むのだが、搭の攻略を進めるうえで必要なものがある。

 それは武器だ。

 幸隆が今使用している剣は、何とか手に入れた安物で、耐久性が心許ない。

 ゲーム攻略のために上の階へと向かうのなら、もっとちゃんとした武器が必須となる。

 少しでも速くそういった武器を手に入れるためにも、ゴブリンの相手をしなければならない。

 そのことが分かっているからこそ、幸隆は嫌々ながらもゴブリンを倒すため、その場から飛び出して行った。


「シッ!! ハッ!! セイッ!!」


「ギャッ!!」「ガッ!!」「グエッ!!」


 ゴブリンたちからしたら、丁字路に近付いたら角から急に敵が出現し、そのことに驚く間もなく攻撃を受けたと言ったところだろう。

 不意打ちは成功し、幸隆は3体のゴブリンを斬り倒した。


「「「「ギッ!?」」」」


 仲間をやられて、残りの4体は驚きの声を上げ、幸隆を睨みつけた。


「遅い!!」


「ギャッ!!」「ゲウッ!!」


 睨んだところで、体勢が整っていない。

 その隙を逃さず、幸隆は距離を詰めて2体を斬った。


「ギッ!!」


「フンッ!」


 残り2体になった所で、ゴブリンが動く。

 棍棒を持っていた1体が、幸隆に殴りかかってきた。

 武器を持っていたことから、このゴブリンが隊のリーダーなのだろう。

 しかし、所詮武術を学んでいない攻撃が通用するわけがなく、幸隆は余裕でその攻撃を躱した。


「ハッ!!」


「ギャッ!!」


 リーダーらしきゴブリンの攻撃を躱した幸隆は、そのままもう1体のゴブリンとの距離を詰める。

 そして、その勢いのまま剣で袈裟斬りにした。


「残りはお前だけだ」


 6体を倒した幸隆は、残りのゴブリンに剣先を向ける。


「ギッ、ギギッ……」


 仲間があっという間に倒され、自分だけになってしまった。

 敵の強さに恐れを抱いたゴブリンは、棍棒を幸隆に向けているものの、じりじりと後退りをした。


「ギッ!!」


「っ!!」


 少しずつ後退し、距離ができたことを確認したゴブリンは、持っていた棍棒を幸隆へと投げつける。

 そして、それを合図にするように、背中を向けて走り出した。


「逃がすか!!」


 投げつけられた棍棒を避けた幸隆は、右手を逃げるゴブリンの背中へ向けて構える。

 そして、魔力を手に集中させ、球状にして発射した。


「ガッ!!」


 幸隆の手から発射された高速の魔力球が、逃げるゴブリンの背中に直撃する。

 それによってゴブリンは吹き飛ばされ、前のめりに転んだ。


「ハッ!!」


「ゲギャッ!!」


 魔力球を発射した幸隆は、転んだゴブリンに迫る。

 そして、距離を詰めると、起き上がろうとするゴブリンに剣を振り下ろした。

 その攻撃により、腹を斬り裂かれたゴブリンは、大量の出血と共に悲鳴を上げて、少しすると動かなくなった。


「フゥ~……」


 ゴブリンの群れを倒し、幸隆は息を吐く。

 そして、解体用のナイフを手に、ゴブリンの体内から魔石を取り出し始めた。






「あった!」


 魔物を倒しながら先を進み、幸隆は上の階に向かうための階段を発見した。


「これで二桁突入だ」


 この階段を上ると10階に入る。

 幼馴染の亜美のパーティーは、現実のダンジョンでは二桁階層に突入できるレベルまで進んでいた。

 しかし、呪いによって魔力を使用できなかったため、自分は一生その階層に向かうことなんてできないと思っていた。

 上下の違いはあるが、ようやく亜美と同じレベルにまで到達できたという思いから、ようやくの二桁に、幸隆はテンションが上がっていた。


「よーし!! っと……」


 このままの勢いで階段を上り、10階に突入しようとした。

 しかし、そこで幸隆はゲームマスターの松山の言葉を思い出した。

 その言葉とは、「死なない程度に頑張れ」というものだ。

 死んだら家のリビングに転移され、自分の死体が転がっているというスプラッターな光景が展開されることになりかねない。

 そんなことにならないように、幸隆は上がっていたテンションを落とし、冷静な気持ちで階段を上っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る