第15話 容疑者

「……という感じです」


「そうか……」


 授業開始日を終え、帰宅した幸隆はゲーム世界に入る。

 そして、今日起きた永田との試合の事を、ゲームマスターの松山に報告した。

 ゲーム世界での拠点となる家にはヘルプ機能があり、それを使うと松山と会話ができる。

 そのことに気付いてから、幸隆は彼と何度か話をしていた。


「魔力が使えるようになったので、退学が再検討してもらえそうです」


「おぉ、良かったな」


 魔術の授業で永田と試合をした時、幸隆が魔力を使用したことを確認した担任の鈴木が、退学を白紙にするように動いてくれると言ってくれた。


「理由が理由だったので、それが解消されたのなら退学しないで良いはずだと掛け合ってくれるそうです」


「いい担任に恵まれたな」


「はい」


 幸隆が退学しなければならなかったのは、事故によって魔力が使用できなくなったからという理由だ。

 その理由が無くなったのだから、退学する必要はないはず。

 そう言った説明をすれば、学校側も首を縦に振るしかないと鈴木は言っていた。

 そもそも、探索者を目指すにもかかわらず魔力が使えない自分が、3月まで学園に居られるように引き延ばしてくれたのは鈴木が動いてくれていたからだ。

 そんな彼が言うのだから、任せておけばきっと退学の話はなくなると期待している。

 松山の言うように、去年は不幸まみれだった自分だが、担任には恵まれたようだ。


「退学問題のことはひとまず置いておこう。その後のことはどうなった?」


「そうですね」


 幸隆が学園を辞めないで済むのは良いことだが、それはそれとして話を変える。

 ヘルプ機能を使用して松山と話をするのもそれが本題のため、幸隆もそれに応じた。


「残念ながら、授業後に怪しい言動をしたのはいませんでした」


「そうか……」


 本題とは、魔術の授業後のクラスメイトの反応だ。


犯人・・を絞り込めないままか……」


「えぇ……」


 松山と話し合っていたのは、犯人・・を見つけ出すということだ。

 何のかと言うと、幸隆に呪いをかけた犯人のことだ。

 呪いをかけるには、対象者の情報となる物が必要になる。

 髪などの体毛、汗や唾液などの体液、言うなれば遺伝子情報だ。

 強い呪いをかけようとするのなら、その情報量は多い方が良い。

 つまり、幸隆に呪いをかけた犯人は、幸隆の体毛や体液を入手しやすい人間に限られて来る。


「俺に掛けられた呪いは、かなり強いものだった。そのことを考えると、それができるのは同じ学校の人間。その中でも同じクラスの者が有力」


 この世界の神父やシスターが言っていたように、自分に掛けられた呪いはかなり強力なものだった。

 そのため、解くのにかなりの金額を必要とした。

 それだけ、自分の遺伝子情報を入手していたということ。

 学校内でも同学年、それも同じクラスの人間こそが自分に呪いをかけた容疑者だ。


「容疑者から除外できているのは17人のままか……」


 幸隆のクラスの人数は、男女15人ずつの30人。

 その中で容疑者から除外できているのは、幸隆が言うように17人だ。

 まず、最初に除外したのは亜美だ。

 彼女が自分を呪う理由がないからだ。

 次に除外したのは、亜美のパーティーメンバーである大窪・高尾・若山の3人だ。

 亜美を通してだが悪くない関係を築いていたため、彼女たちにも呪う理由がないはず。

 

「今日の相手は、可能性は低かったんだっか?」


「はい」


 今日試合をした永田とそのパーティーメンバーである田中・増田だが、自分に呪いをかけた可能性は少しあった。

 というのも、永田が亜美に気があるのが分かっていたからだ。

 田中・増田もそのことを理解していたため、永田がすることを放置している所があった。

 しかし、永田が行き過ぎないように抑えていたことからも、2人とも常識のある方だ。

 永田に呪われる可能性はあったとしても、田中と増田には呪われるとは思えない。


「強力な呪いをかけられるほど金持ちじゃないですから……」


 もしも永田が犯人だとして、近接戦闘タイプの永田は呪いをかけられるような能力を使えるとは思えない。

 だとすれば、呪術師に頼んだということになるが、ダンジョンができてから法律が改正され、人間に呪いをかけることは違法となっている。

 もちろん違法と分かっていても、呪いをかけて捕まる人間もいる。

 そういった者たちが依頼を受けて呪いをかける場合、依頼者に大金を要求する。

 危ない橋を渡るのだから当然のことだ。

 そうなると、一般家庭出身の永田がそんな大金を用意できるとは思えないため、犯人の可能性は低く見ていた。

 同じく一般家庭出身という理由から、相川・三上・野上・後藤・佐藤の女子5人、広岡・大山・那須・江藤・瀬川の男子5人も除外できる。


「残り13人か……」


 容疑者はまだ13人で、その中でも可能性の高い・低いがある。

 犯人が分かっていない以上、また呪いをかけられる可能性がある。

 そうならないためにも、今後もその13人には注意を払わないといけないようだ。

 そう思うと、学園内では気が休まりそうにない。

 退学問題が解決しそうなのに気が重いままだ。


「まぁ、犯人のことは気になるが、呪いをかけられても弾き返せるように強くなればいい」


「……そうっすね」


 ようやく魔力が使えるようになったのだから、今度は呪われないようにするしかない。

 そのためには、常に実力を付けるしかない。


「搭に入るのか?」


「えぇ、折角だから利用しないと」


「そうか」


 解呪のことでずっとバイト三昧だったが、このゲームのクリア条件は塔の攻略だ。

 本当に呪いも解けたことからも分かるように、このゲーム世界で実力を付ければ現実世界で呪いをかけられないようになる。

 才能のあるもの以外が入ることのできないゲームという話だが、折角選ばれたのだからクリアを目指してみることにした幸隆は、今日から少しずつ搭の攻略を開始することにした。


「最初に説明したように、死なないように気を付けろよ」


「はい」


 この世界で実力を付ければ、それは現実世界でもそのまま生かせる。

 それはかなりのメリットだが、もちろんデメリットも存在する。

 この世界で死ねば、現実世界での死になるということだ。

 ゲームのように死んだら教会で復活して、「死んでしまうとは情けない」なんて、神父に言われることもない。

 気を付けないと、自宅のリビングに死体で転がっているなんてことになりかねない。

 そのことはゲーム開始時に説明をしていたが、松山は念のため幸隆に忠告した。


「それじゃあ」


「あぁ」


 そうと決まれば早速と、幸隆は松山との会話を終了し、ヘルプ機能を解除した。


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