第4話 説明①

「力がない?」


 幸隆の言葉に、松山は首を傾げる。

 まるで、「何を言っているんだ?」と言うかのようだ。


「このゲームはある程度の才能がある人間を呼び寄せるようになっているはずなんだがな……」


「えっ?」


 松山の呟きに、幸隆は若干の喜びと共に反応する。

 自分には才能があり、選ばれた人間なのではないかと思えたからだ。

 しかし、その思いはすぐに萎れる。

 今の自分のことを考えると、そんなわけがないと思えてきたからだ。


「う~ん。どういうことだ?」


「……自分で言うのもなんですが、才能があるだけで選ばれたとかじゃないんすか?」


「あぁ、なるほど……」


 魔術が使用できない幸隆が選ばれるなんて、イレギュラー過ぎる。

 そのことに疑問に思っている松山に、幸隆が申し訳なさそうに考えを告げた。

 松山は、ダンジョンができた初期に有名になった探索者だ。

 その時に作り上げたゲームということもあり、かなりの年月が経っている。

 そのため、ソフトに仕込んだ魔術が正常に働かず、才能は有っても力が使えなくなっているということは見抜けなかったのではないか。

 その幸隆の予想に、松山は一理あるのではと頷いた。


「……というか、ゲームでレベル上げて意味ないんじゃ……」


 このゲームをプレイすれば、ゲームでは大郷ダンジョンの50層付近の魔物を倒せるようになる。

 それはそれで面白そうだ。

 しかし、所詮ゲーム内で力をつけた所で、現実社会では意味がないと幸隆は考えた。


「あぁ、伝え忘れた。この世界でレベルを上げれば、現実世界のレベルも上がるようになってるから……」


「…………はっ? 何言ってるんすか? そんな事できるわけないじゃないっすか」


 松山は思い出したように軽い口調で告げる。

 それを聞いた幸隆は、一瞬固まった後、矢継ぎ早に話しかける。

 あまりにも常識外れのことを、松山が当然と言うかのように告げたからだ。

 ゲーム内だけでも無双状態になりたいと思うから、ゲームを楽しむのだ。

 いくらダンジョンができて、様々な魔術を使用する人間が出現したからと言って、ゲームと現実では隔たりがある。

 それなのに、ゲーム内で成長すれば現実に反映されるなんて、常識的に考えられない。


「できるよ。ゲーム内で死んだら死んじゃうし……」


「…………えっ? ちょ、ちょっと待ってください!」


「うん?」


 あくまでもゲーム内のことと話を聞いていたのに、色々とおかしな発言が返ってくる。

 そのおかしな点の説明を求めた質問に対し、松山はまたも軽い口調で重要なことを告げてくる。

 頭の中でそれを整理するために、幸隆は一旦話を止めた。


「ゲーム内で死んだら、現実の俺も死んじゃうんすか?」


「死ぬよ。正確に言うと、この世界で死んだら現実社会に死体が戻るって感じだな」


「えっ……?」


 このゲームで力をつければ、現実の自分も力を手に入れられるなんて、そんな嬉しいことはない。

 しかし、ゲームと現実は違うという常識が、松山の発言を否定する。

 「そんなバカな」という思いと共に、幸隆は松山の本気度を確かめるために質問する。

 それに対し、松山は真面目な顔で返答してきた。

 あまりにもあっさりとした返答のため、逆に自分が不思議に思っている方が間違っているのではないかと思えるほどだ。


「ゲームスタートと共に、君の体ごとゲーム内に転移させた。だから、ここはゲーム内でも君にとっては現実と同様の世界だということだよ」


「……え? え~と……」


 情報を整理することに必死なのに、松山はこっちのことはお構いなしに次々とツッコミたくなるような説明をしてくる。

 なんとか理解しようと、幸隆は頭をフル回転させる。


「……つまり、漫画やラノベの異世界…みたいなことっすか?」


「まぁ、そうだね」


 本当かどうかの確認は二の次として、幸隆は松山の説明をひとまず受け入れることにした。

 そうして出した考えを尋ねてみると、どうやら正解らしい。


「過去にこのゲームをプレイした者の中には、無茶なことをして死んだ人間もいる。作った側の人間とすると、若者がそうなるのは忍びない。だから君は死なないでくれよ」


「……は、はぁ~……」


 過去のことを思い出すように話す松山。

 その真剣でどこか悲し気な表情を見ると、本気で言っていることが窺える。

 このゲーム内の世界と現実が繋がっているということが、まだ本当のことなのか実感が湧かない。

 そのため、幸隆は曖昧に返事するしかなかった。


「さっきの話に戻ろう。今から君の状態を見させてもらう」


 説明をひとまず終えた松山は、懐からタブレットのような物を取り出す。

 ゲームを開始する前に、先程幸隆が言った力が使えないということが本当かどうか確認するつもりようだ。

 そして、そのタブレットのカメラレンズを幸隆の方へと向けてきた。


「……鑑定っすか?」


「その通り」


 タブレットで撮った写真をアプリで解析して、探索者の能力を数値化するのだろう。

 探索者の能力などを見るために、現実世界でも同じように鑑定するため、松山が何をしようとしているのかすぐに察する。

 確認のためにふと出た幸隆の質問に答えるのと同時に、松山が持つタブレットからシャッター音が鳴った。


「現実で最近も鑑定したけど、何の異常もありませんでしたけど……」


 少し前に現実で鑑定した時、異常なしと出ていた。

 期間もそれ程開いていないのにまた鑑定したところで、同じ結果が出るだけだ。

 力が戻るという望みをなくした幸隆からすると、鑑定するのは構わないが、時間の無駄ではないかと思える。


「あぁ、これは特別製で……ブフッ!!」


「……えっ?」


 幸隆の言葉に答えながら、松山はタブレットを操作する。

 そして、その途中でいきなり吹き出した。

 突然の反応に、幸隆は首を傾げる。


「クックック……」


「……何なんすか?」


 吹き出したと思ったら、今度は肩を揺らして笑う。

 その態度が何だか自分が笑われているようで、幸隆としては不愉快だ。

 そのため、幸隆はちょっとムッとした表情で、笑い止まない松山へ理由を尋ねた。


「ハハッ! これ見ろ! その方が速い」


「…………」


 笑いが止まらず説明するのが困難だと判断したのか、松山はタブレットを幸隆に渡してきた。

 その態度に呆れつつ、幸隆はジト目でタブレットを受け取る。


「……なん…すか? これ……」


 自分のステータスを鑑定して、何がそこまで面白いのか。

 その疑問の解消をするため、幸隆はタブレットの画面に表示された文字に目を落とした。

 タブレットに表示された自分のステータスを見た幸隆は驚き、言葉を詰まらせつつ松山へと説明を求めた。


「いや~……、ギャグ漫画じゃあるまいし、まさかゲーム開始前から呪われてる奴が来るなんて初めてだよ」


 タブレットの画面に表示されたステータスには、どうやら幸隆が呪われていることを示していたようだ。

 これまでこのゲームをプレイした者たちの中に、このようなことは初めてのこと。

 あまりのことに思わず笑ってしまった松山は、目に浮かんだ涙を指で拭いつつ、幸隆の疑問に答えた。


「……の、呪われてる?」


 これまで何度鑑定しても、異常なしという結果が返ってきた。

 そのため、探索者としての力が使えないのも、事故による後遺症なのではないかと結論付けられた。

 原因不明の状態のまま事故前の力が取り戻せず、とうとう今日は今年度中に高校をやめなければならないことを告げられた。

 最悪とまではいわないが、分かっていたとは言っても気落ちしていた所で、その原因が呪われている可能性があると分かり、幸隆は色々な感情から頭が真っ白になった。


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