第5話 説明②

「おいっ! お~い!」


「…………はっ!」


 目の前で手を振る松山。

 幸隆は少しして、それに反応した。


「相当ショックだったようだけど大丈夫か?」


「……は、はい……」


 知らなかった事実を知り、幸隆は少しの間フリーズしていた。

 松山も流石に心配になったようで、笑いも止まって真面目な表情に変わっている。

 どうにかフリーズは解けたが、混乱状態なのは変わらない。

 幸隆は松山の問いかけに反応するが、表情が全く合っていない。


「まぁとりあえず、その呪いをよく調べてみよう」


「……お願いします」


 説明の続きをしたいところだが、幸隆はちゃんと聞ける様子には見えないため、松山は幸隆の気持ちを考えて、彼にかけられている呪いがどんなものなのかを調べてみることにした。

 どうやら、それもタブレットで調べられるらしく、松山は手の平を上に向けて腕を伸ばしてきた。

 そのため、幸隆はタブレットを松山へ返す。


「う~ん……」


 返してもらったタブレットを操作して、幸隆にかけられた呪いの詳細を調べる松山。

 その間も幸隆は頭の整理をしようと、ジッと足下を見つめている。

 そして、少しの沈黙の間の後、松山は何か理解したように声を漏らした。


「呪いの説明をしても大丈夫か?」


「……はい。大丈夫です」


 呪いの詳細が分かったらしく、松山は幸隆の様子を窺うように問いかける。

 その問いに顔を上げて返事をした幸隆の表情を見て、少しは元に戻ったように思えた松山は、分かったことを説明をすることにした。


「君にかけられている呪いは、弱体化と言ったものだな。簡単に言うとレベル1状態に固定されて、どんなに魔物を倒そうが努力をしようが、成長できないって所だな」


「弱体化……」


 松山はひとまず大まかに説明した後、もう少し詳しく続きを話す。

 その説明に、幸隆は納得いったように頷き、小さく呟いた。

 交通事故前の状態に戻るために自分がどんなに頑張ろうと全く何の変化もなかったのは、この呪いによって引き起こされていたのだと理解した。


「あの……」


「ん? どうぞ……」


 呪いに関して疑問があるのか、幸隆は小さく手を上げる。

 それを、松山は質問を許すように手招きする。


「……その呪いって、交通事故を呼び起こしたりする類の力が働いていたりするんですか?」


 呪いと聞いた時、幸隆の中には色々なことが頭をよぎった。

 そのなかの1つである、力が元に戻らず成長しない理由は分かった。

 もう1つが、もしかしたらその呪いによって、力を失う事故そのものも引き起こされたのではないのだろうかということだ。


「…………」


 もしも、事故の原因がこの呪いによるものだとしたら、両親が死んだ理由は自分のせいかもしれない。

 答えを知りたいが、その答え次第ではきっと自分は相当な衝撃を心に受けることになるだろう。

 質問し終えた幸隆は、深刻な顔をして無言で俯いた。


「いや、この呪いにそんな効果はないな」


「……そう、ですか……」


 松山の答えを聞いて、幸隆は心の底から安堵する。

 両親の死に、自分は関係していない。

 力が使えなくなったことなんかより、幸隆としてはそのことが重要だったからだ。


「交通事故って聞いたけど、どんな事故だったんだ?」


「……運転手が心臓発作を起こして、操作不能のまま走行した車が自分と両親に突っ込んで来たんです。それで両親は……」


「……すまん。辛いことを聞いた」


「いえ……」


 その事故の内容が気になった松山は、何となく事故のことを問いかける。

 自分のせいではないと分かり安心していたからか、幸隆は掻い摘んで事故の内容を話した。

 幸隆から返ってきた答えを聞いた松山は、単なる好奇心から聞くようなことではなかったと、申し訳なさそうに謝った。

 その反応が返ってくるとある程度分かっていたため、幸隆も首を横に振って気にしなくていいというジェスチャーをした。


『人為的なものの可能性は完全には否定できないな……』


 幸隆はそれほど応えていない様子。

 そのことは良しとして、松山の中にはまだその事故のことが気になっていた。

 幸隆にかけられた呪い。

 それが事故の前か後かまでは分からない。

 どちらにしても、かけられた呪いに関しては関係ないことは言える。

 しかし、事故を起こしたの方は無関係だか分からない。

 もしも、最初の事故で幸隆の命を狙っていたとしたら、事故を起こした運転手の方になにかしらの呪いをかけていたかもしれない。

 その可能性が頭に浮かんだが、もう半年前の事故。

 運転手の死体等を調べるにしても、火葬されているため調べようもない。

 あくまでも憶測なだけで、このままではゲームの説明がいつまで経っても終わらない。

 そう考えた松山は、幸隆に伝えることはせず、その疑問を呑み込んだ。


「ゲームの説明に戻ろう」


「あっ、はい……」


 松山の言葉に、幸隆はハッとしたように頷く。

 学校をやめなければならないと決定するまで、ずっと悩み続けていたことが解決したことで忘れていたが、自分はゲームをするためにここにいることを思いだした。


「最初に言ったように、このゲームはTorre、つまりは搭を攻略するゲームだ」


『あぁ、Torreって搭って意味なんだ……』


 幸隆の状態のことで話が逸れたため、松山は最初から話し始めることにしたようだ。

 そんな中、幸隆はゲームタイトルの意味を今理解した。

 それを思わず口に出しそうになるが、松山の話をまた止めることになりそうなので、頭の中だけに抑えた。


「搭を中心として、周りには町が広がっている。そこで武器や防具なんかを整えて攻略を目指してくれ」


「はい」


 松山の説明で容易に想像つく。

 その点は、過去のゲームにありそうな設定だ。


「ここから重要な注意点。これもさっきも言ったように、ここはゲーム内と言っても現実に繋がっている世界だ。死んだらそこでお前の人生は終わりだ。それと……」


 ゲームの中であっても、現実世界とつながっている。

 いまだに信じられないが、試してみれば済むこと。

 黙って聞いている所から、幸隆が理解していると判断して、松山は話を進める。


「ここの空間は違うが、転移した先の世界では時間の流れが違う」


「……えっ?」


 またも衝撃的な発言に、幸隆はまたも驚く。

 現実と繋がっているのに時間の流れが違うなんて、想像していなかったからだ。


「この世界の1日は、現実世界の72分になっている。現実世界の1日を分にすると1440分だから、計算すると現実世界の1日でこちらは20日経過するってことだな」


「1日で20日……」


 たしかに普通のRPGゲームでは、1日の経過が速い。

 それと同じような設定にしているということなのだろうと、幸隆はとりあえず納得する。


「さっきも言ったよう、ゲーム世界は現実世界とつながっている。ゲームを攻略をしたいからといって長時間プレイしていると、一気に老けるぞ」


「えっ? ……あぁ、そうか」


 先程の説明から、このゲームを1日プレイしたとすると、20日分老化しているということだ。

 数日の差だが、それが積み重なれば月単位・年単位の差へと変わる。

 時間経過による肉体変化も現れてくるため、プレイするなら当然その点も警戒しないとならないかもしれない。


「まぁ、呪われたままの君が搭に入ったらすぐに死ぬだろうから、まずはその呪いを解いてからにしろよ」


「……はい」


 今の幸隆は呪いによって弱体化している。

 それが解かれない状態では、現実でもゲームでもまともに戦えない。

 まずは事故に遭う前の状態に戻すことが重要だと分かり、幸隆は松山の言葉に頷いた。


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